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肥えた魚

今日も疲れた。早く家に帰って寝よう。そう思いながら夕暮れに照らされた道を歩く。そんな俺の横を2人の小学生がはしゃぎながら通り過ぎていく。俺にもあんな頃があったなぁと懐かしい気分になる。

「おーい!省吾!キャッチボールしようぜ!」ふと小学生の頃の友達の太田大樹の声がフラッシュバックする。声がとても大きくて遠くから呼ばれてもすぐに反応できるほどだった。俺たちはどこに行くにも2人だった。俺が小学生時代唯一無二と言っていいほどの親友だった。しかし中学は別々だったため自然と疎遠になっていた。

あいつ元気かなぁ。久しぶりに連絡してみようとLINEに「久しぶり!元気?」なんてありふれたテキストを送ってみる。すぐに返事が来ることなど期待しているわけでは無いので携帯をポケットにしまい家路を急ぐ。するとポケットの携帯がバイブレーションと共に自己主張をはじめた。急いで画面を見ると大樹からの電話だった。

「よー!大樹!久しぶりじゃん!元気?」

「あーなんとか。元気だよ。省吾は?」

「俺も元気だよ!あ、そうだ良かったらさ、ご飯行かないか?久々に話したいんだよ。色々と。」

「それいいなあ。居酒屋でいいなら、俺いいとこ知ってるぜ。今週の日曜なんかどうだ?」

「お、マジか!じゃあそこにしよう!日曜空いてるからその日にしようか」

「決まりだな」
とんとん拍子で話しが決まっていき俺と大樹は日曜飲むことになった。 

日曜日。
俺は大樹から送られてきた居酒屋の位置情報を頼りに居酒屋へ着き程なくして大樹と合流した。
久しぶりの大樹は昔より大分痩せてすっかり小学生の頃のやんちゃは鳴りを潜めているように見えた。

「ここは何がウリの居酒屋なんだ?」
大樹がいいとこなんて言ってたから俺はふとした疑問をぶつけた。

「ここは寿司とか刺身なんかがうまいぞ。ほら、あそこに泳いでる魚たちが捌かれてるから新鮮なんだよ。」と水槽へ目を向ける。
たしかに沢山の魚が泳いでいた。しかもかなり大きい。

「へーかなり大物なんだな。」これからあれが食べられると思うとワクワクが止まらない。

「あの水槽から一匹まるまるお前にやろうか?」
大樹が思いがけない提案をする。

「美味しかったらお願いするよ。」

「そうだな。まぁこれから沢山食べようや」

大樹の声を合図に俺たちは沢山飲んだり食べたりしながらお互いの身の上話に花を咲かせた。
そのまま夜は更けていき、会計も済ませてちゃっかり水槽の魚も一匹貰うことになった。すると突然、

「省吾に見せたいものあるんだけどこれから少しだけ時間あるか?」

「あー大丈夫だよ。」

「じゃあ俺の家まで一緒に来てくれ。」

そんなこんなで大樹に言われるがまま家に着いた。
「家デカいな!!」思わずそう言ってしまうほど家はかなり大きく日本庭園が外から見えるほどだった。

「大樹、見せたいものって?」
家に上がりどんなものを見せてくれるか楽しみになる。

「あれだよ!見えるか?」と日本庭園の中でもとびきり大きな池を指さす。
そこには池にすっぽりと収まるサイズほどの魚が蠢いていた。

「こ、これは、なんだよ!?」あの居酒屋で見た魚とはわけが違う…恐ろしいその姿に思わず後退りする。
「まぁこれだけじゃなくてさらに面白いもの見せてやるから。」

俺の質問には答えずルンルンで大樹は俺を池へと近づける。俺はビビリにながらも魚に近づく。
すると大樹が先ほどまでの声とは打って変わって小学生の頃の大樹の声量で「今日のご飯!!!」と叫んだ。
思いもよらぬ事で耳がヒリヒリしている中、池の魚が少し大きくなるのを確認した。わけが分からない。パニックになって池から先ほどいたところまで逃げる。

「これ面白くない?声だけで成長していく魚」
大樹は俺に聞いてくる。
「面白いよりかは怖いかなぁ。人の想像を超えてるデカさだし…」
俺は魚にも驚いたが大樹にも言いようのない恐怖を感じ、足早に別れを告げそそくさと家に帰った。

あの後特に何もなく大樹からも「すまなかった」の一言だけLINEが来ていた。

ピンポーン

インターホンが鳴る。誰だろうと思いドアを開ける
「宅配便でーす!」と元気のいい青年が大きい発泡スチロールを抱えてニコニコしている。俺は魚を貰うことになっていたのを思い出し、ドアを開けて配達員から受け取った。ズッシリとした重みが全身を巡り急いでその魚の入った発泡スチロールを降ろした。
蓋を開けるとびっしりと氷が入っている中に微かに皮の部分が見える。覗き込もうとしていると、

ピピピピピ

電話が鳴った。誰だろう。携帯を見る。大樹だ。
一旦荷物から離れた俺は嫌な予感はしながらも恐る恐る電話に出る。
「もしもし。」

「あー省吾!本当ごめん!マジですまなかった!」

その声はあの小学生の頃を彷彿とさせる。耳が痛い。

「良いって良いって!あの時はただ驚いたというか…」

「本当にすまなかった!今度飲みに行く時は奢らせてくれ!」

「本当に大丈夫だから!!」
過去1番の大声が出た気がする。そしてもう一度目を魚の方へと向ける。すると発泡スチロールの容器を突き破ってウネウネと動く魚の姿がそこにあった

「うわああああああああああああああ!」
思わず絶叫して電話を手放した。

電話口では大樹が笑いながら

「ほら、やっぱり面白い魚だろぉ??」

と言っていたが、省吾には聞こえなかったようだった。





皆さんここまで読んで頂き誠に有難うございました!この度初の創作小説を書き上げてみました!
至らない点ばかりでしょうが、少しでも気に入ってくれたら幸いです!

世にも奇妙な物語を意識して書き上げましたが、創作小説ってめちゃくちゃ楽しいですね!今回は奇怪なテーマでしたが、多くのテーマをこれから書きたいと思います。皆さんこれからも是非根賀をよろしくお願いします!

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