見出し画像

しがらみ

ほころびが美しいからなんとなく触れてしまって、それがはじまり

思い出を上手に語る能力に長けているのは虚しいからだ

はじめからほつれた糸と糸だった作れるものは何もなかった

丁寧に管理をされた人間の優しさという暴力のこと

何度でも花びらは散る大切に守った嘘をばらまいて散る

長すぎる前奏みたい溶けてゆくアイスクリームがきらきらにじむ

ストローの先っぽ噛むのやめなって言うたび笑う好きだったひと

性懲りもなく夢を見るいろはすの似合う真昼に転がった夏

過去形にしたはずなのに丁寧に別れのキスをしたはずなのに

あふれても残る名前が鮮やかでインクが切れたフリクションペン

心臓の音が濁っていくことに慣れたら大人になるしかないの?

軽快に自転車をこぐ追い越した日々を何度もなぞって走る

拒んでも夜は明けるとあっけない現実みたいに唐突に知る

くたびれたトトロが見てる 大丈夫、ちゃんと傷つきにくくなったよ

ぶつ切りで終わる映画のほんとうのラストシーンをいつか教えて

手も声もたぶん幻 頑なに泣かないことを偉いといった

二の腕を抱きしめながら眠るとき思い出せない思い出になれ

コーヒーを淹れてくれたの夢だった 夢みたいだと思ってたけど

肌色の無数の傷を撫でているかさぶたにさえなれなかったや

季節にも濃度があってゆるやかに夜の光は加速していく

水色の記憶をたどる 窓際のいちばんちいさいマトリョーシカの

動かないエスカレーター駆け下りて来世はどこで恋をしようか

どうしても歪んでしまう唇のかたちで歌う 過去ばっか好き?

青春を終わらせるため海へ行く死ぬのは海の狭間がいいな

炭酸が抜けてしまったキリンレモン守らないのが約束だった

きっかけは何だったっけ 踏切の音がいつから怖いんだっけ

不規則に揺れるまつ毛がまぶしくて夏の終わりに気づけなかった

ふあんてい、ふあんていってかわいいね もう会えないのふあんていだね

別々のあしたを上手に生きていくメトロに乗って職場に向かう

痛かった深爪の色 おしまいはぬるい季節に来るものだった


2018/5

#tanka #連作

いただいたサポートは制作活動費に充てています。メッセージもいつもありがとう、これからも書いていきます。