プロ野球におけるクオリティスタート(QS)の基準を再考する

序文:
先発投手の成績を評価する際に、しばしばクオリティスタート(QS)というものが用いられる。この指標は、1985年に提唱された指標であり、先発投手が6イニング以上を自責点3以下で投球した際に送られる称号である*。さらに厳しい指標として、7イニング以上を自責点2以下で投球することをハイクオリティスタート(HQS)と呼ぶこともある。これらはMLBで提唱された指標であり、日本では先発投手のローテーションの間隔(日本は一般的に中6日に対してMLBは中4日)、球数(MLBは100球を目処とするがプロ野球は100球以上投げることが多い**)や一試合平均得点等が異なることから、異なる指標を用いた方が良い可能性がある。このことについて検討し、日本におけるQS及びHQSの基準を提唱することをこの文章の目的とする。

前提知識:
MLBにおけるQSを参考にする上で、先発投手がQSした際のチームの勝率をいくつか調べたところ、次のようなサイトがヒットした。
https://insider.espn.com/mlb/insider/columns/story?columnist=neyer_rob&id=2407313
こちらのサイトは古いが、古いだけにQS提唱当初の勝率がわかる。1985年および2005年の先発投手がQSした際のチームの勝率は、それぞれ67.3%と67.4%であったという。
https://www.baseballessential.com/news/2015/06/05/quality-quality-start/
こちらのサイトは少し新しいデータ。2015年のQSにおけるチームの勝率は.686であり、1985年、2005年と大きく変わらない。
検索には2021年度はQSの勝率が54.5%だという記事もヒットしたが、有料だったため読めなかった。しかし、この記事はQS+という新しい基準を提唱する記事だったため、MLBでもQSの基準を変えよう、という提案だと思われることから、あまり気にしすぎないことにする。

*Wikipedia参照
**一般に書かれていることであり、プロ野球でも中5日など短い間隔で投げる例もある。MLBについては著者は詳しくなく、伝聞であるため現実が異なるようであればご教授願いたい。
***例えば、2022年4月26日時点において、セリーグの一試合平均得点は3.78点であるのに対し、大谷翔平のエンゼルスの所属するア・リーグ西地区の一試合平均得点は4.38点であり、0.6点ほど高い。

手法:
2022年度の開幕から4/28までの約一ヶ月間のセリーグの記録を著者が手動でExcelに打ち込み、そこからデータを解析することとした。なお、投高打低が叫ばれているパリーグと異なり、セリーグの今シーズンここまでの一試合平均得点は3.78点であり、昨年度のセリーグの一試合平均得点3.75点と対して変化はない。また、手打ちであるため多少の打ち込みミスのある可能性は否定できない。

結果:

  1. 得点数から考える
    今季のセリーグのここまでの試合における得点の分布を図1に示した。ここまでのセリーグの平均得点は上述の通り3.78点であるが、これは大量得点の試合や0点の試合などにより引っ張られた数字である可能性がある。このため、分布を確認すると、最頻値は3点であり、右に裾の長い分布となっている。また、得点の頻度を考えると、3点以上入る頻度は62.7%、2点以上入る頻度は74.7%であり、QSおよびHQSの2点から3点、という数値は比較的的を得た値であることがわかる。仮に勝ちパターンと呼ばれるリリーバー達が無失点で抑えることが前提であるならば、6回3失点でまとめれば今季は62.7%の試合では引き分け以上、46.2%の試合では勝ちに持ち込めたことになる。一方で、当然勝ちパターンの投手が失点する可能性や、6イニング終了時点においてはより少ない点数しか味方が援護できていないであろうことを考慮すると、6回3失点は少し多いかもしれない。

図1


2. ここまでのQSと勝率の関係について

次に、ここまでの6回、7回まで先発投手が投げた際のチーム及び投手の勝利について次の表1で見ていくことにする。左から順に、今季それを達成した回数、及び頻度、そして勝ち投手になった割合、その際にチームが勝利した割合、また先発投手が負け投手になった割合をまとめた。

表1

まず一番上の段のQS時だが、チームの勝率は63.6%と、存外高いことがわかる。これは初めに示したQS提唱当初の1985年のMLBのQS勝率.673より少し低い程度の値となる。一方で、二段目のHQSの際にはチームの勝率は77.5%とかなり上昇する。この際負け投手になる確率はたった7.5%であり、HQSで負け投手になった際にはかなりの不運であったと言える。このため、筆者としてはHQSの数値はこれでいいのではないかと考える。
一方で、QSについては少し検討したい。というのも、QSしたところで先発投手に勝ちがつく可能性は53.4%であり、QSしたところで2回に1回の確率でしか勝ち投手になれない、というのは個人的には少し低い、と感じるためだ。また、QSの投球の頻度は55.7%と半数を超え、平均的な投球である感が否めない。ということで、少し厳しい条件として、投球回あるいは失点の基準を変えた6回2失点と7回3失点を見てみることとする。
基準を6回2失点とすると、先発投手に勝ちがつく確率は59.2%と6%程度QSの時より上昇する。またチームの勝率も70%となる。負け投手になる確率も6%程度低下した12.7%となり、負けた際のタフロスである感が強くなる。
一方で7回3失点とすると、先発投手の勝利率、チームの勝率共に上昇するが、実はチームの勝率自体は6回2失点と大差がないことがわかる。これは、セリーグにおいては7回3失点で投球を続けるためにはそれ以上の得点を味方が取っていない限りは代打等で投手交代してしまうためではないかと考えられる。また、7回3失点の基準を満たす投球の割合は30.4%と、HQSの25.3%にかなり近い頻度まで減ってしまい、QSとHQSの差が見えにくくなると思われる。

結論:
このことから、筆者は6回2失点をQS、7回2失点をHQSの基準とするのが良いのではないかと考える。

終わりに:
どこかに先発投手の投球回と失点、勝ち負けをまとめたデータがあればよかったのだが、筆者の調査不足かもしれないが見つからず、データのサンプルサイズの小さな解析であるため、シーズンを通して見た際に異なる結果となっている可能性がある。しかし、初めて自分なりに解析をして楽しかったのも事実である。また何か面白い種があれば試してみたい。

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