明日


 社会人になって3ヶ月が経った。長野から上京をした僕は、今は大手の食品メーカーで仕事をしている。毎日が忙しいし、終電で帰ることなんてしょっちゅうだ。一人暮らしを始めて1ヶ月は自炊をしていたけど、今はスーパーでお惣菜を買ったり、コンビニで弁当を買うのが当たり前のようになっていた。朝起きて、仕事して、帰宅して適当にご飯を食べて寝る。その繰り返しだった。そんな生活を続けていると、自然と自分の将来のことなんて考える気力すらなくなってくる。そんなある日、仕事が終わって家でご飯を食べている時だった。
「お米ある?食料品とか、何か必要なものある?」
夜11時、母親からLINEがきた。文章のあとに、動物が首を傾げて?マークが頭に浮かんでいるスタンプが3つも送られてきた。僕は買ってきたコンビニ弁当の箸を止め、「大丈夫です」
という一言だけ返信をして、またご飯を食べ始めた。この前買ってきたお米も全然余ってるし、冷蔵庫に食料品が無くても、適当に買ってしまえば済んでしまう。だから大丈夫。

「いや、大丈夫なんかじゃない」

 いつからだろう、自分一人さえよければいいと思い始めたのは。学生生活?大学受験?就職活動?社会人になってから?一人でもやっていけるって、なんで決めてしまったんだろう。本当はできないくせに。しかし、困った時に頼ることができない環境が、時代が、今が悲しい。
「って、誰も助けてくれないんだけどな」
食べ終わった弁当の容器をゴミ箱に捨て、テレビを見始めた。だけど、どれもつまらなくてすぐに電源を切ってしまった。なんかもう自分の見るものに新鮮味がなくて、それにさっき食べた弁当も美味しく感じられなかった。生きてる心地がまるでなかったからだろう。
「はあ」
ため息をついて、スマホを手に取った。ホーム画面にはLINEの通知が2件。
「また母さんからだ」
画面を開くと「やっぱいいや、週末あんたの家行って掃除とか洗濯とかするね。どうせやってないだろうし」という文と、今度は『GOOD』という文字と女の子が親指を立ててサインをしているスタンプが1つ送られてきていた。
「結局か」
面倒だなと思ったけど、悪い気はしなかった。
「明日も頑張るかー」
そうつぶやいてから部屋の電気を消して、布団に入った。

明日を少しでも良い一日にするために。


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