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「特殊な世界に関する理想」からは少し離れて

 2月は冬にしてはやけに暖かい日が多くあったように思いますが、今日からはいよいよ3月ということで、陽気のほうもますます春めいてきそうな気配です。私も先月は雑事にかまけてろくに外出もしなかったのですが、今月からは雨の降らない日はできるだけ外に出て、軽く運動でもすることを習慣づけたいところです。

 さて、そんなわけで月が改まりましたので、noteマガジンのほうも更新となります。週五日、月~金曜日に更新されるエントリの有料部分を全て読めることに加えて、通常のツイキャス放送の録画や限定キャスの視聴パスも獲得できるお得なセットになりますので、従来の方も新規の方も、ご購読を検討していただければ幸いです。

 なお、先月分のnoteマガジンは以下になります。アーカイブ化に伴って無料公開の範囲を変更した記事もありますが、既にご購読いただいている方々には、もちろん従来と変わりなくお読みいただけます。

 2月1日のエントリには、 “「現実」がどうであれ、その中で変わらず幸福であり続けるために必要なことについての話” を多くしたいと書いたのですが、実際に先月の記事はそうした内容のものが主になりました。たぶんSNSなどをほとんど見ていなかったせいだと思うのですが、そうすると精神のほうはずいぶん平穏になりまして、やはり過多な情報から己を遠ざけておくことは、心の健康という観点からは有益なことだなあと、改めて確認したことでもありました。

 私が最近(に限らないかもしれませんが)のウェブ上の議論を見ていて感じるのは、そこではしばしば「時間」や「程度」の要素が捨象されがちであるということです。「Aは突き詰めればBになる」「だから結局のところBとAは同じことなのだ」といった論法はインターネットでよく見かけるものですが、事実としてはAが「突き詰め」られてBになるには時間を要し、またそのように変化がゆっくりと進行するうちに、純粋なAでも純粋なBでもない中間の程度で事態が均衡してしまうといったことは、この生活世界において私たちがしばしば経験することです。というよりも、私たちが社会生活の中で自ら観測する出来事のほとんどは、そのように推移するものでしょう。要するに、ほとんどが百年も生存していられない私たちの身体が経験する世界においては、「突き詰めた」ことよりも、時間と程度に支配された、「突き詰めきれない」範囲の事態のほうが、ずっと切実な問題になることが大半であるということです。

 もちろん、私はこのように言うことで、敢えて「突き詰めた」事態を想定した思考実験をすることにより、世界を理解するための有益な視座が獲得され得ることを否定しているわけではありません。生活世界の雑多すぎる諸性質を排除して、一定の条件だけを極端に強調してコントロールした、特殊な環境における限られた要素の挙動を考えてみることは、それが特殊な世界に関する「理想」についての思考であることを忘れない限りにおいて、たいへんに役立ちます。しかし他方で、「特殊な世界に関する理想」であるところの観念を、そのまま「現実」そのものであるかのように述べる言説が猖獗するような事態が生じたならば、その歪みは私たちが自身の身体をもって実際に生活している世界のほうにも、大なり小なりの影響を及ぼすことにはなるでしょう。

 言葉のうちでも、とりわけテクストにはそれ自体として明晰さと一貫性を保とうとする強い力動がはたらきますから、それを通じた議論は、しばしば極端な条件下における限られた要素の挙動だけをクリアに提示して見せる性質のものへと傾きがちです。就中、書き手についても読み手についても本人の固有の身体はヴェールの向こうに覆い隠され、各々に「スクリーンネーム」だけを有する発信者たちが、即時に大量の文章をやりとりしあうようなウェブ上の言説空間においては、その傾向はより顕著なものとなるでしょう。

 私としては、既述のとおり、そうした性質の議論にも一定の効用はあるものと考えていますが、この趨勢が行き過ぎてしまうことには、やはり多少なりとも警戒感を懐いてもいます。「特殊な世界に関する理想」を大いに語ることもそれなりに大切ですが、同時に私たちは、時間と程度に支配された己の生活世界のことも、常に思い出しておかねばならない。そんなことを最近はよく考えるので、2月に引き続き3月のエントリでも、身体まわりのことを主に書いてゆくことになるだろうと思います。もっとも、「特殊な世界に関する理想」の議論はなんだかんだで私も大好きなものではあるので、そういう話題も時宜に応じて、我慢できずに扱ってしまうことはあるでしょうが。

 ツイキャスのほうは、今月は対談の予定が多く入りそうなので、そちらだけで月に四回におそらくは達してしまいそうです。かなり皆さんの関心の高い話もできそうですから、こちらも是非ご期待ください。もちろん、私の単独でのキャスのほうも、できるだけやってゆきたいと思っています。扱ってほしい話題や対談のご希望などあれば、例によってDMやグーグルフォームなどを通じてお知らせをいただければ。

 ということで、花粉がつらい時期ではありますが、皆様なんとか暖かく幸福な春に向けて日々を過ごしてゆきましょう。今月も、どうぞよろしくお願いいたします。


※以下のマガジン有料エリアには、今月配信するツイキャス放送(録画)の視聴パスを記載しています。このパスで視聴可能な動画URLは、配信があるたびに、順次以下に追記してゆく予定です。

YSさんとの対談(鉄腸をとろかされている話、Xデーは近い)
山上さんとの対談(沈黙する女性と雄度の向上、恋愛市場への再参入など)
こんさんとの対談(男根つきぬいぐるみ、シンエヴァとポルシェなど)
一二三さんとの対談(男の子の母親に映る世界のこと)
月末の雑談(対談キャス振り返り、ミソジニーとエヴァなど)

 3月のツイキャス(録画)視聴パスが記されているのは本エントリのみであり、今月の他のエントリには有料部分にもパスの記載はございませんのでご注意くださいませ。

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2021年3月のエントリをまとめたもの。記事の有料部分は全て読める上、踏み込んだ内容を語るツイキャス放送の視聴パスも入ったお得なセットです!

2021年3月のエントリをまとめたマガジン。当月公開記事の有料部分が全て読めるのに加えて、ツイキャス放送(録画)の視聴パスも入ったお得なセ…

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