『ヒーローショー わたしが躓いたすべてを当事者研究から眺める』第一章.07

こうして私は受験失敗のショックを引きずったまま、泣きながら荷物の整理を始めた。とても重大で重要な話を前もって打ち明けてくれなかった両親に、私は怒りや不信感を抱きました。大事なことを隠していただけではなく、私立受験さえ最初からまったくの無駄だったのだとわかり、父に騙された!とまで悲観的にもなったりしていました。もうこんな親、信用出来ない!とも思うようになってしまっていた。こうして私の明るい未来は大きな音を立てて崩れ落ちたのでした…。
 その後、なんとかギリギリで借家が見つかり、一家離散は免れました。新しい住処は以前の家から車で五分程度の場所になったので、中学卒業まではなんとかなる…けど、生活はどうなってしまうの?受験は続けて大丈夫なの?とずっと不安な毎日を過ごしていました。朝起きるのも、学校に向かうのも全部が億劫。授業を受けるのにも、虚しさを感じていました。こんなことをしていて大丈夫なんだろうか?今日の夕食は、食べられるのだろうか…?毎日家庭内のことが気になって、頭はぼんやりしていました。慢性的なひどい頭痛や肩こり、謎の眠気や鉛のようなだるさも続いていました。いま思い返してみれば、これって抑うつ状態だったのではないかな、と今振り返ってみてそう思う。いや、人間誰しも、ネガティブな事柄が続いたり、疲労が蓄積すれば、このような症状には誰でも陥るものだと思う。それが何週間とか、何ヶ月とか継続するようになって初めて、“病的”なものになってしまうのだろう。なのでこの時の私の抑うつ状態とは、まだほんの一時的なものだったかもしれないなと思います。(後々にはうつ病を発症するのだけれども)
あとは、当時は“うつ病”なんて言葉自体、私の周りでは聞かなかったし、知らなかったのです。そもそも心の病気、精神疾患などという言葉さえ私は知らなかった。子供だったとはいえ、あまりにも無知だった。

そんな状態から、父がまた働き始めたことで生活は少しだけ落ち着き、私はなんとか普通科入試を受けることが出来て、無事に合格しました。生活は相変わらず貧乏なまんまではあったけれども、なんとか高校には入学出来ることになり、一安心しました。しかし私の頭の中のもやもやは消えてはくれなかった。美術科へ行けなかった悔しさ、両親への不信感、いつまた家を出て行かなければならなくなるかわからない、先の生活への不安感。私はもうどれもこれも、自分の心の中のことを、両親には話せなくなっていました。兄とももともと深く話すような仲ではなかったから、私の中ではたった独りきりで、得体の知れないもやもやとしたものがどんどん大きく膨らんでいくような感覚でした。けれどそんなこととは関係なく、時間はどんどん前に前に進んでいき、中学校卒業と、高校入学の日がやってきました。親友の女の子(以下、Aちゃん)は、成績が良かったので、当時県内の公立では一番賢い高校へ入学した為、初めてお互い離れ離れになりました。家は近所だったけれど、毎日一緒に通学していた中学生の時と比べたら、一気に会う頻度が少なくなった。Aちゃんはどうだったかわからないが、私はとてつもなく心細くなっていました。慣れない電車通学、馴染めないクラスメイト。高校受験に失敗したのをきっかけに、私は更に人間不信を深めてしまっていて、新しい環境で新たな人間関係の作り方がわからないでいました。そもそも、小学校を卒業してからというもの、自力で友達を作ったことがなかったことに、その時になってはじめて気付いたのです。あれ、友達ってどうやって作るんだっけ?どうやって、話しかけるんだっけ?私は目の前がクラクラとしました。高校生活、やっていける気がしなかった。それでも、また普段のように絵を描いていれば、本を読んでいれば、時間は過ぎていくよね…とそんなふうに現実逃避していた矢先、クラスの女の子のひとりに声をかけられました。新しい友達は、相手から声をかけてくれたことであっさりと出来てしまった。それをきっかけに、漫画が大好きな子達三人と仲良くなりました。中にひとり、なんとも難しい性格の僕っ子が居て、その女の子は三国志が大好きでした。三国志の歴史をよく熱弁してくれていたけれども、すぐに不機嫌になる子でもあった。原因は結局よくわからなかったけれど、当時の私は、その子を怒らせないようにと、まるで腫れ物に触れるように接してしまった。これがいけなかった、またしても失敗しました。ある日を境に、私はその子から完全に無視をされるようになりました。原因はきっと、私が彼女の感情の起伏にオドオドしてしまっていたのが気に入らなかったのだろうけれど、本当のところは、わからないままです。更に、夏休み中に彼女が立ち上げていた自作のホームページに、“荒らし”が入ったことがあった。その“荒らし”として、私が疑われたのです。彼女はすぐにホームページをやめてしまいました。私が疑われているというのは、共通の女友達から知らされました。それをきっかけに、私は仲良くしてくれていた三人と、夏休みが明けてからまったく話せなくなってしまいました。あちらから話しかけられれば応答はするけれども、自分からは声をかけられなかった。私は、怖かったのです。その三人全員を敵に回すのも、嫌われるのも。

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