初夏の変容


もう初夏と言っても良いのだろうか。小論文執筆に忙殺され、時の流れを見過ごしていたら、いつの間にかシアトルにも熱気が漂うようになっていた。

ホストファミリーが友人の結婚式にアムステルダムまで出掛けているので、彼らの代わりに庭の植物(ハーブと成長途中の木、そして今はトマトを育てている)に水をやり、出不精の身には貴重な日光を浴びる。

早々に日焼けしそうである。そう言えば、ハワイに行った時は三月にも関わらず皮膚が捲れるほど日焼けしたのだっけ。元々メラニン色素は少なくない方だと思うのだけど、たかが三年ほどしかシアトルにいないのに、肌はこの地域に順応し始めているらしい。

味覚も、以前より大分アメリカに慣れたのだと思う。日本にいた頃はファストフードは全然好きじゃなかったから(まぁ今も、特に好きではないのだけれど)。

身体だけではなくて、思考も慣れた。

先日日本に帰る際にやろうと思っているバイト先とオンライン面接を済ませた時、恐らく日本の風土ではもう少し下手に出なければいけなかったのではないかと思いながら、その様な態度の取り方を学ばずに生きてきてしまった為、非常に申し訳ない気持ちになった。
あちらはARのイベントを手掛けていることもあって、そんな事も気にしてないのかもしれないけれど。

先日まで掛り切りだった小論文は同性愛についてだし、ホストファミリーの友人カップルも同性同士での結婚式だと言っていた。
それを「そうなんだ」と軽く流してしまえる様になったのも、私の脳が環境に合わせて変容しているからなのだろう。


最近は暑い。
シアトルの気候に馴染み始めた私の身体でも暑さに喘ぐほど、とても暑い。
今期始めの頃は、夕方の授業を終わらせて帰って来る頃には辺りは真っ暗だったのに、今はまだ大分明るい。
ゆっくりと季節が変容し、それに合わせてまた私の脳も変わる。

夜は嫌に涼しくなるのが好きで、ついつい夜更かしをしてしまうから、ホストファミリーがいなくて寂しがっている犬と一緒にソファに腰掛け、読書をしている。

身体の熱を、網戸から吹き込む夜風が攫っていく。
私のすぐ横で寝息を立てる犬と、スマートフォンにこの文字を打っている私、私の傍で光りを放つ電子書籍。夏の風物詩。

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