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務川慧悟ピアノリサイタル@ゆめたろうプラザ

2月6日(土) 15:00開演

初めて務川慧悟さんのソロリサイタルを拝聴して来ました。この日をどんなに心待ちにしていたことでしょう。

務川さんに興味を持ったのは実はまだ最近なのです。ピアニスト反田恭平さんより務川さんのお名前を伺い、反田さんにあんなにも愛される務川慧悟さんってどんなお方なのかな?と思ったのがきっかけでした。
記憶にも新しい2019年ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールのファイナルに反田さんが応援に駆け付けた事でも(私も一緒に応援しました!)お二人の熱い絆が垣間見れます。

そんな気になる務川さんのSNS(このnoteも含め)をチェックしてみたところ、みるみるうちに魅了されてしまったのです。なぜなら、彼のピアノ以前に彼の書く文章に惹かれたから。彼はピアニストを生業としながら、哲学者であり、文筆家であり、さらにはコーヒーとワインの愛好家というお顔も覗かせる大変多才なお方なのです。

さて、そんな務川さんの演奏をぜひホールで聴きたい!と思っていたところ、何とタイムリーに地元愛知でのソロリサイタルの案内を知る。

そんなこんなで今を時めくピアニスト務川慧悟さんが、この田園の中にポツーンと佇む「ゆめたろうプラザ」にお越し下さったのでした。私は名古屋から帰郷♪しばし、のどかな風景に癒やされる。空がひろーい!

定刻開場。お顔やお手元がきちんと見える5列目席に座れた!嬉しーい!!
今年初めてのコンサート♪しかも念願の務川慧悟さんのリサイタルだなんて、何て幸せな日なんだろう。ドキドキ。。。

~開演~

ブラックのスーツとシャツでノータイ。いつも通りスタイリッシュな装い。胸にはゴールドのチーフ。いつも思うけれどチーフのあしらいが本当にお上手で素敵。客席照明が落とされステージがライトアップされると、ピアノの屋根に内部が反射してゴールドに輝く。ダークトーンのステージにチーフと屋根のゴールドが一際映える。開演30秒足らずで美しい芸術にひとつ触れた瞬間であった。

椅子に座って迷わずすぐに演奏が始まる。潔い。カッコいい。(好きがダダ漏れ。。。)

『ヘンデル:シャコンヌ ト長調 HWV435 』幕開けに相応しい、この上なく美しく華やかな一曲。務川さんのバロックは宇宙一美しい。いきなりこんな、いまどき小学生でも言わないような感想で笑われるだろうけど、限りなく透明で極めて繊細な音の数々は宇宙の響きにも感じた。昨年より“Hand in hand”等の配信コンサートにて務川さんの演奏を聴いてきたけれど、やっぱり直接肌で感じる音楽は比べようがない程に心を動かす。全身に浴びる美しい音楽に涙が溢れた。

感動を味わいつつも務川さんのnoteでバッハ奏法について大変勉強になる文章を書いて下さっているのですが、それを思い返してみる。ピアノがない時代の曲をどう演奏するかの拘り。務川さんはペダルをほんの僅かに、さらに小刻みに踏んで美しい響きを織りなしていた。彼の演奏は鋭敏で繊細な感性と確かなアナリーゼと研鑽とによって、作曲家達が思い描く音楽を見事に表現しているのだろうと思う。彼の音楽に対する姿勢はまるで日本の伝統工芸職人の姿のようにも感じられるのであった。

『ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ』この曲はシューベルトをお手本にして一連のワルツ集を作られたそう。シューベルトには『高雅なワルツ集』と『感傷的なワルツ』という曲があり、タイトルを似せてるあたりにもシューベルトへのリスペクトが感じられますね。

Ⅰ~Ⅷ(エピローグ)まであり、行進曲風に華やかに始まるが、緩やかで静かな曲が多い。ラヴェルらしいフレーズが所々に感じられ、務川さんの敬愛するラヴェルの良さを存分に楽しめました。印象深いシーンは離鍵後、その音を両手で包み込むような仕草をし、愛おしく減衰させていくところ。本当に務川さんの手の中ですぅーっと消えたみたいだった。そして、Ⅷのエピローグの最後の1音。その音が減衰し消失しても、暫くはこの心地よい余韻に浸っていたいと思わせるほど、このワルツの静かな終わりは静寂までも含めて美しかった。

『ショパン:ピアノソナタ 第2番 変ロ長調 Op.35「葬送」』1月中旬に務川さんよりプログラム変更のお知らせを頂く。「どうしても今弾きたいと思いました」と。彼の頭の中は弾きたい曲に溢れている。リサイタルプログラムは今弾きたい曲、という姿勢も好きなところです。ちなみにこのリサイタルは10ヶ月延期となっています。その間に弾きたい曲が変わるのも無理ないですよね。そして、演奏は。。。

重圧に胸が締め付けられたかと思ったら、天国のような世界が広がったり。私の稚拙な文章であの素晴らしい演奏を表現するのは大変失礼なので止めておこう。ただ、希望の光も感じる中で強い哀しみが拭えず、苦しかった。それほどの渾身の演奏であり、務川さんのショパン 『葬送』ソナタ を聴くことができ、今日この曲を弾いて下さった事に感謝した。

『ブーレーズ:アンシーズ(2001年版)』務川さんの2020年に発売された国内初のソロアルバムにも収録されている曲。この曲はCDで何度も聴いたけれど難しい。。。ただ思うのは“おもしろい曲”です。ごめんなさい。CDの解説の中で務川さんですら「複雑性を極めまたその演奏難度も極めて高い」と仰るくらい。演奏中、お手製の切り貼りされた楽譜を見つめる強い眼差しに、この曲への執念を感じる。今日の演奏を務川さんご自身がどう評価されたかは気になるところだけれど、それはそれは凄まじい演奏であった。きっと今後もブラッシュアップされ続け、彼の代名詞のような曲となるでしょう。

〜休憩〜

『ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガより 第15番 変ニ長調』軽快で楽しい曲。今までの緊張から解放されてルンルンな気持ちで聴いた♪(聴き手とは裏腹にまたしても難曲である)

『ラフマニノフ:コレルリ主題による変奏曲 ニ短調 Op.42』ラフマニノフ最後のピアノ独奏曲。多彩なタッチで幅広いニュアンスが弾き分けられる、エスプリの効いた音楽を奏でるピアニスト。
(実際に務川さんの出身高校は県下トップ高!)

静かに終わる曲は務川さんが席を立たれてから静かに拍手が沸き起こる。なぜなら聴衆は皆んなその余韻に浸ってしまうから。

〜アンコール〜

『ドビュッシー:風変わりなラヴィーヌ将軍』アンコールでは幾分リラックスされたご様子で登場。ここで初めてマイクを握る。務川さんより「プログラム変更により聴衆の方には少々肩の凝るプログラムとなってしまいました。」聴衆席より笑いが起こる。そこで、そんな聴衆へのお気遣いによりこのユニークな曲を演奏して下さいました。こういう曲を弾く務川さんは初めてで、アンコールならではの楽しみだなと嬉しく思う。

1曲弾かれてステージから下がる。鳴り止まない拍手。

再び登場!!

シャイな務川さん。次の曲の説明に入る前に、恥ずかしそうに笑う。本編では見せなかった27歳のお顔。

2020年7月に楽譜を初出版された務川さん。ラヴェルのピアノ4手連弾の組曲を独奏に編曲されました。ラヴェルの作曲の書法の特徴を踏まえながら丁寧に作業をされたと楽譜に書かれています。サイン版入手できました♪

そう、アンコール最後の曲は。。。

『ラヴェル:マ・メール・ロワ』より終曲「Ⅴ.妖精の園」務川慧悟 編

ペロー「眠れる森の美女」の眠りについた王女が王子の口づけで目を覚ますシーンが題材。キラキラした輝きを放つ美しい音に目眩がする。終盤のグリッサンドのシャワーはまるで洗礼を受けているかの如く、清らかな気持ちにさせてくれた。


ずっと聴きたかった務川慧悟さんのピアノは期待を遥かに超えていて、私の大好きなピアニストの一人となりました。フランスや周辺国でも大人気のようですが、日本での演奏活動もこのままずっと続けて欲しいなと切に願います。

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