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coro’s note from 夢見る書店 「果てのない戦い」

◆NEFNEに関わる人たちによる自由連載《汽水域の人々》
雑貨屋&フリースペースのお店「NEFNE」で交わるひとびと。多様な執筆陣がリカバリーストーリーをはじめ、エッセイ、コラム、小説など好きなように書いています。


 奴は、まだ午前中だというのに僕にまとわりついてくる。僕は「負けるものか」と奴と対峙する。首を横に振って、取り払うことを専念する。ふいに襲ってきた奴は、僕が昼食を取ると共に一気に力を増幅させてくる。そんな力に僕は少しひるんでしまう。

「ふぁー」

「大きなあくびだこと」

 僕のあくびを見ていた隣の席に座る涼子はボソッと呟いた。

「いや、また奴に襲われていてさ」

「毎日毎日、飽きずによく戦っているわね。あたしなら負けを認めてさっさとギブアップするけど」

 彼女は呆れた表情を見せる。僕は「そうかな?」と言って目を丸くする。

「じゃあ、あたし次の講義に行くから」

 そういって彼女は席を外して去っていった。僕はまた大きなあくびを欠いた。

「負けるか! このやろう!」

 気合を入れるため、お手洗いへ向かう。冷たい水を顔にかけて二度三度、叩いた。これで一時的に奴からの攻撃に抵抗出来る。

しかし、そう簡単に奴の動きは止まらない。次にくるジャブからの右ストレートはさすがにダメージが大きい。

「くそ!」

 防戦一方で戦うのは好きじゃない。一発で倒せる必殺技でもないかと考える。そこで、シャープペンシルを手に強く押しつける。痛みで奴を押し殺すのだ。ただ、これには一つ弱点があった。自分への痛みも受けざるを得ないという、いわば諸刃の剣だった。

「相手にとって不足なし」

次に相手は左フックの構えに入る。僕もノーガードでいるわけでいるほど甘くない。少し苦いブラックコーヒーを買って飲むことにする。これで左ボディのガードは固めた。ところが、奴は最後の力を振り絞り、アッパーを繰り出してくる。僕は少し油断していてアッパーへのガードが遅くなった。

「おきろー!」

「あれ? なんで?」

次の講義に行ったはずの涼子を不思議な顔で見る。

「ノート。忘れたから。寝てないかの確認もしに来た」

 僕は今日も睡魔と戦って、敗北したことを実感する。


【今回の執筆担当者】
兼高貴也/1988年12月14日大阪府門真市生まれ。高校時代にケータイ小説ブームの中、執筆活動を開始。関西外国語大学スペイン語学科を卒業。大学一年時、著書である長編小説『突然変異~mutation~』を執筆。同時期において精神疾患である「双極性障害Ⅱ型」を発病。大学卒業後、自宅療養の傍ら作品を数多く執筆。インターネットを介して作品を公表し続け、連載時には小説サイトのランキング上位を獲得するなどの経歴を持つ。その他、小説のみならずオーディオドラマの脚本・監督・マンガ原案の作成・ボーカロイド曲の作詞など様々な分野でマルチに活動。
闘病生活を送りながら、執筆をし続けることで同じように苦しむ読者に「勇気」と「希望」を与えることを目標にしながら、「出来ないことはない」と語り続けることが最大の夢である。
夢見る書店 本店
https://takaya-kanetaka-novels.jimdofree.com 

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