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まぶしさを通りすぎて

「ねえ珍事件発生した」

高校時代の友だちからライン通知が来たのは、ちょうどマックの巨峰シェイクを買おうとクーポンを提示したときだった。

180円です、とレジのお姉さんがさわやかスマイルをくれる。へらへら小銭を準備している間にシェイクは完成して、お姉さんがストローをさして渡してくれた。
マックを出て、暴力的な陽射しのもとで信号待ちをしながらライン画面をひらく。あの様子だと緊急度は2くらいだな。どこか知らないWi-Fiをひろってしまったスマホの動きが鈍くなって、画面をスワイプしてWi-Fi接続を切った。これ、いつも勝手にONになっちゃうんだけどなんなんだろう。いい加減使えないWi-Fiくらい覚えてほしい。まあ、もう4年使ってるiPhoneの6Sだから多少ポンコツなのは許すけど。長い付き合いじゃん、ねえ。

ポンコツなので全然ラインがひらかない。信号は依然として赤。手に持ったシェイクをすするけど、中身が全然持ち上がらなくてストローを唇にあてたまま吸うのを休憩した。たまにものすごくシェイクが飲みたくなるのは、このすぐに飲めないもどかしさもふくめて好きだからだと思う。吸引力を大にした口内がしびれる感じも嫌いじゃない。

やっとラインアプリが立ち上がったところで信号が青に変わった。同時にシェイクがストローを通過して口の中に入ってくる。ずず、ず。つめたい。
わたわたと道路を渡りきった先、古本屋さんの隣の日陰でメッセージを読んだ。

「彼氏の家の鍵持ったまんま帰ってきちゃって、彼氏が今日家に入れない!」

oh、なるほど珍事件。2週間前「彼氏ができた!」と連絡してきたぶりのやりとりだったから、その前後の流れからなんだかおもしろくなって口元がにやけた。
しかも、どうやら彼女と彼氏の家は2時間近く離れているらしい。どうすんの〜とのんびり返事をすると、今日は職場に泊まるって、とおなじくのんびり返事がきた。

口元がにやけたまま、よかったねえと返す。ぽつぽつどうでもいいやりとりをしながら、8月末会う約束をした。つぶれるまで飲もう、惚気めっちゃあるから聞いて、というメッセージにまた笑う。もちろん。飲みやすくなったシェイクをすすりながら、ほんとよかったねえともう一度思った。


わたしたちは全然似ていないし、たぶん理解し合えないことのほうが多い。彼女がこれっぽちも共通点のないわたしと一緒にいて楽しいのかはわからないけど、彼女もきっと、「なにそれぜんっぜんわかんない!」と笑ってくれることにわたしがどれだけ救われたかわからないんだと思う。


彼氏ができた、という報告をもらったとき、ほんとうにほんとうにうれしくて、テキストを打つだけじゃ足りなくて電話をかけた。なんだよおおげさだな〜と困ったように笑ったあと「ありがと、しあわせになりま〜す」と言う彼女の声はいつも通りで、わたしもいつものように笑った。うれしかった。ばーか、しあわせになってくんなきゃ怒るよ。

すっかりシャバシャバになったシェイクをずずずっと吸う。


あのころマックではしゃいだ高校生のわたしたちも、ハイボールを飲みすぎて記憶をなくした24歳のわたしたちも、ぜんぶぜんぶ歴史になる。通勤だけで焼けてしまった腕をふって歩き出す。まだまだこれからだ、かかってこいよ、夏。


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あの夏に乾杯 いつか過去になる未来もぜんぶ抱きしめてやる



#エッセイ
#あの夏に乾杯


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