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"わたしの"若草物語 ストーリーオブマイライフ

原題 Little Women
邦題 ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語
監督 グレタ・カーウィグ

6/1から再開した映画館も、いよいよ公開を待ち構えていた新作が続々とおろされてきましたね。
本作も3月だったのが延期になり、やっと公開された!ずっと待っていたのでとても嬉しい。公開日6/12、仕事終わりに観に行った。
(新宿の歌舞伎町メインストリートでは夕方から警察が客引きを指導してる様子が伺えた。小池都知事が"夜の仕事"と名指しして自粛を呼びかけたからだろうか)

ちなみに邦題「ストーリー・オブ・マイライフ」の「マイライフ」は「マイ・ライフ」じゃなくて良いんですかね。あと別に普通に「Little Women」でいいと私は思っています。この作品は何度もリメイクされた「若草物語」映画の中でも2000年代の代表作であり今後何年も見続けられる定番の名作となるはずなんですが、日本ではこの肩透かし感のあるカタカナ英語で語り継がれるのかと思うとちょっと嫌ですね。「アナと雪の女王」の"Let it go"を"ありのままでいくのよ"と翻訳した日本ならではの雰囲気と似たものをこの邦題から感じます。

以下、感想

私がこの映画の公開を今か今かと心待ちにしていた理由は、他でもない監督がグレタ・カーウィグだからです。彼女はインタビューで「今の自分があるのは若草物語のおかげ。自分らしく生きることを学び、マーチ姉妹が目標だった」と語っていて、この映画はきっと彼女の作り手としての作品性そのものと言える核みたいなものになるのだろうと予想ができた。そしてついに映画を見て、まさに"そのもの"だったんだと思っている。

彼女は俳優としての魅力もさることながら、作り手としての才能が前作「レディ・バード」で溢れ出ていた。
フランシス・ハ」に見るグレタのパワフルで聡明な人柄が、作り手に回ったとて決して薄れることがなく、むしろもっと強く溢れ出ているようだった。だからもう、スクリーンの中に没頭すると彼女のパワフルさが身体に伝染してくるんです…

物語自体は、たぶん原作に割と忠実だったと思う(簡単なあらすじと1994年版の映画しか見てないので今度ちゃんと読みます)。
その中で何を強調したか、どこを物語のハッピーエンドとして位置付けたか、どんなセリフを付けて、どんなを演出したか。その一つ一つが、100年もの間に何度もリメイクされた作品を、今、改めてグレタが撮ったことにとても大きな意味があるように思えるのです。

例えば分かりやすいところで言うと、1994年のウィノナ・ライダー主演版の映画「若草物語」(原題:LITTLE WOMEN)では、物語のクライマックスを主人公ジョーの「結婚」としている。雨の中ひとつ傘の下で「結婚しよう」「はい…!」で最大の盛り上がりとなりエンディングロールという流れ。
対してグレタ版ではこの"傘の下プロポーズ"は主人公ジョーが作家として出版社に持ち込んだ小説の中に入れ込んだシーンという感じで、ひとつメタ的な視点を介入させることである種この"乙女の憧れるロマンチックシーン"に冷静な眼差しを向けている(でも馬鹿にしてるわけでもない絶妙な方法で!)。そしてエンディングに繋がるシーンは"結婚"ではなく、彼女が子供たちのために開校した学校のシーン、さらには、ついに小説家としてデビューした「Little Women」の本のアップで終わる。それは彼女が迷いや困難を経て自分自身で辿り着いた生きる道である。
このエンディングは、劇中で何度もジョーが訴えかけてくる、「結婚だけが女の幸せなんておかしい」という主張に一貫した説得力を持たせていた。ちなみに本作は脚本もグレタです。素晴らしい…。

脚本で言ったら、今回は時間軸を行ったり来たりする構成になっていてそれもすごく良かった。「若草物語」自体が古典中の古典なのでもはや物語自体に"ネタバレ"なんて概念は無いだろうし、後の時間軸を先に見せることで必要以上に感傷的になることを回避してるとおもう。
時間軸はあっちゃこっちゃ移動は割と激しいけど、見てる側が迷子にならないように視覚的に分かりやすい工夫があったし、それがジョー自身の感情にも呼応しているのはまさに映画的演出!という感じで素敵だった。

それからもちろん、アカデミー賞でも衣装デザイン賞を受賞していた通り、舞台装置を含め19世紀中頃アメリカの人々の装いがとても素敵だった。パーティーで着る立派なドレスもまあそりゃ素敵だけど、むしろそれよりも日常的に着ているワンピースやワンピースの上に羽織るポンチョとかがとても可愛かった。
個人的にはこの↓シーンの2人の服がとても良かった。風が強いんだけどティモシーのシャツの膨らんでる腕のとこがフワフワと揺れるのが美しかったですね。


グレタはSNSもやっていないし、私は英語を聞き取れないからYouTubeでメディア出演した彼女の話し言葉も理解できないし彼女について何を知ってるかといえば何も知らないのかもしれないけど、これまでの作品と本作Little Womenを鑑賞してやっぱり彼女のパワフルさと魅力にめちゃくちゃ惹きつけられますね。最近「フランシス・ハ」を見返したけどニューヨークを転んだりしながらデヴィッド・ボウイのModern Loveにのせて駆け走る彼女は最高だし、ノアバームバックとのタッグだからかな、とても良いです。
まったく気分が上がらない時とか、精神的に余裕がない時とか、なにか判断を迫られる時とか、「グレタだったらどうする?」と脳内に彼女を召喚するとうまくいきます。これはMCUのキャップや、キャプテンマーベルなんかに置き換えても良いでしょう…余談ですが…

さてグレタは次の作品が決まっていて、なんと「バービー」の実写版!しかもノア・バームバックと共同脚本、主演のバービー役はマーゴットロビーとのこと。バービー人形といえば、女児がそのスレンダーな体型に憧れて過度なダイエットやプレッシャーを与えてきたもの…というイメージがあったけど、調べてみたら2015年には男の子がバービー人形で遊ぶCMを作ってジェンダー規範を超越する試みをしたり、最近だと肌の色にとどまらず様々な体型や身体障害などを人形に反映させ、人間の多様な在り方を表現したりしてる結構面白いオモチャみたいです。まあ内容は全然想像できないんですが「バービー」をグレタがどう表現するのかは本当に楽しみです。

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