『ヒーローショー わたしが躓いたすべてを当事者研究から眺める』第1章.18

こうして初めて心情内科で薬を処方されました。薬は朝昼夜と一日3回分で、精神安定剤2種類、抗うつ剤1種類、睡眠薬1種類と、初回にしては沢山出されているな、という印象を持ちました。ここで抗うつ剤を処方されていたのですが、だからと言って自分がうつ病だとかは思っていなかったのです、この時は。とにかく頭がぼんやりしていたから、あまり考えずに薬局で処方薬を受け取って、ぼんやりと帰宅しました。
そこからまずは一週間の投薬が始まったのですが、とてもつらいものでした。朝に安定剤2種類飲むことで、朝と昼は酷い倦怠感におそわれ、日中は活動出来なかった。病院へ行ったことは家族には話していなかったので、家事や介護が出来なくなった自分に、家族からよく怒られていました。仕事を急に辞めたことだけでも責められていたのに、日中の活動がままならずに部屋でぐったりしている様子に、家族全員から「怠け者だ!」と更に責められていました。おおよそ精神的なことに理解が無いであろう家族には、なにも話せなかった。自分自身でも、
「私は怠けているだけなんじゃないの…?」
とさえ思っていたから、とてもつらかった。一番酷かったのは夜でした。睡眠薬を飲むことで、夜中になかなか自力では起きられないのです。薬を飲んでいるのだから当たり前なのだけれど、母がよく身の回りのことを頼むのに夜中のあり得ないような時間に私を起こして頼んできたので、夜中に起きれないことには本当に困っていました。
投薬一週間を終えて、2回目の診察日が来ました。電車に揺られてぼんやりと病院へ行く。長い待ち時間の後、診察室から出てきたおじいちゃん先生は、なんとカルテを見ながらなのに私の名前を呼び間違えたのです。しばらく、誰を呼んでいるのかわからなかったけれど、最後に
「あ~…当麻さん、当麻さんだったねぇ…。」
とぼんやりした口調で呼ばれてやっと私が名前を読み間違えられていることに気が付きました。カルテ見ながらなのに、何回名前間違えるねん!と私は内心すごくイライラとしてしまいました。診察室で、
「調子はどうですか?」
と聞かれ、
「薬の効き目はまだよくわかりません。夜は眠れません。下痢が酷いのですが、副作用じゃないですか?」
と答えました。すると、薬の種類が変わっただけでなく、量も増えてしまったのです。
「副作用なんてまったくないお薬ばかりですよ」
と言われたのですが、初回の薬も2回目の薬も、後々薬局の薬剤師さんに聞いたら副作用で酷い便秘や下痢が出るものがあると説明されたのです…。それで私は完全におじいちゃん先生への不信感をつのらせました。副作用がないなんて、嘘じゃん!
この頃、ついに両親に心療内科へ通っていることを話さなければならなくなりました。私の手持ちのお金が無くなったのです。やむを得ず親にお金を借りて通院を続けるしかないな、と思い打ち明けたのですが、親子3人で激しい口論になってしまいました。父も母も、
「俺のほうがつらいし死んでしまいたい!」
「私のほうがつらい!私のほうが死んでしまいたい!」
などと喚き、私が過去に自殺未遂をしていた話や、死にたい気持ちや不眠がつらくて病院に通っていることにも、その時は否定的な態度をとられたのです。
「お前が自殺したってお前の勝手だろ!」
「俺が悪いって言うのか!?」
「俺のせいにしたいのか!?」
と、特に父の荒れ様は酷かった…。別に私は父や母を責めたつもりはなかったのですが、家庭内のストレスが原因だというのは話してしまったので、そういう反応をされてしまったみたいでした。結局、3人で喚きまくり、私は泣きまくって、疲れて身動きがとれなくなった。しばらくしてお金自体は借りられたけれど、悲惨なカミングアウトになってしまったのでした。
そして次の診察日、また先生から名前を間違えられる。そして、やはりまたしても薬の副作用をうったえたことで薬を変えられたのですが、その変更になる薬の名前を先生はド忘れしたようで、なんと患者の私の目の前で分厚い薬の辞書をぱらぱらとめくり、ぶつぶつと独り言を言いながらずっと辞書を読んでいたのです。薬をド忘れすること自体、おかしな話なのに、患者の目の前で辞書をめくって読みだすのもどうかしていると思った。やっぱりこの先生信用出来ない!そう思いながらも、親に
「先生に何の病気かきちんと聞いて来い」
と言われていたので、確認してみることにしました。最初私は、
「ここって病院ですよね?血液検査とか、血圧測定とか、やらなくていいんですか?」
と尋ねてみた。
「そういうのは内科へ行ってください」
とあっさり言われました。内科的異常とか確認せずに精神薬を処方するの?と疑問に思った。
「じゃあ私は、いまどういう状態なんですか?なにかの病気なんですか?」
と尋ねる。すると、
「ん~と…たぶんね、睡眠障害と、軽いうつ状態なんじゃないの?」
と、ヨボヨボした口調で返されたのです。私は唖然とした。たぶんってなに?軽いってなに…?私は死にたくて自殺までしたことあるのよ!いまだってこんなにつらいのに軽いってなんなの?!と私は完全にもう先生の診察を信用できなくなりました。

そうして新たに出された睡眠薬と、抗うつ剤に、私は苦しめられることとなりました。まず、薬局で抗うつ剤に対する使用注意のパンフレットを渡されました。そこには、SSRIと呼ばれる抗うつ剤だということ、徐々に時間をかけて量を調整していかなければならない薬であること、それから、勝手に飲まなくなるなど使用を中断してしまうと、強い副作用や禁断症状が出るので、処方も慎重にすべきであり、飲む際にも注意するように、と書かれていた。これは「パキシル」という薬でした。未成年に処方するのは、自殺などを引き起こす可能性などの危険が伴うので厳重に注意するように、とも書かれていました。本来はきちんと処方通りに飲んでいれば安全な薬ではあるのだけど、それを読んだ私は飲むのが怖くなった。自己判断で飲むのを止められないってことは、私は一生薬漬けにされてしまうのかもしれない!しかも死にたくなると言っている患者に、自殺のリスクがある薬を処方するなんてあの先生どうかしている…!と、私は一気に薬や病院への不信感を強めてしまったのです。結局パキシルは怖くて一度も飲めませんでした。
次に、睡眠薬の「ロヒプノール」ですが、もはや先生や薬への不信感を強めていた私は、自分でネットで薬のことを調べてみることにしたのです。すると、中期型の睡眠薬であること、(効き目の長さが中くらい)国内ではよく処方されるが、海外ではとある理由から、処方は厳重になっていること、故に日本からの海外への持ち込みは原則禁止されていることなどがわかりました。こちらも、正しく処方通りに服薬をすれば何の問題の無い安全な睡眠薬だし、その後の私も寝る前に飲んで寝ていた時期がやってくるのだけど、当時の私は、ネットでの副作用などの情報にばかり目がいき、薬を飲んで眠るのが怖くなったのです。実際飲んで寝てみれば、ぐっすり眠れて、朝は少し眠気とだるさが残るくらいでした。けれど、夜中にトイレに行きたくなった時は大変だった。薬の特徴で、強い眠気と、体が鉛のように重たくなる、というのがあり、トイレはベッドから這って降りて、四つん這いになって行くしかなかったのです。また、薬を飲んで眠ってから、夜中母に起こされても、体が動かず頭も働かなかった。しかし母が執拗に起こすので、仕方なく這って階段を降りて、四つん這いでリビングへ行き、母に向かって
「薬ぃ~、のんれるからぁ、おこしゃないれって言っれるれしょぉ~!(薬飲んでるから起こさないでって言ってるでしょう!)」
と力なく言ったりしていました。完全に身体が薬に慣れていなくて、呂律が回らなかったのです。その様子を見て、母も納得したのか、夜中に起こされることは減りはしたけれど、万が一大きな地震や火事などがあった場合、私はきっと逃げられずに死んでしまう!といったような不安は強くなりました。
 それからというもの、病院も先生も薬も信用出来なくなり、病院へ行くのをやめてしまいました。すると病院の受付から留守番電話が入ったのです。
「当麻さん、今日予約日ですよね?なんで来られないんですか!予約してるのに何をしてるの!?」
と、受付の人は電話口でかなり怒った口調だった。それが怖くて後々、「病院へ予約の電話を入れるのが怖くなる」という現象に悩まされることになったのです。
 

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