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コドモをやめるための基本書――『大人の道徳』雑感

『大人の道徳』という本を読んだので、ご紹介を兼ねての感想。周囲に褒める人が多いところから手にとったのだが、評判に違わぬ良書だった。

 著者の古川雄嗣さんは、道徳教育の専門家である。道徳は2015年の学習指導要領改訂により、既に小中学校で正式な「教科」となって教えられているが、この改訂については様々な議論があった。もっともよく見られる(定型的な)批判というのは、「道徳を教育するということは子供たちに対する特定の価値の押しつけだ」というやつであるが、本書のまず素晴らしいところは、こうした議論を冒頭でばっさり「意味不明」と切り捨てているところである。上記のような批判はいわゆる「左派」の十八番であるが、その左派が好むところの自由や平等や人権の大切さは従来も義務教育で子供たちに教え込まれてきたところであって、そもそも学校というのは子供たちに当該の社会において重視され、共有されるべき価値を教え込んで強制する場所に他ならないのだ、というわけだ。これは実際そのとおりで、自分たちにとって都合がよかったり「自然」だったりする価値観であれば学校で教え込んでも「子供たちに対する押しつけ」には当たらない、などと考えている人たちがいるのだとすれば、そのほうがよほどナイーヴかつ危険な認識であるというべきだろう。

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