【小説】消える白い部屋

気がついたら、其処にいた。

四方八方、壁も天井も床も、嘘みたいに真っ白だった。
どこにも出口は見当たらない。
小さな、真っ白な部屋。いや、部屋というより、空間という感じだった。


そこに私は立っている。ひどい孤独感に支配される。
ひとつだけ、正面に小さな丸い小窓が付いていた。
そこから覗くと、外に何人か人がいるのが見えた。
楽しそうにはしゃいでいるように見える。
だけど声は聴こえなかった。

こちらの声も聴こえないかも知れない、それでも彼らに助けを求めて、ドンドンと小窓を叩いて叫ぶ。すると、彼らはこちらに気づいた様子だった。しかし、私を無視して、すぐにまた自分たちだけで遊び始めた。
私は必死に助けを求めて、小窓を叩いて叫び続ける。

「お願い、たすけてください、ここから出られないんです!」

彼らはたまに私の方を見た。だけど助けようと動いてくれる様子はなく、顔を見合わせて笑っていた。そしてまた、彼らだけで楽しそうに遊びはじめる。


そんなことを何回繰り返しただろう。助けを求めるのにも疲れて、途方に暮れていると、異変に気づいた。
部屋が、空間が、狭くなっている。真っ白な壁や天井が、なんとなく迫ってくるのが感じとれるのだ。
このままこの空間が狭くなり続けたら、私はどうなってしまうのだろう。私は恐怖する。焦燥感が身体全体を駆け巡る。
私は必死で小窓にすがりつき、再び救援を乞う。
泣きながら叫んだ。


「お願いです!たすけてください!このままでは死んでしまう!聴こえてるんでしょう!?」

彼らは小窓に近づいてきた。そして、苦しんでいる私の姿を見て、この世で一番おもしろいものを見たように笑った。
構わず私は助けを求めたが、私が必死になって泣いて叫ぶほど、彼らは腹を抱えて笑っていた。
一人が、私の方を指差す。なにか口を動かしている。


「ば」
「あ」
「か」
「死」
「ん」
「で」
「し」
「ま」
「え」

口の動きは、そう言ってるように見えた。
彼らは代わる代わる、小窓に張り付いては同じ口の動きを繰り返した。
絶望的な気分に支配された。
空間はどんどん縮まってきていた。


急激に身体が凍りつくように冷たくなってきた。この空間が寒いのか、身体の中が冷えているのか、それすらわからないまま、震えが止まらない。息もうまくできない。

なにもわからない。

怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう死んでしまう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


なにもかもわからない、死んでしまうってなんだ?なにが死んでしまうんだ?自分?自分って誰だ?ここはどこだ?なんでこんな目に遭ってるんだ?身体?身体ってどれだ?ないよ?そんなものどこにもない!笑ってるあいつらが嗤ってる窓の向こうで私を嗤ってる私?私ってだれ?この部屋?この空間が私?


そっか。出られないんだ。最初から、ここで、潰れるためだけに、用意されたんだ。
いなくても、いっしょなんだ。
きえちゃって、とうぜんなんだ。


空間はもう、張り付くようにそばに在った。目の前は、真っ白で、真っ白なのが、目の前なのかはわからない。目なんてあったのかな。何を見てきた、誰が居たのかな。


「ぷちっ。」

その音は、誰にも聴こえず、鳴ったのかどうかすら、誰にも知られず。小さく、どこかで、響いて、きえた。


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