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僕、産まれるときに目を忘れちゃった。vol.1

偶然が導いた奇跡の「縁」。
ボランティア活動をしている友達から「両目の眼球の無い仔がいたの…。どうしたらいいだろう…」とラインが届いた。捨てられていたらしく、目が見えない上に、シッポのつけ根に怪我をしていると言う。
さらに「エサや水を置いても見つけて飲むことさえままならないの。外で生きるのは難しいよね」と厳しい状態がひしひしと伝わってくる。

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後日、様子を見に行ってみた。辺りを探してもそれらしい仔はおらず、どうしたのかな?と思っていたら連絡をくれた友達が、毛布にくるんだその仔を抱いて現れた。病院へ連れて行き治療をしてきたと言う。
仔猫の頃カラスに突かれ眼球をなくす仔もいるけれど、この仔の場合は先天性のものとのことだった。状況をいろいろと教えてくれながら「なんで捨てちゃうんだろう…」と、ギュッと手を握りしめた彼女の姿がとても切なかった。
彼女の家も保護動物のキャパをすでに超えており、ここに発泡の箱で家を作りとりあえず様子を見ることになった。この場所でボランティアの方々を支援してくださる奥さんの許可をもちろんいただいてね。

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ここ何年か「ここには猫が沢山いる」がSNSで拡散され、この場所に多くの猫が捨てられるようになっている。こうした事情からあえて場所を証さないが、空前の猫ブームと言われる今、このような問題があちこちで増えているのも事実。
こちらでボランティアの方たちを支援してくださっている奥さんも大変心を痛めている。「できるだけのことをしているつもりでも、増えすぎると手が回らなくなり、中には可哀想な仔も出てきてしまうのよね」と話す。奥様は同じ敷地内にあるご自宅でも、捨てられた仔や、避妊に手が回らず繁殖した仔などを保護し家族として現在9匹迎え入れている。

そんなある日、この場所に併設しているレストハウスで、奥さんとコーヒーを飲みながらこの仔の行く末を心配していた。すると隣のテーブルにひと組の母娘が席につき猫の話しをはじめた。この場所ではよくあることで、気にもとめず奥さんと先ほどの話しの続きをはじめたら、突然「あの…」と声を掛けられた。

この母娘は何日か前、この近くに用事があり、カーナビ通りに進んだはずが偶然に道に迷ってここに来たらしい。しかも沢山いる猫の中で「この仔、動きが変だよね」と目のないことに気づき、関心を持ったそうだ。その時、娘さんは「家族として面倒をみてあげたい」と言ったそうだが、お母さんは果たして面倒が見きれるのかと不安だったことと、もし他に感染する病気を持っていたら先住猫たちに可哀想な想いをさせてしまうとその要望を受け入れなかった。しかし不憫に思う気持ちは一緒。「あの仔」のことが頭から離れず「何か方法はあるはず」と色々調べたと言う。
そしてある施設を見つけ「費用はかかるけれど、ここなら困ることなく生涯過ごしていけるね」と、ひとつの案を見つけ、今日また来たことを自分たちに告げた。
その日はあまり時間がなく込み入った話ができなかったので、連絡先を交換し「費用は私たちで負担しますから」と言い残して母娘は帰っていった。

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突然の救世主は東京から来たという石堂裕子さんと娘の杏殊さん。この出会いに驚きと喜びを感じたが、同時に施設の名前は聞いたことあるが実際にどんなところなのだろうという不安も正直残る。
それは裕子さんも同じで「施設なら困ることなく生涯過ごしていける」と思いながらも、本当に幸せになれるかどうか迷いがあったことを後から聞いた。
いざ施設に連れて行く当日も迎えに行く中「ここにいるより幸せだよね」と何度も自分に言い聞かせて車を走らせたと言う。
そんな気持ちは娘の杏殊さんにも伝わっていたのだろう。迎えに行き、手にした瞬間「ウチで飼おうよ」と涙をこぼした。話によると1時間近く話し合いを続けたそうだ。
一歩も引かない杏殊さんに折れたというより、裕子さんも心の中でそうしたい気持ちがめいっぱいあったのだろう、晴れて石堂家の住民になることが決まった。

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帰りに動物病院へ直行し、シャンプー、各種検査、そして去勢手術を行い、受け入れる準備を進めた。心配していた病気も無く、歯もきれい。ただお腹に寄生虫がいたので虫下しを処方して貰ったという。
そして「どんな逆境にも負けずに、与えられた命を生き抜く。そしてかっこいいピカピカのニャンコになって欲しい」という願いを込めて、杏殊さんが名前「スティービー」と名付けた。

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この日から石堂家の住民となり新しい生活をはじめることになったスティービー。その暮らしぶりを次回はちょっと覗いてみよう。

文・写真/ケモノの写真家。小山 智一
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