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猫とヴォーカリスト。

スティービーに仲間が増えた。
春頃に紹介した目を忘れて産まれてきたスティービー※。この子と出会ってもう1年になる。山に捨てられ、日増しに寒さも厳しくなってくる中、生きていくことができるのだろうかと心を痛めていた。そんなとき偶然にも「幸せな生涯」を約束してくれた家族、石堂さん一家との出会いがあり、今も先住猫たちそして新たに加わった仲間に囲まれ元気に過ごしている。

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※僕、産まれるときに目を忘れちゃった。(小学館/PETomorrow)
vol.1 https://petomorrow.jp/column_cat/65884
vol.2 https://petomorrow.jp/column_cat/65899
vol.3 https://petomorrow.jp/column_cat/65907/2

スティービーが保護されたこの場所は捨て猫が非常に多い。人によく懐き飼われていただろうと思わせる子、人に怯え虐待があったことを感じさせる子、明らかに妊娠しお腹の大きい子、そして目もまだ開いていない子など、仔猫から成猫まで様々。そのほとんどが突然人前に姿を現すパターンだが、中には蓋付きのゴミ箱の中や、ガムテープで巻かれた段ボールに家族丸ごと閉じ込められていたりなど酷い捨て方もある。人の生活に寄り添って生きている猫にとって「捨てる」と言うことは「死」を意味する場合もある。どんな事情があるにせよ生きる道を考え、見つけて欲しい。

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石堂家にはスティービーと和錆びの他にもこの場所から保護をした猫がいる。この夏に新加入の「十兵衛」。十兵衛はちょうど10匹目の家族であることと、左目が不自由なことから柳生十兵衛に名前をもらったと言う。この十兵衛、スティービーも和錆びも、もちろん他の猫たちもついて行くのが大変なぐらいに有り余る力を発散中だそうだ。
特に自然の中で生きていくのが大変だろうという子を受け入れたり、里親捜しなども積極的に行ってくれている。石堂さんには本当に頭が下がるばかり。

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新入りの十兵衛(石堂さん提供)

そんなスティービーが幸せを掴むまでの記事を読み、同調してくれたひとりのミュージシャンがいた。彼の名前は「むらかみ けいじゅ」。

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まさかの展開。
彼がスティービーの記事をフェイスブックでシェアしてくれたことをきっかけに「スティービーの応援歌を作らない?」と軽いノリで伝えると「テーマが難しいけれど、チャレンジしましょう」と思いがけない返事が返ってきた。
友だちとは言え、年に1〜2度会う程度の関係、しかも相手はプロのミュージシャン(ヴォーカリスト・コンポーザー)、まさかこんな展開になるとは夢にも思わなかった。

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SNDB Live inまほろ座Machida

ライブが立て込んでいた時期にもかかわらず、デモが届き、あっという間にレコーディングが進んだ。しかも「ギターは岩見和夫(※1)さん、レコーディングエンジニアは志村祥一(※2)さんね」と。

おいおい僕にとっちゃ神的な存在だよ。

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岩見和彦さんLive Cafe BENTENにて

※1)岩見和彦/NANIWA EXPRESSのギタリスト。またMALTA率いるHIT AND RUNのメンバーや上田正樹のサポートも務める。レコーディングでは松原正樹とのコラボアルバムや、国府弘子・Brother Korn・Birthday Suite・斉藤由貴・森高千里・中山美穂・工藤静香・寺内タケシなどのアルバムに参加。
※2)志村祥一/レコーディングアーティスト・作曲家・アレンジャー。英国でサリナ・ジョーンズの専属エンジニアを務めたほか、弘田三枝子・葉加瀬太郎・グルニオン(林哲司・Cheep広石・吉田朋代)など、そのほか多くのレコーディングエンジニアを務める。

彼にどうしてこの曲を作る気になったの?と聞くと「スティービーワンダーが大好きだから、気になって読んでみたら猫の話でしょ。そして石堂家のみなさんの温かい心に触れ、このストーリーに関わる人たちが幸せな気持ちになってくれればいいな思って」と。

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飼えない?やっぱりあの事情…。
正直、彼が大の猫好きだったとはこの時まで知らなかった。そんな素振りを見せなかったこともあるが、彼もやっぱりあの事情。

「猫は僕が生まれた頃からいたよ。三毛猫だったからそのまんま“ミケ”。庭の物置を寝床にしてたな。今は事故や病気などいろんな事情があるから家の中で飼うことが薦められているけれど、昔は外飼いが普通だったしね」と物心がついた頃から当たり前のように猫がいた生活。

そして「ただ猫アレルギーなんだよね」と続いた。

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小学1年のとき、突然、目が開かないほど腫れ上がりドロドロの涙があふれ出したという。母親が慌てて病院へ連れて行くと当時は猫アレルギーなんて言葉は無く「アレルギー性鼻炎」と診断。特に動物の毛は、鳥なども良くないので気をつけるようにと言われた。

「猫だけなんだよねー。犬は2時間大丈夫。ニワトリは問題ない。動物大好きなんだけど、あー、猫飼いたい」としみじみ。
なぜか僕の周りには猫は好きだけれどアレルギーで飼うことができないという人が多い。

そんな彼が若い頃、友だちが土砂降りの雨の中、段ボールに入れられて捨てられていた2匹の仔猫を拾ってきた。ボズスキャッグスの「ボズ」とレジーナ・ベルの「ジーナ」と名付け、アレルギー持ちにも関わらず、育てるのを手伝うはめになった。
ある朝、息苦しさに目を覚ましたら、胸の上に手のひらサイズの黒い毛玉(仔猫)が。すると、目は充血し、話すことも、息を吸うこともできないぐらい咳き込み、急いでシャワーを浴びたが、このときばかりはさすがに死を覚悟したらしい。気をつけていても相手は動物。こういうことは突然やってくる。

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そんな彼が創った曲にせっかくだからPVも作りたいねとスティービーとのコラボをしたのだが、この時も30分おきに手と顔を洗いながらの撮影。
しかし、スティービーがいる石堂家のご主人はドクター。何かあったらなんとかしてくれるだろうと、安心してしまい彼に無理をさせたかな。

許せ!けいじゅ(笑)

I'm Always Be With You.
彼はこの曲に対する想いをこう話した。
「テーマがはっきりしていたので、元のストーリーをそのまま物語にしようと思いました。その際、保護をした石堂さんの目線で書くか、保護されたスティービーの目線で書くかアイディアは2つ。少し悩んだけれど、このストーリーは『人の心』が中心にあり、その温かさを描くべきなのではないかと考えました。スティービーを取り巻く多くの人たちの温もりを、この歌を聞いてくれる人たちに届けることができたらとてもハッピーです」

♪♪♪♪♪
光を忘れて君は生まれてきた
見知らぬ街角で君は怯えていた

どこにいるのかわからずにためらう足元に
たとえ小さな標でも差し出せるものなら

もしも叶うならこの手で抱きしめたい
小さな願いよ君に届け
I'm always be with you.

いつかはここから離れて行くのだろう
それでも未来は温めてあげたい

そんな明日を決めたのに流れ落ちる涙
心の奥で求めてる君と生きる道を

いつも幸せを この手で抱きしめたい
そんな思いで君を探していたんだ
愛よいつの日か君の瞳に届け
小さな奇跡が今ここにあるよ動き始めてる
Always be with you.

君の温もりで世界は輝き出す
そんな想いで君を見つめているんだ
愛よいつの日も君の瞳に届け
生きる勇気がここにあるよ
I'm always be with you.
♪♪♪♪♪

この曲で僕が彼にお願いをしたのはふたつ。
「スティービーを通して行き場を失った多くの猫たちに、温かい手が差し伸べられるような内容にして欲しい。そして、多くの猫が好きな人、この曲に共感してくれた人たちが、声を合わせて歌えるようにして欲しい」

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猫は人の生活に寄り添い、その環境のもとでテリトリーを構築しながら生きていく生きもの。それを人の都合で馴染んだ環境から別な環境にいきなり放り出され、そこで「生きろ」と言われても、彼らはすぐに受け入れることとなんてできやしない。
猫を含め、動物が嫌いな人も少なくないでしょう。しかし人間の都合を動物たちにだけに押しつけてよいのでしょうか?好きとか嫌いとか、そいう次元ではなく「共に生きる道」を真剣に考えていく必要があると思います。

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PVのオープニングに使ったスティービー。小田久美子さんの作。

僕は「君の温もりで世界は輝き出す」このフレーズが一番好き。この曲を口ずさみ、時にはみんなで歌い「小さな温もり」の尊さが多くの人に届いたら、とても素敵なことだと思う。
(2018年10月記/小学館 PETomorow掲載)

文・写真/ケモノの写真家。小山 智一
http://ne-cozou.com
イラスト/猫画家 小田 久美子


むらかみ けいじゅ
ボーカリスト・コンポーザー。
1994年デビュー。シングル5枚、アルバム2枚リリース。その後、セルフプロデュース『Triangle Snow In Christmas』を発売。
ボーカリストとして、角松敏生プロデュースアルバム『VOCALAND2』、SUMMER SONIC 2010でStevie Wonder のクワイヤー、アルバム『福岡ソフトバンクホークス選手別応援歌』に3年連続参加など。またコンポーザーとして、テニスの王子様 白石蔵之介『風の遊園地』、AKB48派生グループDIVA『For tenderness』などに楽曲提供。

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