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Ep.3 「死にたい」と言われたら


これは、夢追いアラサーがとあるクリエイターと半同棲を始めたら後悔だらけの毎日になった、という話。


何度かごはんに行った。
何度か家にも泊まった。
でも別に恋仲ではない。
わたしはただ仕事をつないでもらうことしか考えてなかった。

(…あれ?これまくらえいぎょ……)

そしてLINEも続いている。
電話も毎日かかってくる。

出なきゃいいだけなんだけどね。
仕事がね。(しつこい)

LINEの内容は、他愛もない話のときもあるけど、
だいたい彼の「死にたい。つまらない。孤独だ。」というつぶやきを励ますのがほとんど。

別にね、普段から鬱々としてる人ではないんだ。
むしろどっちかっていうとオラついてて、いけいけどんどーん!なパワフルな印象さえある人。

ただ、家族ともちょっと距離があって、
孤独とたたかってきた人。

彼はわたしより年上で、
去年まで同棲していた彼女がいたらしい。

その期間、5年。

いやー…なんていうか、ねえ。

わたしは結婚とか家庭とか考えずにやりたいことだけ求めてきた人間だけどさ、
結婚を考えていた人にとって、この年齢で5年同棲してダメだった、っていうのはなかなかにダメージでかいと思うのよね。

最後の方はめちゃくちゃギスギスしてたらしいし、彼の話しか聞いてないから何がどうなってうまくいかなかったのかもよく分かんないけど、
指輪も渡して、婚姻届も書いたらしい。
彼女さんはめちゃくちゃかわいかったし、お金が全然ない中で献身的に支えてくれた、と。
でもうまくいかなくて、最終的に彼女が指輪を置いて出て行ってしまった。
(話聞いた限り圧倒的に悪いのは彼の方なんだけどね!)

その後数回だけ手紙のやりとりで、
「私の気持ちは5年前から変わっていません」
と書かれていた、と。
もちろん彼も未だに好き。

………これ、わたしどういう顔して聞いたらええの…?

「あきらめないでアタックし続けましょうよ!」
…ちがうか。

「他にも可愛い子いますって!」
…ちがうよな。

ずっと続く、「死にたい死にたい」。
当たり障りのない偽善的な言葉でなんとか返す。
こういうのよくないよなーと思いながら、LINEを切る気にもなれず。

(…まあちょっと腹立ったことを言わせてもらうと、「可愛い子はもう席が埋まってる」とか「可愛い子はこんなLINEに返事なんかくれないよ」とか言うんだよね〜〜〜へへへ。こんにゃろう。わたしだって仕事がなかったら…!…なんちて)

まあでも、電話の声は普通のテンションに聞こえるし、冗談とかも言ってくるし、あんまり深刻には考えてなかった。

けど、ある日の電話で。

「もう本当に無理。死ぬ準備始めた。自殺なんて今時珍しくないし、俺ももう死ぬわ。りとちゃんも結婚しといた方がいいよ。俺みたいになったら死ぬしかなくなるよ。声優のこと応援したかったけど、ごめんね。頑張って。」

って言われて。

声もいつもと違う。

いやいや、またまた〜。
そんな簡単に死なないよ。
大丈夫大丈夫。

今日天気悪かったからちょっと気持ち落ち込んでるだけですって、大丈夫!明日面白い話題仕入れておくんで、また電話してくださいね!おやすみなさい!

なんて適当なこと言って切る。

正直ちょっと怖かった。
死にたい死にたいっていう人が、日に日に元気なくなっていく。

…全然関係ないけど、
わたしは幼馴染を1人自死で亡くしている。
しばらく連絡とってなかったし、そのときどんな生活してたのかも全然知らないけど、
何か…何かできることがあったんじゃないか。
死ななくても、何か他の手があったんじゃないか…
何もわからないまま、そんな気持ちが消えずにいる。

この人はなんとなく死にたいって言ってるだけだ、と思っていたけど
日に日に元気がなくなっていくのを聞いていると、どうしてもモヤモヤしてくる。

まあでも、簡単に死にそうな人でもないし、大丈夫っしよ!
と思って、眠りにつく。

…いったん寝たら目覚ましスヌーズ5周してもなかなか起きれないわたしが、
この日は1時間おきに目が覚めた。
吐きそう。気持ち悪い。

LINEが途切れたあと、わたしから送ったことはないけれど
「おはようございます!」
「仕事行ってきますねー!」
LINEしてみる。

返事はない。

仕事中、気になって何度もLINEを見る。

返事はない。

もし、もし………
このまま本当に、死んじゃったらどうする……?

いやいや、死なないって、大丈夫!

……でも、もし………


仕事中なのに、涙が溢れてきた。

やばいと思ってすぐ休憩に入ったけど、動悸がとまらなかった。

ええ…いつの間にこんなに気にしてたの…
ただ仕事のためにつながっただけじゃないか…

いや、ただ人が死ぬということが怖いだけ…


まあ、しばらくしたら普通に返事きたんですけどね!!

涙返せばかたれ!!!


こんなに緊張した1日ないわ!!と怒りと呆れと安堵でぐちゃぐちゃになりながら、帰ってからまた電話する。

まだ元気はない。

今やりたいことなんなんですか?やりたいことやりましょうよ!
って、また無責任なこと言ってみる。

そしたら、返ってきたのが、

「え?結婚」

どストレートなお答えいただきました。

後から聞いた話、この4月で彼女さんが出て行って1年になるらしい。
そりゃおセンチにもなりますわな。

マッチングアプリやりましょう!
結婚したいだけなら、とりあえず誰でもいいじゃないですか!嫌だったらすぐ別れちゃえばいいし!
アプリだとほら、結婚したい人ばっかりがやってるからマッチ早いって聞きますよ!

わたしの超適当カウンセリング再開。

もちろんこんな言葉に「そうだな、やってみるか!」となるわけもなく。

「アプリはブスとバカしかいないから無理」

こんなこと普通に言っちゃう人です。
やばいっすよね。
アプリで出会って幸せな結婚したわたしの親友に謝れ。
いやもう世界中に謝れ。

またどんどん落ち込んでいって、死にたい死にたいが始まる。

「りとちゃんも結婚しといた方がいいよ。今の年齢でもうギリギリじゃない?」

うるせーな、余計なお世話だわ。
こちとら結婚願望なんかさらさらねーわ。

とか思いつつ、売り言葉に買い言葉になり。

「じゃあもらってくださいよ!!!」

気付いたら口走ってました。

この言葉が、悪夢のはじまりになる…のはまた、続きで。

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