誰でも使える交渉術! 『上司を説得する(興味を引く)』
交渉の手法は、会議や打ち合わせでなくても、さまざまな場面に応用できます。例えば、いつも忙しい上司の田中さんと、部下の鈴木さんの会話を見てみましょう。
田中さん(上司)
鈴木さん(部下)
鈴木:「田中さん、ちょっとお話があります。今お時間大丈夫ですか?」
田中:「今はちょっと忙しいんだけど、何の話?」
鈴木:「えっとですね、先日のプロジェクトなんですけど、やっぱり色々問題が出てきてて…。
あの、まず最初に部品の発注が遅れています。作業工程も少し見直した方がいいかと思いまして、それで…」
田中:「ごめん、今は時間がないから。また後で話してくれる?」
鈴木:「え、そうですか…。じゃあ、いつお話しできますか?」
田中:「今日は難しいかな。要件をまとめてメールで送っておいてくれる?」
鈴木:「あ、はい…。わかりました。」
ありそうなケースですが、鈴木さんの何が問題だったでしょう?
おそらく、次のような点ではないでしょうか?
タイミングが悪い:
おそらく上司が忙しいタイミングで話しかけてしまった。要点が不明確:
「問題が出てきた」以外、肝心な具体的な要件や解決策が伝わっていない。長すぎる説明:
話がまとまっていないまま話し始めている。
忙しい上司に対して、限られた時間の中でも効果的に話を聞いてもらうためには、交渉術の基本である「準備」と「アプローチ」が重要になります。以下のポイントを踏まえて、戦略的にアプローチしてみましょう。
1. 目的を明確にする
上司は多忙なため、話のポイントが不明確だと興味を持ってくれません。自分が話したい内容のゴールと、上司がその話に興味を持つ理由を整理しましょう。これは、交渉の「ZOPA」(交渉可能な範囲)に近い概念で、上司にとっても「価値」がある内容でなければなりません。
例: 「新しいプロジェクトの進捗についてのアイデアがあります。これを改善すると、チーム全体の効率が上がると思います。」というように、上司にとってのメリットを先に述べる。
2. 時間を効果的にリクエストする
忙しい上司に長時間のミーティングを求めるのは難しいので、まずは短い時間をリクエストすることが重要です。具体的には「3分だけお時間ください」と伝えることで、心理的なハードルを下げられます。
例: 「5分だけお時間いただければ、今後のプロジェクトに影響する重要な情報があります。」と簡潔に依頼します。
3. 「エレベーターピッチ」の技法を使う
話の内容をシンプルにまとめ、最初の数秒で上司の関心を引くことが必要です。「エレベーターピッチ」のように、短くてインパクトのある話し方を意識します。
例: 「今、XXプロジェクトの進行にリスクが見え始めていて、緊急に対応が必要です。その具体策を1つ提案させていただきます。」
4. タイミングを選ぶ
上司が明らかに忙しいときに話しかけると、話を聞いてもらえる可能性が低くなります。逆に、移動中や少しの隙間時間など、上司が他のタスクに集中していないタイミングを狙いましょう。特に、昼食後や休憩直後などは比較的話がしやすい時間帯です。
例: 「お昼休憩の後、3分ほどお話しできるタイミングを教えていただけますか?」
5. 「Yes」で始められる質問を用意する
上司の興味を引くためには、最初に「Yes」と答えられる質問を用意します。これは、交渉術でよく使われる「Yesセット」と呼ばれるテクニックです。
例: 「チームの生産性を上げることにご関心ありますよね?」と問いかけ、その後に具体的な提案を行います。
6. フォローアップを準備する
上司がすぐに話を聞けない場合でも、メールやメモなどでポイントを簡潔に伝えましょう。その際、「必要であれば詳しくお話させていただきます」と追記することで、上司の都合に合わせてフォローできる姿勢を示します。
例: 「先ほどお話しできなかった件ですが、簡単に要点をまとめました。お時間があるときにご確認いただき、ご質問があればお知らせください。」
7. 信頼関係を築く
最終的には、日頃からの信頼関係が大きな影響を与えます。普段から上司の意図やニーズを理解し、適切なタイミングでサポートする姿勢を見せていると、上司も話を聞く態度を持ちやすくなります。
上司の状況を理解し、話を聞いてもらうための工夫を凝らすことで、効果的なコミュニケーションが取れるようになります。
これらの手法を活用して、うまく話を聞いてもらえたパターンは次のようになるでしょう。
鈴木:「田中さん、お忙しいところ失礼します。今、ほんの3分だけお時間いただけませんか?」
田中:「3分なら大丈夫です。どうしましたか?」
鈴木:「ありがとうございます!実は、プロジェクトの進行に少しリスクが見えてきたので、早めに対応策を提案させていただきたいと思いまして。」
田中:「リスク?具体的には?」
鈴木:「はい。先日の会議で決まった納期が厳しい状況になりつつあります。ですが、新しいワークフローを取り入れると1週間短縮できる可能性があります。こちらの簡単な概要をお渡ししますので、後で目を通していただけますか?」
田中:「わかりました。ちょうど移動中に読めそうだ。あとでまた話しましょう。」
鈴木:「ありがとうございます!フォローアップも準備しておきます。」
「3分だけ」という具体的な時間で、上司の負担を軽減しています。このケースは短く話を聞いてもらいましたが、上司も話の内容が重要だと思えば、大抵は3分以上の話になります。
また、「リスクが見えてきた」という言葉で上司の関心を引いています。解決、またはそれに繋げるためのフォローアップの準備として資料を渡し、後で確認する流れを作っています。
テクニックもありますが、ポイントとしては伝える時の意識や心構えが根本的に大事だと考えます。それは、「田中さんが、さらに上の上司に簡潔に説明できるような状況にしなければならない」ということです。
会社組織は社長であっても説明責任がありますし、ましてや、それ以外の人々は、部長であっても、本部長であっても、全ての会社人は必ず報告する相手、上司がいます。
このケースでは、田中さん(上司)が、その上司に説明できる状態を作るために、どう説明しておくべきかを積極的に考えることが大事になるのでは無いでしょうか。
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