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coro’s note from 夢見る書店 「不安症」

◆NEFNEに関わる人たちによる自由連載《汽水域の人々》
雑貨屋&フリースペースのお店「NEFNE」で交わるひとびと。多様な執筆陣がリカバリーストーリーをはじめ、エッセイ、コラム、小説など好きなように書いています。


「全て知られたらどこかへ行ってしまうような気がして」

私の言葉は震えていた。それはゆきとの心が私の元から離れることがわかっていたから。
だけど、ゆきとはタバコ一本ふかして「いまさらじゃね?」と言葉を交わす。

「え?」

私はゆきとの言葉に思わず、聞き返してしまう。

「おまえと俺の間にそんな話はもうないだろ?」

ゆきとの言葉は私には届かない。いや、私の言葉がゆきとに届かないのかもしれない。
それでも、目の前でタバコの煙を手でかき消す、ゆきとに私は言葉を紡ぐ。

「いやじゃないの?」

「だから、いまさらだって。おまえの全部知ったって、俺はいなくならないし、もし仮にそうだったとしたら、とっくの昔に切れてる縁だと思うけどな。少なからず俺の中ではだけどな」

私はゆきとの言葉に胸が熱くなる。全部を受け入れて私を好きでいてくれた。そんな存在にゆきとはなっていたんだ。私はバカだ。信じてついて行けば怖いことなんて何もないのに。ゆきとのことを多少なりとも疑った。ゆきとは私にとってそれだけ大きな存在だったから不安にもなる。その不安が払拭されなかったから、私は声を震わせたのだけど、ゆきとはタバコの煙と共にその気持ちを消し去ってくれた。これが私の「愛した人」なんだとハッキリ確認することが出来た。乙女心って不思議なもので不安になるとどうしても聞きたくなる。それがたとえ嫌われてしまうかもしれないことだとしても。「好き」なら「好き」と伝えてほしいのだ。簡単なことだけど、男女間でこのあたりは考え方が違うのだろう。だけど、ゆきとと一緒にこれから一緒になっていくためには避けて通れないと私は思ったのだ。

「ゆきと。私、あなたのこと試すつもりではなかったんだけど、結果的にそうなっちゃったかもしれ……」

次の瞬間、ゆきとの吸っていたタバコの煙が私の中へ入ってくるのが分かった。

「俺はそんなことでいなくならねえよ。たかが、ドリアンの臭いが苦手で嫌いだったのに対して俺がそれを好きだったってだけだろ?」

こんなことで不安になってる私たちのバカップルさは他の人には分からないのだろうな。いつかドリアン食べれるようになればこんなことでは不安にならないのかな? なんて、他人からしたらどうでもいい話がこうして物語になるのだから素敵なカップルだと思うんだ。

「ありがとう」

「いつまでも一緒にいるからな」

タバコの火はいつの間にか消えていた。

【今回の執筆担当者】
兼高貴也/1988年12月14日大阪府門真市生まれ。高校時代にケータイ小説ブームの中、執筆活動を開始。関西外国語大学スペイン語学科を卒業。大学一年時、著書である長編小説『突然変異~mutation~』を執筆。同時期において精神疾患である「双極性障害Ⅱ型」を発病。大学卒業後、自宅療養の傍ら作品を数多く執筆。インターネットを介して作品を公表し続け、連載時には小説サイトのランキング上位を獲得するなどの経歴を持つ。その他、小説のみならずオーディオドラマの脚本・監督・マンガ原案の作成・ボーカロイド曲の作詞など様々な分野でマルチに活動。
闘病生活を送りながら、執筆をし続けることで同じように苦しむ読者に「勇気」と「希望」を与えることを目標にしながら、「出来ないことはない」と語り続けることが最大の夢である。
 夢見る書店 本店
https://takaya-kanetaka-novels.jimdofree.com

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