組織のゲームデザイン
サイバーエージェントの組織の強さ
「サイバーエージェント出身」と言うと「サイバーの組織文化って独特ですごいですよね」と言われます。
実際、サイバーエージェントはやる気に溢れています。
昔、「なぜこんなに夢中になって働いているんだろう」と考察したところ「組織のゲームデザインが優れている」という結論に至りました。
ゲームデザインとは
ゲームデザインとは、ゲームをプレイする人が夢中になって楽しめるようなゲームの様々な設計のことです。
荒野行動のようなサバイバル型ゲームは、個人戦で最後まで生き残り、1位になることを目指すゲームデザインです。
モンハンのような共闘型のゲームは、仲間で協力して強敵を倒すゲームデザインです。
こういった「ゲームデザイン」が、人間物理学の天才である社長によって、「会社」に組み込まれています。
組織のゲームデザインの例
分かりやすい例が「あした会議」という仕組みです。
あした会議は、会社の幹部たちが会社の未来につながる新規事業や組織課題解決をする会議で、1ヶ月の準備期間と、1泊2日の合宿で構成されます。
この会議は、とても異様だと思います。
というのも、会社の幹部たちが、ハードな通常業務がある中で、1ヶ月間、夢中になって会社のためになることを考え、自ら忙しくなるような提案をするのです。
では、あした会議がどのようなゲームデザインかというと、「役員をリーダーとする、チーム対抗戦」です。
社長以外の役員7名が、社内人材を選抜して5名程度のチームを組成して競います。チームごとに1ヶ月ほどの準備期間にミーティングを重ねて3案を考え、会議当日、社長が1案につき、1〜15点で採点をして、その合計得点を競うというルールです。
このゲームデザインの優れているところは、まず、役員がメンツをかけてめちゃくちゃ頑張ります。この結果発表UIが、SNSによって拡散されるというのも効いていると思います。
そして、選抜されるメンバーも「抜擢してもらえた」と頑張ります。
あした会議に出るということは活躍の象徴で、光栄なことです。
自分も、新規事業がテーマだったスマホ成長期は、若手ながらたくさん抜擢してもらい、たくさん影響を受けました。(会社の規模が大きくなると、大きい組織課題解決が主テーマになり、呼ばれなくなりました)
あした会議は、全社決議に必要な人が揃っているのでその場で話し合って大きい組織政策が納得感を持って決められるので、あした会議の決議による効果は言わずもがな大きいです。
ですが、この過程においても
会社の幹部が、考え方・方針をすり合わせられる
飲み会はノーサイドで、幹部陣に一体感が生まれる
抜擢やチャンスに溢れる社風が形成される
といった、たくさんの効果があります。
組織のゲームデザインの必要性
マネージャーの仕事は「チームを率いて成果を出す」事であり「チームのメンバーにやりがいを感じて頑張ってもらうこと」です。少人数の組織なら、人間的魅力でそれができますが、10人を超えるともう難しくなってきます。
そこで、「組織のゲームデザイン」によって、メンバーが頑張りたくなるような環境を作ることが必要になります。
逆にいうと「メンバーが頑張らない」「メンバーが言う事を聞かない」のは、ゲームデザインの設計がうまくできていない、もしくはそのゲームの運用体制ができていないということです。
自分は、入社直後から事業責任者(マネージャー)をやらせていただいましたが、マネージャーというよりは、「死ぬほど働くプレイヤー」みたいな仕事の仕方をしていたので、たくさん失敗をしたし、今は一緒に働いてくれていた方々に申し訳なかったなぁと思います。
よく「プレイヤーとマネージャーは違うよ」と言いますが、10年かかってやっと、本質的に理解ができました。
すごいプレイヤーは、APEXのプロのようなもので、射撃スキルや立ち回りを学び、極めていきます。
すごいマネージャーはAPEXのゲームデザイナーのようなもので、ゲームを運営する中でプレイヤーの熱狂度を見ながら、ゲームデザインやレベルデザインのチューニングをするのです。
全然違うことが分かると思います。
組織のゲームデザインをするには?
組織のゲームデザインとは、以下のような項目のデザイン(設計)をすることです。
大義(何のために仕事をしているのか?)
目標(大義に向けた、ギリギリ達成可能な目標のマイルストーン)
関係性(チーム間やチーム内の関係性)
報酬(頑張るとどんな良いことがあるのか?)
UI(進捗感がわかるUI)
NPC(ゲームを成立させるための役割)
それらを含めた全体のゲームループ
ゲームデザインをする上では、ユーザーの心理を理解する必要がありますが、同様に、組織のゲームデザインをする上でも、人間というものをニュートラルに捉え、理解する必要があります。例えば、
「メリットがないと頑張らない」
「ルールがないとダラける」
そういった人間の弱さを責めず、「そういうものだよね」と真理として受け止めた、ゲームデザインによって夢中になれる場所を作るのが、組織のゲームデザインです。すなわち、事業責任者の仕事です。
「プレイヤーとマネージャーは違う」と何度も聞きましたが、「組織のゲームデザイン」の考えを踏まえると、ゲームをプレイする側から、ゲームを作る側になるという事と言え、「そりゃ違うわ」と納得できます。
最も効果的な組織のゲームデザイン
サイバーエージェントには、色々なデザインのゲームがありました。ジギョつく(事業プランコンテスト)のような個人戦のデザイン、ABEMAのような「みんなですごい事をしよう」という共闘型のデザインなど。
その中で、最もROIの大きいデザインは、「あした会議」のようなチーム対抗戦のデザインだと思います。
個人戦は、メンバーが疲弊します。個人で戦い続けるのは孤独だし、低いレベルだと足の引っ張り合いが起こります。アイドル総選挙や、バチェラーのようなゲームデザインのイメージです。
一方で、共闘はリーダーが多大な求心力を作り続けないといけません。
自分も事業責任者として「共闘型」の組織デザインをしたことがありましたが、見事にメンバーが低いレベルで団結してしまい、頑張らなくなってしまいました。共闘型は、リーダーの求心力作り、言い訳する人の排除の徹底が必要です。
「個人戦」と「共闘」の中間とも言えるチーム対抗戦は「競争と協調」のバランスが良いです。隣のチームに負けないぞと頑張るし、メンバー間での激励・育成がされます。隣のチームができているので、言い訳もできなくなります。
「あした会議」のチーム対抗戦のデザインは、研修や部署のいたるところでも横展開されていました。子会社戦略もそのゲームデザインとも言えます。
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