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coro’s note from 夢見る書店 「反抗期」

◆NEFNEに関わる人たちによる自由連載《汽水域の人々》
雑貨屋&フリースペースのお店「NEFNE」で交わるひとびと。多様な執筆陣がリカバリーストーリーをはじめ、エッセイ、コラム、小説など好きなように書いています。


「いちいちうるさいな。わかってるよ」

 俺は口うるさくなったオカンに向かって、つい、でかい口を叩いてしまう。別にオカンのことが嫌いになったわけでもなかった。多分、思春期特有の「反抗期」というやつだと思う。

「なんてこというの。お母さんに向かって!」
 オカンの声は木造平屋の小さな家には声は大きく響く。オカンと同じで、この家が嫌いと言うわけでもない。出生してからずっと住んできた家だ。逆に愛着がわいている。

だけど、オトンが単身赴任で、この家を出てから「反抗期」がやってきた。単身赴任先は東京。俺とオカンが残ったのは大阪の田舎の方だった。オトンからの電話は頻繁にかかってきていたが、オカンへの電話だけで俺にかわることはなかった。オカンは一人で俺に対応するのは辛かったのだろう。

次にオトンから電話をかかってくると、電話越しのオカンに「代わってくれ」と伝えた。俺は嫌々ながらも電話を受け取る。
「どうだ? 学校は楽しいか?」
「普通だよ。別に楽しくもなく、毎日時間だけが過ぎる」
 オトンに対しても言葉をつっけんどんに返す。それでもオトンは口調を変えることもなく、「そうか」と言い残した。
「オカンに代わるぜ。俺はもう寝る」
 まだまだ時間は夜九時頃だったけれど、寝ると口実をつけてオトンとの会話を遮断する。「あぁ」とオトンからは小さく言葉が漏れた。

数日後、オトンは単身赴任先から帰省した。定番の東京土産「東京バナナ」を持って、俺の部屋をノックする。久しぶりに見るオトンの顔は少しやつれたようにも見えた。
「どうした? 久々で顔を忘れたか?」
 そう言ってオトンはえくぼを作ってみせる。忘れるわけがない。俺とオカンから遠のいていたんだ。だけど、俺はオトンの姿を見て優しい感情が舞い戻る。

「おかえり」

 これを機に俺の「反抗期」は終わり、オトンとキャッチボールをすることも多くなった。もちろん、会話のキャッチボールも忘れずに。時にはオカンも交えて、三人でボールを投げあった。これが俺の望んでいた家族なんだ。「反抗期」が終わったからじゃない。家族がそろったことに意味があると実感する瞬間だった。


【今回の執筆担当者】
兼高貴也/1988年12月14日大阪府門真市生まれ。高校時代にケータイ小説ブームの中、執筆活動を開始。関西外国語大学スペイン語学科を卒業。大学一年時、著書である長編小説『突然変異~mutation~』を執筆。同時期において精神疾患である「双極性障害Ⅱ型」を発病。大学卒業後、自宅療養の傍ら作品を数多く執筆。インターネットを介して作品を公表し続け、連載時には小説サイトのランキング上位を獲得するなどの経歴を持つ。その他、小説のみならずオーディオドラマの脚本・監督・マンガ原案の作成・ボーカロイド曲の作詞など様々な分野でマルチに活動。
闘病生活を送りながら、執筆をし続けることで同じように苦しむ読者に「勇気」と「希望」を与えることを目標にしながら、「出来ないことはない」と語り続けることが最大の夢である。
夢見る書店 本店
https://takaya-kanetaka-novels.jimdofree.com


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