あなたの「父親との問題」が、実は、「父親との習慣」、だったとしたら?(nickwignall.comのWhat If Your Daddy Issue Are Really Daddy Habbits ?の翻訳)


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この記事の著者であるNick Wignallは臨床心理士、ライター、講師、ポッドキャスター。ダラスにあるテキサス南西メディカルセンター大学で臨床心理の博士課程、シカゴ大の社会科学で修士号取得、ダラス大の英文学で学士号を取得。American Board of Professional Psychology(ABPP、アメリカ専門心理士認定機関)の認定を受けている。the Academy of Cognitive Therapy(認知療法・行動認知療法家国際認定組織)の認定取得。Association for Behavioral and Cognitive Therapies(アメリカ行動療法認知療法学会)とニューメキシコ心理学会の会員。

北カリフォルニア出身、現在は妻と3人の娘とジャーマンシェパードと一緒にアルバカーキで暮らしている。


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あなたの「父親との問題」が、実は、「父親との習慣」だったとしたら?

我々の過去は、苦しみを生じさせない、だが、我々の過去が育てた習慣は、生じさせ得る。

とある私のクライアント、ーーここではジェニファーと呼ぶことにする、は、セラピーを求めて私を訪れた、彼女は、彼女の言葉で言うなら、「父親との問題」を抱えていると言う。

彼女は説明した、如何に自分が、何年もずっと、今の教職から離れて自分にキャリアをいちからやり直したかったか、ヘルスコーチとして開業する道を進みたかったかを。だが、彼女がそこに向かって行動を起こすことを真剣に検討するたび、彼女は気が付くと不安とパニック発作に押し潰されており、「教職の安全」へと戻ることを余儀なくされていた。

彼女には確信があった、自分の不安と仕事での「行き詰まり」は、アルコール依存症の父親に関係するものだと、彼女の父親は彼女の幼少期のほとんどにおいて、彼女と彼女の兄弟に対し虐待的だった。彼女が考える一番の原因は、自分は父親に対する怒りを上手く「プロセス(処理)」できないでいる、ということだった。

私がジェニファーと共に取り組み、彼女の過去と難しかった幼少期を探索する中で、ある興味深い構図が浮かび上がってきた…

彼女の父親は真に酷かった。ジェニファーは、如何に自分と自分の兄弟が、父親のことを、ほぼ常に、恐怖して過ごしていたかを語った。そして長女として、彼女は自分の兄弟を守る責任を感じていた、父親が酔っ払って怒っている時に、ベッドルームのクローゼットの中に兄弟と共に数時間閉じこもる必要があったこともあった。

物理的に父親を避けて隠れなければならなかったことに加え、ジェニファーは、父親が帰宅した時に、如何に自分が常に用心深く、そして「何事にも備えて」いなければならなかったかを語った。

(*帰宅時の父親は)時には、しらふでお気楽だった。だが、時には、既に酔っていて、ドアを開けて自分の子供たちに向って、文字通り、踏み潰し喚き散らしながら歩いて来た。いつも学校のからの帰り道では、彼女の説明では、ジェニファーは頭の中で、父親が酔っていた場合の戦略と、可能な限り多くの「避難経路」を考えていた。

当時は、最悪に備え、常に「避難経路」を準備しておく精神的習慣は、彼女が安全を確保し、自分の兄弟を父親から守るために必要なことだった。

だが、ジェニファーは子供から大人へと成長しても、それらの精神的習慣を失わなかった。

彼女の現在の環境は、客観的に見て、遥かに危険も予測不可能性も少ないものであったが、それでも彼女は、ストレス源や何か恐ろしいものと直面した時のために、最悪の事態を想定し逃げ道を探すという習慣をまだ続けていた。

なので、ジェニファーが転職(本質的に恐ろしいことではあるが、必ずしも危険な判断ではない)を実際に検討するたびに、彼女は、自分が子供の頃に大きなストレス源に対応したのと同じやり方で、精神的な対応をしていた:過剰な用心深さ、最悪を想定し策を考える、常に逃げ道を探す。

予想のつくことだが、これは彼女を彼女が子供の頃に感じていた感覚へと至らせる、ーー不安で、ストレスを受けていて、パニックで、不十分、そして、彼女を、何か新しいことを試すのではなく、常に教職へと引き戻すによって、ヘルスコーチになるという自分の夢の「セルフ・サボタージュ(自己破壊)」へと至らせる。

興味深いことに、ジェニファーと私が彼女の過去について得た重要な考察は、根本的に彼女の過去についてのものではなかった。

彼女が自分の物語を話すことは、彼女から子供時代のつらさを消し去ることも、突然に彼女を彼女が必要としていた人生を変化させるだけの自信で満たすこともなかった。ジェニファーが気付いたこと、それは、彼女の足を引っ張っていたのは、彼女の父親のアルコール中毒でも、彼女がずっと持っていた父親への怒りでもなかった、ということだった。

真に彼女の足を引っ張っていたのは、(そして彼女の不安の原因は、)彼女が過去に学習し、しかし、大人になっても持ち続けていた習慣だった、ーーcatastrophizing(カタストロファイジング、最悪の想定をすること、または、実際よりもずっと悪く・深刻に考えること)、エスケープ・プランニング(逃避計画)、reassurance seeking(リアシュアランス・シーキング、慰めを欲しがること)、など。

我々が共に取り組む中で、ジェニファーはゆっくりと、自分の古い習慣を新しい習慣と置き替え始めた。

それでもまだ、彼女は、教職を離れヘルスコーチとして開業することを検討すると、不安を引き起こす「もし…になったらどうしよう」の雨あられに直面していた:

 ・もし、自己破産してすべてを失ったらどうしよう…?

 ・もし、誰にも気に入られず、一人もクライアントを得られなかったらどうしよう…?

 ・もし、誰かに私の持つすべてを求めて、訴えられたらどうしよう…?

だが、ジェニファーは、それらの思考と、彼女の幼少期からの残り物の習慣であり、必ずしも彼女の現状において正確、もしくは、有用ではないこの特定の考え方を、認識することを覚えた。

それによって、彼女は、これらの無用な精神的パターンを特定する練習ができるようになった、そして、やがて、それらに挑戦し置き換え、もしくは、単に無視、することを学べるようになった:

 ・私の(*新たに挑戦しようとしている)仕事が成功しないこともありえる、だがそれは本当に私がすべてを失うということを意味するだろうか?

 ・私には、すでに、多くの友人と、喜んで一緒に働きたい・協力したいと言ってくれる同僚がいる。

 ・実際に、ヘルスコーチやパーソナルトレーナーがクライアントから訴えられるケースはどれくらいあるのか?

時間をかけ、たくさんの練習を経て、ジェニファーは古い精神的習慣を特定し捕らえること、そして、より有用な考え方に置き換えることに上達した。これは不安の低減へとつながり、やがて、新たにヘルスコーチの仕事を始める決断につながった。

彼女の父親がしたことは、それでも、酷いものであった。彼女はそのことについて、まだ、怒っていたし苦しんでいた。そして、幼少期の彼女の記憶は、まだ、彼女を煩わせていた。しかし、我々が、彼女の過去の体験とそれが生み出した精神的習慣の間のつながりを明確化すると、彼女はそれらの習慣を解消し自分の人生を前に進めることができるようになった。


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ヒストリー(過去)の使い方(と間違った使い方)

ジェニファーの物話の核心は、過去に光を当て読み解くことは、多くの場合、今現在において何をすべきかを明確化すること、までにおいてのみ、有用だということ。

ジェニファーの最初の仮説では、彼女の不安と行き詰まりは、父親に対する感情を上手く「プロセス(処理)」できていない結果である、となっていた。だが、彼女は自分の人生を通してずっと父親に怒りを持っていて、何年もかけて何人かの異なるセラピストを訪ねその怒りを「プロセス(処理)」していた。それでも、彼女は不安と行き詰まりに囚われていた。

ジェニファーが前に進み始めたのは、彼女が、自分の過去と自分の現在の感情の間のつながりではなく、自分の過去とそれが生み出した習慣の間のつながりに、目を向けたからである、この習慣が、現在において、新しい仕事に挑戦することに対する彼女の不安と抵抗を維持していた。

我々の過去と我々の気持ちの関係には、常に、習慣の介在がある、特に精神的な習慣の。

これは本当に良い知らせである、なぜなら、自分の過去や自分がどういう気持ちを感じるかを、直接的に変えるために我々ができることは何もない、だが、我々は自分の習慣を変えることはできる。

我々の過去がどのように自分に影響を与えるかに関するこのよくニュアンスされた(微細な違いを持つ)模範例は、自分の過去について、何らかの新たな考察や「プロセス(処理)」をすることが、それだけで、どういうわけか現在の苦しみから我々を解放してくれる、というロマンチックではあるがナイーブな思想に冷水を浴びせるはずだ。

ジェニファーのケースでは、彼女の、過去の子供としての体験と、現在の最悪を想定し心配をする習慣との間のつながりを作ることは比較的簡単だった、ーー我々は、二回目か三回目のセラピーセッションでこの考察にたどり着いた。

だが、我々は、六ヶ月間の大半を、古い無用の思考パターンの特定と、それらをより正確で有用な思考パターンと置き換えることや、置き換えるのではなく、単に受け入れることに費やした。


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習慣を探す習慣

ほとんどの人は、問題を解決するために事実を探す習慣を持つ。

これは理にかなっている、ーー我々は学校での最初の二十年間を、この考え方を学ぶために費やす、そして、我々の仕事の多くが同じスタイルの考え方にまつわるものだ。だが、個人的な成長と健康においては、習慣を探す方法を学ぶことの方が遥かに有用な問題解決の方法となる。

考えてみてほしい、一体何回、新しい発想や、新しい「考察」の最初のワクワク感が、別の失敗に終わった試みの失望に屈したか、ーー例えば、ワクワクする新しいダイエットプログラム(一ヶ月間は続いたが、定着するようには思えない)、もしくは、遊び部屋で埃をかぶっているピカピカの新しいギター。

これが、様々な形式のセルフヘルプ(自助)、セラピー、パーソナル・デベロップメント・プログラム(自己成長計画)に潜む危険である、ーーそれらは、古い習慣を特定し、それらを忘れ、新しい習慣を身に付ける、という骨の折れる努力に対する考慮や指導を充分に理解しないまま変化を約束する。

だからこそ、私は、習慣を探し出し意識する習慣を身に付けることが必須であると考える、いつも発想と考察の警鐘・呼び声に気を逸らされてしまうのではなく。

考察は必要なものである、

もし、我々が、自分の感情の困難さや人生の行き詰まりの要因であるかもしれない自分の過去、または、そのいくつかの要素について考えるなら、問うべき重要な質問とは:

自分が、過去に、困難に対する反応として発達させたかもしれない(精神的、もしくは行動の)習慣は何か?そして、その習慣は今現在の生活のどの部分で苦痛や摩擦を起こしているのか?

まず最初に確かめるべきは、自分の思考の習慣だろう。我々は常に思考している、だが、思考自体に注目することがどれだけあるだろうか?どれだけ自分の思考について考えるだろうか?

別の言い方をするなら:我々は常に自分の人生について物語を作っている、自分についての物語を語っている、自分に何があったか、他人に何があったか、など、だが我々が、一歩下がって、自分の語り方について観察することはどれほどあるだろうか?

精神的習慣を見付ける・探し出すための出発点をいくつか紹介する:

 ・車を運転している時。車を運転している時、どんな考察や物語を自分に対し語っている?特に通勤時間などのストレスを感じる状況で。自分以外のドライバーのことをどんな特徴で表現している?

 ・仕事でメールを確認している時。あなたが、始業時に、デスクについてメールを開いた時、どんな思考があなたの頭を過ぎっている?メールを読むという作業について、あなたは自分にどんなふうに話している?

 ・目覚ましが鳴った時。その日の最初にあなたが考えることは何ですか?すぐに仕事のことを考える?それとも昨日のこと?本当に起きなきゃいけない時間まであと何分ベッドで粘れるか計算している?

 ・ニュースを見た時。ニュースは思考・感情を誘発するヘッドラインと情報でいっぱい。あなたの精神の素の状態での反応は?そのニュースや出来事に対するあなたの考え方にパターンはあるか?

 ・退屈なミーティングの時。退屈な時、あなたの精神がよく向かうのはどこ?あなたが自分が抜け出したいと思う状況に囚われた時、あなたの精神が語る物語の様式や語り口をあなたはどう表現する?

あなたが自分の思考を思考する習慣を発達させ始めれば、次のステップは問うこと:この考え方はどれだけ有用か?これは役に立つか、それともいまいちな結果につながるか?もしそうなら、その代わりに何ができる?

個人的には、帰宅時に私が他のドライバーが、いかに酷いかについて語れば語るほど、家に着いた時私は苛立ち、一緒にいてあまり楽しくない感じになる。

一方で、もし、私が自分が通勤仲間の運転技術の下手さを批判していることを把握できて、彼らを批判することは現実をなんら良い方向に変えないことに気付けたら、そしてその代わりに面白そうなポッドキャストを流せば、帰宅時に気分が良くなるだけでなく、家族も私といることをもっと楽しめるだろう。

これらの話には、私の他のドライバーの運転に対して批判的である私の習慣の起源についての考察や、私の幼少期に対して深い検証は、まったく関わっていないことに注意してほしい。

家に着いた時のストレスをより少なくするため、家族に対して気安くあるために、私は、自分にキレやすい性質や劣等感が潜んでいる可能性についての深く慧眼な考察を必要としていなかった。役に立たない精神的習慣を認識し、その代わりとしてするべきことについて良い案を持つことだけで十分だった。

古い習慣を特定し書き直すことは、ショッキングな無意識的対立を明らかにすることのように魅惑的ではないが、うまく行く。

もちろん、道路での批判的姿勢を減らすことは、比較的少数派な例ではある、より多くの人が持つ不安や新しいキャリアを始めることに比べれば。だが、基本的な力学は同じである。

ある習慣が存在する原因の解明には、問題の起源は有用かもしれないし、そうでない場合もある。だが、いずれの場合も、成長し前進するためには、習慣と習慣を探し出す習慣が欠かせない。


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