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【本】[第五章 食蓮人たち] 『ユリシーズ 1-12』(ジェイムズ ジョイス、柳瀬 尚紀 (翻訳)/河出書房新社)

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。

引き続き『ユリシーズ 1-12』の5章を読みました。

今回の章タイトルは「食蓮人たち」…? 
これまでのような、カタカナ固有名詞じゃありませんね。

しかし、調べたところ、これまたオデュッセイアつながりでした。

〇食蓮人たちについて

「食蓮人たち」とは、オデュッセイアに出てくるロードパゴス族のことです。彼らは、ロートスの木というナツメに似た木の果物を食べて暮らしています。このロートスの果実は、あんまり美味しくて、俗世のしがらみを忘れてしまうほどなのです。

漂着したオデュッセウスは、部下二人?を斥候に出したのですが、いつまでたっても帰ってきません。部下たちは、ロードパゴス族と出会い、ロートスの果実を食べて、オデュッセウスの命令も故郷もすっかり忘れてしまっていたのです。このまま定住したいと言う部下たちをひきずって、オデュッセウスは急ぎ出航したのでした。

…いつかは『オデュッセイア』も真面目に読みたいですね。

ロートスに蓮の意味が混ざっているようです。インターネットですぐに調べる環境が無かった昔の西洋人たちが、東洋的イメージの蓮に託して、食べたら面倒くさいことを全部忘れる魅惑の果実を夢みる気持ちはわかる気がします。

そういえば、『Lemon』で一世を風靡した(している)米津玄師の数多くの名曲の一つ『感電』の歌詞にこういうのがあります。

 ♪肺に睡蓮
  遠くでサイレン
  響き合う境界線♪

肺に睡蓮なら、ボリス・ヴィアンの『日々の泡』です。
どうやら、ボリス・ヴィアンが『日々の泡』を書く前から西洋では、蓮は現実逃避願望の象徴で、このオデュッセウスの物語に由来があったということでしょう。
こんな風に現代日本とオデュッセウスがつながっていると分かるのも楽しいですね。

〇第五章 食蓮人たちの感想と粗筋

1904年6月16日、時刻は午前9時40分~10時5分
場所は、リフィー川南岸の船寄通りから下町の駅などなど。
登場人物は、ブルーム氏、マッコム、バンタム・ライアンズとあります。

時間は、二章でスティーヴンが、学校で子供たちに授業をして、それから給料をもらうあたりとちょうど同じ頃ですね。

さて、ブルーム氏は舟寄通りを歩いています。友人ディグナムの葬儀は11時の予定です。それまで時間つぶしですかね。
ブルーム氏は商品の宣伝文句をチェックする癖があるようです。いつもトム・カーナンの紅茶を買っているようです。お葬式で会える人なのかな。
暑い日です。帽子を脱いでそこに隠していたカードを取り出します。

セイロン紅茶の宣伝文句を読みながら、連想しています。
「陽光の中でのらくら暮らしのセイロン住民」「一年の六カ月は寝て暮らす」って、ちょっと偏見がひどすぎやしませんか。当時の西洋人の南の国の人々への理解ってこんなものだったのでしょうね。
植物園の温室にタイトルを連想させる「睡蓮」がでてきます。

フリーマンとは新聞ですかね。折りたたんだり丸めたりする。
郵便局へ入り、私書箱宛ての手紙を受け取ります。帽子に隠していたカードは私書箱用のIDカードだったんですね。怪しい。
私書箱宛先のヘンリ―・フラワーって、ブルーム氏の偽名かしら。ますます怪しい。
大英ダブリン歩兵隊の規律がやり玉に挙げられている。

郵便局を出て手紙を開いて読もうとすると、知り合いのマッコイに話しかけられて、早く手紙を読みたくてじりじりするブルーム氏。

マッコイとの話も上の空で、ホテルに寄せられた二輪馬車に注目するブルーム氏は、二輪馬車の女性とちょっと目があっただけで、女性は「いつもほかの男を物色して。」
この当時の女性がそういう傾向にあったのか、ブルーム氏がそういう思い込みが激しいのか。まだ判断がつきません。
その女が動き出す時、ストッキングの足をチラ見せするであろう一瞬を、電車に邪魔されて見損ねて、落胆してぽかんとしてしまい、さすがにマッコイにも不審がられてブルーム氏はごまかします。

マッコイの妻もブルーム氏の妻とおなじ歌手なのかもしれません。ブルーム氏に言わせれば格が違うのでしょうけれど。

サンディコウヴの溺死事件があって、死体があがる見込みのようです。9日たつと上がってくる場所があると一章で言っていましたね。(そういえば、その説明の言葉は、二章の仁助の言葉に似ています。)

だらだらしゃべり続けるマッコイは、さらに記帳をブルーム氏に頼みます。日本のお葬式と同じ様にアイルランドも記帳するようです。

そしてマッコイは、旅行鞄を借りたら返さない癖があるらしく、ブルーム氏は貸して! と言われないように予防線を張っています。

「天然痘がはやっているというけど、もうおさまるだろう。」という独白にアッと思いました。この当時だって、人類と疫病の戦いがあったんですね。衛生観念も無かっただろうし、特効薬も無かっただろうし。

またまた、ハムレットの話が出てきます。
そういえばハムレットは、お母さんを寝とられてしまった息子の話とも読めます。一方、オデュッセウスの妻ペネロペは、夫の不在中も知恵を尽くして寝とられないで済んだ女性ですね。

「ラケル」が太字になっているので調べました。なんだか、性格が良いのに苦労ばっかの女性のようです。

兄エサウから逃れて伯父ラバンの元へ来たヤコブはラケルを見初め、約束の七年間を働いて結婚したところ、花嫁は姉のレアでした。(花嫁すり替え事件!)伯父に言いくるめられてヤコブはさらに七年働いてラケルをめとります。でもラケルには子どもができませんでした。婚期を14年も父と姉に遅らせられられたら、そうなりますよね。そこで、夫に女奴隷を差し出し二人の子どもを産まます。やがてラケルにも子供ができて、ヨセフと名付けます。

その後、エサウと和解したヤコブは、一家でベツレヘムへ向かう途中にラケルは難産で亡くなる。男の子はヤコブにベニヤミンと名付けられた。
…つくづく、苦労ばかりの人生ですの。

エサウといえば、豆スープ一杯で家督を弟に譲ったと言われる兄ですが、そんな人の空腹時の口約束を盾にして、兄のふりをして死ぬ間際の父親をだました息子がヤコブです。要するにどっちもどっちです。
ヤコブ一人の物語として眺めれば、兄を騙して、伯父に騙されて、いわゆる因果応報で帳消しになるまでの物語なのかもしれません。だけど、ラケルは誰のことも騙したりしていないのにね。

「可哀そうにおやじ!あんな死に方をして!」 と突然入るのが、これがブルーム氏の思い出したくない記憶の一つなのでしょうか。

マッコイと別れて、ブルーム氏はようやく物陰で手紙を読みます。読むとニタニタ笑ってしまうから、一人になれるところをさがしていたんですね。
マーサと言う女性からのラブレターで、同封されていて、ずっと気になっていた何かは、ピンでとめてある黄色い押花でした。ピンと手紙をちぎって道にまきちらして証拠隠滅。

諸聖人教会に入るブルーム氏。「若い女のとなりに座るにはもってこいの場所なんだが」って、こういうところでちょくちょくナンパしているのでしょうか。

献金を払わないですむように。ミサの途中で出て、薬局へ向かいます。
「15分過ぎ」って言葉にひっかかります。でも10時15分ということはジョイスの時間設定の範囲外なので、無いと思います。9時40分から15分すぎたという意味なんでしょうか。

薬局で石鹸を買って出ると、バンタム・ライアンズと出会います。ブルーム氏の持っている新聞の競馬記事を読みたい様子。賭け馬を決める手掛かりが欲しいようです。急いでいるのでブルーム氏は新聞を押し付けてまいてしまおうとします。
バンタム・ライアンズと別れたブルーム氏は石鹸を持って、角の風呂屋へ向かいます。

この風呂屋はタオルの持参は不要なのに、石鹸は必要なんですね~。石鹸が高級品だからかしら、個人の石鹸の好みがそれぞれ確立しているからかしら。
日本の銭湯みたいな大きな湯舟ではなくて、一人湯舟なんですよね。

〇気になった言葉など
・コーニーて誰でしょう
・アイルランドとイングランドの関係を調べないと。アイルランド人で構成された、大英ダブリン歩兵隊の立場って、微妙なのでは。
・ピョンピョコって誰でしょう
・1904年のアイルランドにはもう電車が走っていたのでしょうか。路面電車かな。
・ベルファーストは北アイルランド最大の都市
・デニス・ケアリー アイルランド人にはよくあるなまえっぽい

 
〇まとめ
誰が食蓮人なのか? と考えると、例えば、ブルーム氏の妄想で、南の国でぐうたらに暮らす人々。借りたものを返さない男、賭け事にはまっている男、宗教にはまっている男女、道ならぬ恋愛をする男女。
まぁ、そんな感じでしょうか。
ブルーム氏から見てば、ブルーム氏の規範からずれている人なのでしょう。
でも、ブルーム氏だって、他人のことをそんなにとやかく裁けるタイプではありませんけれどね。

■本日の一冊:『ユリシーズ 1-12』(ジェイムズ ジョイス、柳瀬 尚紀 (翻訳)/河出書房新社)

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