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coro’s note from 夢見る書店 「ショートショート傑作選~ココロ揺さぶる物語~」

◆NEFNEに関わる人たちによる自由連載《汽水域の人々》
雑貨屋&フリースペースのお店「NEFNE」で交わるひとびと。多様な執筆陣がリカバリーストーリーをはじめ、エッセイ、コラム、小説など好きなように書いています。

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2020年6月1日刊行(電子書籍¥440 文庫本¥924)

短編小説『ショートショート~短編の中に我あり~』、『ショートショート~短編故我思う~』、エッセイ『エッセイ集~ココロ揺さぶるコトバ達~』全て収録したショートショートの傑作選です。

ショートショートの世界に浸りたい方、必見です!

【ここで少し、立ち読みで本編を公開です!】
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『僕と色』

  僕は色のついたものが大好きだ。絵の具や色鉛筆、マジック、付箋、果てはチョークまで。本当に「色」というものに目がない。さて、ここで僕はふと疑問を持ってしまった。いつからこの「色」というものを認識し、好きになっていったのか。僕は、その謎を解明すべく、母に聞いてみた。

「ねぇ、お母さん。どうして僕は色を好きになったのだろう。心当たりある?」

 そんな言葉に炊事場でトントンと緑色をした野菜を切り続けている。それもすごい速さで。いわゆる、千切りというやつみたいだ。僕は幼いながらもそんなどうでもいい知識だけは知っていた。慌ただしそうにしている母は答える事も無く、料理を作っていた。それを見た僕は少し寂しくなったけれど、お母さんの忙しそうなのは嫌でも、見て取れたのでその場をそっと後にした。

 自室に戻るとランドセルを開ける。そこにはたくさんの手紙が入っていた。もちろん、奴らのせいだ。僕をいじめの対象にするのは考えてみれば、簡単なことだった。体が小さい事や勉強が出来ないこと、最後の決め手は「色」についてやたらと詳しくて、周りの女子たちが僕を見つけては色鉛筆や絵の具を借りに来ることに嫉妬しているのだ。

 何とも皮肉な表現だが、色の事を色々と知っているが故に色々な面でハンデを負い、メリットとして女子が集まっていることだ。待てよ、このメリットは逆に僕にとってデメリットではないか? そう思うと「色」を好きになった自分を憎らしくも思えた。今の僕の心中の「色」はブルーを通り越してブラックにたどり着いていた。すべてが白黒で物が見えたらこんな思いをしないで済んだのに。僕の心境は、どす黒い心の奥底へと沈んでいった。まるでブラックホールに吸い込まれているような感覚を覚えたのだった。

 その後、僕の景色は、すべて白と黒しかないものへと変わっていった。

「色鉛筆、貸してよー」

 いつものように女子が色鉛筆を借りに来る。しかし、モノクロ世界へ飛び込んだ僕にとって色鉛筆の色は識別できない目になっていた。あそこまで好きだったものが一気に嫌いな物に変わり、徐々に色鉛筆を持ち歩かなくなり、図画工作の時間に使う絵の具さえも見るのが嫌になった。そんな僕を見ていた女子は離れていき、いじめも少し穏やかになった。変わらないのは僕の目の前に映るすべての物がモノクロのままだったということだった。

 そんな中、僕はとある女の子から「夏祭りに一緒に行きませんか?」と、声をかけられた。正直、気乗りはしなかったが、一人ででも祭りには行く予定だったので、一人でも二人でも同じかと思い、承諾した。そこで、誘ってくれた女の子は、僕に好意があるようだったが、モノクロでしか見ることができない僕の世界に彼女が期待している僕からの返事は出るはずがなかった。

 しかし、物事は急速に走り始める。

「そろそろ花火の時間! あたし、この花火をあなたと一緒に見たかったの。あなた、色に詳しいから何か聞けると思って」

 僕のモノクロの世界は色に詳しかった僕の世界とはかけ離れてしまっているのを彼女は知らなかった。そして、そのことを話し始める前に大きな音がした。

「あ! みて、みて! 上がったよ!」

 彼女のテンションについていくのが必死だったが、彼女の指さす方向に自然と目を向ける。そして、その瞬間に僕の何かがはじけ飛んだ。

「あの色は化学の本に載ってた炎色反応が生み出す色の変化なんだ! これだけ遠くからでも見えるってことは、規模の大きい炎色反応が起こっている証拠だよ! すごい! 色の変化がこの目で見れるなんて思わなかったよ」

 ここまでうんちくを話すと、僕は我に返った。あのモノクロの世界に一人たたずんでいた世界がまた「色」のある世界へ花火というものが導いてくれたのだ。もちろん、ここまで来るのに時間はかかったし、誘ってくれた彼女にも感謝したかった。再び「色」が好きという自分に戻り、モノクロ世界では見えなかった世界が今こうして、「色」の帯びた世界で見えるものの大切さが身に染み入った。

 そうして、数年後、僕をモノクロ世界から「色」のある世界へと戻してくれた人物と共に今を過ごしている。

「ラフはできたから、あと塗るなんだけど、どの色を使えばいいと思う?」

 彼女の問いに僕ははっきりと言葉を返す。
「そこまできっちりかけてるんだから青色一色ベースでいいんじゃないかな」

「了解。いつも助言をありがとう」

 お礼の言葉を継げられる度に僕の方が君に感謝すべきなのだよと言いたくなるのだが、そこは固く口を閉じて、僕だけの中で留めておくのだった。

―完―


いかがでしたでしょうか?

ショートショートの中から『僕と色』全編ノーカットで掲載させていただきました。

本作にはこの他にも数多くのショートショートが含まれています。全て気軽に読める作品となっているうえ、累計600部を超えるダウンロードを記録した大人気作『ショートショート~短編の中に我あり~』を収録しています!


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兼高貴也さんのnoteへ】

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【今回の執筆担当者】
兼高貴也/1988年12月14日大阪府門真市生まれ。高校時代にケータイ小説ブームの中、執筆活動を開始。関西外国語大学スペイン語学科を卒業。大学一年時、著書である長編小説『突然変異~mutation~』を執筆。同時期において精神疾患である「双極性障害Ⅱ型」を発病。大学卒業後、自宅療養の傍ら作品を数多く執筆。インターネットを介して作品を公表し続け、連載時には小説サイトのランキング上位を獲得するなどの経歴を持つ。その他、小説のみならずオーディオドラマの脚本・監督・マンガ原案の作成・ボーカロイド曲の作詞など様々な分野でマルチに活動。
闘病生活を送りながら、執筆をし続けることで同じように苦しむ読者に「勇気」と「希望」を与えることを目標にしながら、「出来ないことはない」と語り続けることが最大の夢である。
夢見る書店 本店
https://takaya-kanetaka-novels.jimdofree.com

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