輪郭がない
連作(14首)
少しずつ大人になって少しずつ君を忘れる僕を許して
たとえばの話をしたね痩せこけた腕に幾つも斜線を引いて
「嘘みたいだけどだれにも気づかれず手首を切ったことがあります」
投げつけた言葉の最後 ねじまがる気持ちの行方 いらない手紙
持ち主をなくした部屋に入るとき小指のつめを置いてきなさい
浮き輪から離れる勇気もないくせに「助けるぞ」って声だけあげる
内側にずらしてつける腕時計 弱いところは隠して生きた
ほんとうに強い子だった強がりに気がつかせずに死ねるくらいに
レミレドシ、レミレドシって暗号を口ずさんだら泣くからやめて
無意識に避けて通っていた道に「やさしいひと」が供えた花束
輪郭のない顔がまたやってきてそろそろ楽になれよと笑う
もう二度と進むことなどない日々に名前をつけてはじめて泣いた
ずるいのは君だと思うなんで今こんなところで風になったの
真夜中に自転車をこぐああ僕は止まらず君を追い越していく
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