King & Prince 5th Album「ピース」 全曲レビュー 前編
2022年11月4日の深夜、約半年後にKing & Princeから3名が脱退することが発表された。
それから半年間の5人での活動を経て、2023年5月23日、King & Princeは5人グループから永瀬廉・髙橋海人の新生デュオになった。
この日はKing & Princeデビュー5周年の記念日でもあり、当日には複数のSNSを使用してお祝いの生配信が行われた。
公式YouTubeチャンネルでアーカイブを見ることができる。(とにかく優しい空間でめちゃくちゃふわふわでかわいい。平和を映像にしたらこれだと思った。)
約一ヶ月後の6月21日には、King & Princeとして13枚目、2人になってから初めてとなるシングル「なにもの」をリリース。
7月2日にはKing & Prince初のファンミーティングとなる「King & Princeとうちあわせ」を有明アリーナにて開催。
その公演にて、5th Album「ピース」のリリース(8月16日)が発表、更にLIVE TOUR 2023 ~ピース~(8月27日宮城~12月10日愛知 全7都市24公演)の開催決定が発表された。
2人になってからも止まることなく全力で駆け抜けるKing & Princeの、大切な最初のアルバムとなる「ピース」。
全14曲の感想を、雑誌・メイキング映像・オフィシャルライナーノーツ・ツアーパンフレット・ラジオなど、各種媒体から読み取ることができる彼らの想いを踏まえながらまとめていく。
全曲レビュー 前編
※上記サイト内で、全曲の試聴が可能です。
1. 静寂のパレード
作詞:大山恭子
作曲:浅田大貴
静寂の中にスネアドラムの楽しげに弾む音が軽やかにリズムを刻み、そこに華やかなブラスが重なっていくことでこれから楽しい時間が始まることを予感させる。
ライブでの華々しいオープニングが目に浮かぶようなサウンド。
海人くんの明るい声色の優しいメロディラインが溢れ出し、サビの直前、印象的なストリングスで盛り上げる。
そしてサビに入ると、高らかに響くブラスで一気に空が晴れ渡り、頭上に綺麗な虹がかかる。
大きな体制の変化を経て、これからも笑いあえるよう歩みを止めず、自分たちのペースで楽しく進んでいくKing & Prince。
その最初のアルバムの幕開けとして、こんなにぴったりな曲がよくできたものだと思った。
ジャケット写真も曲のイメージそのまま。
最初からアルバムのための曲という装いだけれど、この曲はアルバムのために作られたものではない。
元々は、シングル「なにもの」のカップリングとして候補に挙がっていたものだそう。
最初のシングルのカップリングというのもたしかに良いけれど、アルバムの1曲目に抜擢されたことで曲の良さが最大限に活かされる形となった。
ワンハーフ(1番のみ)になっているのもオープニングの導入として勢いを持たせてくれる要素だ。
体制変更前からのファンであれば、以下の歌詞は特に刺さった人が多いんじゃないかな。
ファンそれぞれが色々な想いを抱えながら過ごした、脱退発表からの半年間。
どんな感情をもっていても悪いことではないけれど、これは忘れてはいけないなと思うこと。
彼らにとって脱退したメンバーも苦楽をともにしてきたかけがえのない仲間であり、大切な5年間であったことは変わらないのだいうこと。
これを、半年間ずっと、様々な媒体を通して感じてきた。
私がどう感じようが、私の抱く感情と彼らの感情は別の人間のものでありイコールではないのだということを、しっかり理解しておきたい。
なかなかメンバーそれぞれが個人の想いを語る場というのがなかったけれど、廉くんの一人喋りラジオでは可能な限りの言葉で想いを伝えてくれていたので、一部掲載しておきたい。
廉くん、海人くんがこの曲の歌詞にどれだけの個人的な気持ちを乗せているかはわからないけれど、この歌詞でラクになった人もいれば、まだすっきりしていない感情をつつかれてチクチク傷んだ人もいるんじゃないかと思う。
全部大切な感情。少しずつラクになるように、ゆっくり進んでいこう。
「静寂のパレード」は、様々な雑誌のインタビューの中で海人くんがイチオシの一曲として幾度も挙げている曲。
「控えめにいっても一日一回は聴く」(Songs magazine vol.12)というほどお気に入りのよう。
また、廉くんがライナーノーツで「たしかに!」と思ったと挙げていた歌詞は、私もかなり印象に残っているところ。とっても素敵な歌詞です。
どこの誰だかわからない他人の意見に振り回されず、目の前で全力で伝えてくれている大好きな2人の言葉をしっかり信じていきたい。
いつか「みんなのうた」で流れたら嬉しいね。
2. My Love Song
作詞:MEG.ME・MURATA
作曲:MEG.ME・Louis・MURATA・Tomoki Fukuda
恋人に限らず、家族愛など含め「大切な人に伝えられる愛」「愛の再告白」をテーマにした、今作のリード曲。
ファンに向けて、「再告白させてください。」と告知がされたのも素敵だった。
廉くんの〝「愛してる」って言っても良いですか〟という印象的なフレーズから始まり、落ち着きがありながらも明るくキラキラ感を感じられる王道アイドルソング。
MVもシンプルな白のセットに白スーツの衣装で、メンバーカラーの花束を持ってこちらにまっすぐに視線を向ける廉くん海人くんの姿が印象的。
2番では笑い合いながら自由に動くとってもかわいい2人が見られるのだけれど、YouTubeではカットされているのでぜひ初回限定盤Aを購入してフルサイズで見てほしいです。
映像だけでなく歌詞も2番がまた素敵で、1番では
〝「愛してる」って言っても良いですか〟
と歌っていたところが
〝「愛してる?」って聞いても良いですか〟
と、こちらの愛を確かめるようなフレーズを投げかけてくることで、距離が縮まったように感じられる。
〝その笑顔を見ていたいよ もう一回 もう一回〟
と一方的な愛だったところも
〝微笑み合える瞬間を もう一回 もう一回〟
と、双方の愛をイメージさせる内容に変化している。
2番の以下の歌詞を初めて聴いた瞬間、ボロボロ泣いた。
愛してるよ、キンプリちゃん!(大声)
最初にあがってきた段階では恋愛の曲だったけれど、テーマを広くするために「好き」という単語を全て消し、「My Love Song」の箇所以外はほぼ全ての歌詞を変更したとのこと!
2人がこのアルバムで今表現したいことへのこだわりが垣間見える。
温かく、深く、普遍的な愛。
そういった大きなテーマを芯に取り入れようとした、24歳の2人の試行錯誤が伝わってくる。
以下は、海人くんの雑誌インタビューでの発言。
また、初回限定盤Bの特典であるアルバムメイキング映像の中では、こんな風に言っていた。
アルバム全体を通して、特に海人くんの声色が曲によって使い分けられていることを強く感じたけれど、インタビューを通してやはり意識的にそうしていたのかと鳥肌が立った。
曲調はもちろんのこと、歌詞や声の使い方にもこだわりが詰まった「My Love Song」。
ぜひ、2人がつくりたかった「芯」に意識を傾けて聴いてみてほしいなと思う。
ちなみに、廉くんのお気に入りの振り付けはサビ終盤の〝出会えた〟の両手を前に構えてクネクネするところ(←表現下手)だそうだけれど、これも残念ながらYouTubeのMVでは確認できないところ。
私のお気に入りは1番Aメロの
〝戸棚に並ぶFavorite どれにしよう 真剣だね〟
のところで、
廉くんが「どれにしよう」と選んでいる後ろで海人くんが選択肢をポンポンとだしていくような、2人の構成がとってもかわいらしいです。
(すべて初回限定盤Aを購入すれば見られます!)
3. なにもの
作詞:YAmai・タイラヨオ
作曲:YAmai
今作に収録されている唯一のシングル曲。
オードリー・若林さんと南海キャンディーズ・山里さんの半生を描いたドラマ「だが、情熱はある」の、放送期間後半のエンディングとしてドラマを盛り上げた。
ドラマは海人くんとSixTONESの森本慎太郎くんのW主演で、King & PrinceとSixTONESのW主題歌となった。
5人体制から3人が抜けて、2人としてのリスタート。
その最初を飾った「なにもの」は、〝なにものでもなくたって夢を描こう〟と、若林さん・山里さんとも重なりつつ、まるでKing & Princeのこれからを歌ったようでもある。
廉くん、海人くんのやわらかな歌声のハーモニーで始まり、日々の小さな幸せの積み重ねがいつか大きな夢につながっていく、という様を優しく歌う、今の2人にとても似合う幸せいっぱいの楽曲。
廉くんは自分で言って笑っていたけれど、2人の歌声はとってもとっても素敵なハーモニーで、全くタイプの異なる歌声が本当に綺麗に混ざり合っている。
アルバム「ピース」に関して、2人は以下のように語っている。
これまでもKing & Princeは目の前のファンを幸せに、ということに全力で向き合ってきてくれた。
5人の中でも特に、それを口にすることが多かった印象のある2人。(※口にしないから思ってないということではない、と私は思います。)
今回のアルバムについても、これまでと変わらず目の前の一人ひとりを大切にしていきたい、という想いが根底にあるらしい。
「なにもの」という楽曲は、その想いが特に如実に反映されている曲だと感じた。
だから、「King & Princeらしい」かつ「今の廉と海人らしい」どちらも兼ね備えた温かくて優しい曲に仕上がったのだと思う。
こちらもかなり歌詞表現にこだわり、「が」を「を」に変えるなど細かな箇所まで意見を出したとのこと。
2人にとっても、「2人でできること」の世界が広がった大切な曲になったよう。
「なにもの」がシングルとしてリリースされた時期は、まだファンも不安な気持ちを少なからず抱えている人が多かった時期。
そういった想いも汲んで、2人がこの時期によく口にしていたのが
「肩肘張らずに楽しんでいこう」
「まずは俺らが楽しんで、ファンの人に伝染していくといい」
「みなさんを安心させてあげたい」
など、無理なく一緒に楽しんでいこうよ、というメッセージだった。
テレビ番組でのパフォーマンスの際も、かなり意識的に「俺たち楽しいよ」「安心してね」という温かい空気を、歌声や表情、ふたりの視線の交差など、全身で表現してくれていたように思う。(その姿を見てボロ泣き)
図らずも、2人の状況が「だが、情熱はある」というドラマとも重なり、ストーリーとうまくリンクしながらドラマのラストを優しく包み込んでくれるような、ホッとするエンディングとなった。
余談だけれど、「だが、~」の前半のエンディングと後半のオープニングとして盛り上げてくれたSixTONESの「こっから」も超最高です。
曲名含め「なにもの」と対になるような楽曲で、劣等感や悔しさからくる這い上がってやるぞという強い決意、疾走感が本当にかっこいい。
未発表だった第1話のエンディングで突然流れたときはシビれたなあ。
「だが、~」は「第116回 ザテレビジョン ドラマアカデミー賞」にて5冠を獲得。
海人くんは主演男優賞、「こっから」はドラマソング賞に輝いている。
本当に素晴らしいドラマでした。
(話を戻して)
廉くんは「今までは率先して意見を言うことは少なかった」と言っているけれど、このことについて以下のようなインタビューもあった。
2人になったことでそれぞれの役割も大きく変わりながら、「2人」にとっての最適解を楽しんで見つけていこうとする廉くんと海人くん。
24歳の若い2人といえど、才能とこれまでの経験を考えれば心配なんて無用だったんだろうな。
楽曲やパフォーマンスやインタビューを通してそう思うようになったので、2人の表現したかったことは確実にファンに届いていると強く思った。
まじですごいよ。心から尊敬しています。
4. That's Entertainment
作詞・作曲:Atsushi Shimada・坂室賢一
勢いのあるブラスで始まり、爽やかに駆け抜けるラップ調のAメロ、観客にレスポンスを求めるBメロ、そしてリズムに振り切るサビ。
ジャニーズならではの、見せて楽しませることを前提においた曲。
それにしても、海人くんのラップは本当に魅力的。(〝Ridiculous〟が好きすぎる)
以前「キンプる。」で挑戦していたタップダンスもめちゃくちゃ似合いそうで、個人的にはちょこっとでも取り入れてみてほしい希望がある…
まさにエンターテイメント。(ライブ見たすぎるたすけて)
「ジャニーズらしさ」ってなんだろう?
ってことを一度考えておきたいのだけど、やっぱりショーで魅せる華々しさであったり、それからおそらく多くのジャニオタさんの共通認識として「トンチキな歌詞」というのがある。
「That's~」に関してはそこまでトンチキというわけでもないのだけど、耳触りの面白さという点で、歌詞にかなりジャニーイズムを感じる。
「静寂のパレード」でアルバムが始まり、「My Love Song」「なにもの」という耳馴染みのある曲で盛り上げて、その先のエンターテイメントショーに引きずり込むなんて最高の流れ。
4曲目にして、気分は最高潮。
教科書、なるほどなあ。
アルバム全体の流れや盛り上がり、緩急の付け方に安定感を感じるのはそういうことか。
またまた余談ながら、「That's~」の全体の歌詞を通して紐解くと、元々は「だが、~」のために作られたのではないか?と考えざるを得ないような言葉選びになっている。
このセンもあった中で、「2人で」担当することになったがゆえに「安心感」「多幸感で包み込む」ような印象を重視する方に舵を切ったのかな…と思ったりもする。
とはいえ、どこの媒体でも一切そういった話は出ていないのでオタクの妄想でしかないし、事実そうであったとしても話したくない、もしくは話さないほうが良い、話してはいけない、ということなのだと思うので、この件はこれだけで。
ところで、「なにもの」と「That's〜」には上記の要素以外にも共通点がある。
どちらもビッグバンド、ブラスと裏打ちが特徴的なジャズの演奏になっているということ。
「That's〜」は曲調的にもそれを感じやすいと思うけれど、「なにもの」は一見バラードのようで、中身は勢いのあるジャズになっていてとっても楽しげ。
特にサビの「なにものでも」の箇所の1拍空けてからのトランペットの力強い裏打ちで、わくわくしながら突き進む印象が加速する。
「なにもの」の話になってしまった。
「That's~」は、FCのムービーで廉くんが好きだと挙げている。
スピード感が速いことで聞き流さずに集中できる、だから好きだとのこと。
この曲が序盤の4曲目にあることで、「ピース」というアルバムに勢いがつき、聴いている人の意識を一気に惹きつけているのは間違いない。
5. 分かってるつもり
作詞・作曲:小原綾斗
ここで一旦温度を下げる。
うまい。めちゃくちゃうまいと思った。
That's からのドリームポップ。
エンターテイメントで温度を上げて魅せたあとは、2人が作り出す夢の世界へ。
音数が少なく、シンセサイザーのポンポンという音色が幻想的な世界観をつくりだす。
ゆったりとふわふわでキュッと切なく、触ったら壊れてしまいそう。これまでの楽曲とは一線を画すような印象。
ここまでの緩急でもう聴いてる全員、King & Princeの虜です。
作詞作曲の小原さんはTempalay(テンパレイ)の作詞作曲・ギターボーカリスト。
個人的な話だけど、私はバンド界隈のオタクでもあるので、Tempalayやフランチャイズオーナー、シンセ・コーラスのAAAMYYYちゃんソロのライブも見たことがあります。
AAAMYYYちゃんの歌声が、私の中でなんとなく廉くんのガラスのように透き通った繊細な歌声の雰囲気と近しいものがある気がして、とっても楽しみだった。
廉くんはこの曲もイチオシと挙げている。
歌詞のテーマは「過ぎ去る夏、思い出に変わっていくひと夏の恋」というところかな。
こういう大人な歌詞もまた似合うようになってきたんだなあ。
さて、「海人くんのファルセットの使い方」について少し話をさせてほしい。
この曲での海人くんのファルセット、芸術的に美しくて本当に大好きなんです。
特に以下の箇所。
「思い出」の「も」、
「振り向いて」の「り」、
「まるで金色」の「るで金色」
この三箇所で非常に美しい透き通った裏声を使っている。
ここで注目したいのが、2番の同じメロディの下記箇所ではファルセットを使っていないということ。
ここではすべて地声で歌っている海人くん。
この直後、廉くんのパートで曲名のタイトル回収がある。
このとき、演奏はさらに音数が少なくなり、他の箇所よりも少し力強く歌われる〝分かってるつもり〟に否が応でも注目が集まるつくりになっている。
この演出によって、
「あくまで分かってる〝つもり〟であって、実際には伝わらないこともある、それでも伝えようとする、わかりたいと思う、〝分かってるつもり〟の愛と優しさ」
だったり、
「そういった美しい恋心も忘れてしまう切なさ」
がとてもよく表現されていると感じる。
ここだけで、泣きそうになる。
この歌声表現の違いの意図についてぜひとも本人に聞いてみたいところだけれど、インタビューを読み漁っても見当たらなかったので、個人的に受けた印象をまとめる。
1番のパートでは美しくて儚い思い出の情景を表現しているので、ファルセットで抜いて歌い上げることで、その透明な美しさを強調している印象。
特に「空はまるで金色」の水面が輝くような美しさはため息が出るほど。まじで美術館に飾りたい。
2番のタイトル回収前のパートでは、そのあとの伝えたい強いメッセージに向かって、地声のまま「伝わらないこともあって」のもどかしさを表現している。
あくまで個人的な解釈だけれど、受ける印象からはこんなメッセージ性を感じた。
この楽曲はとにかく他の13曲からはいい意味で浮いている印象が強く、今後King & Princeの中でどのような使われ方をしていくのかがとても楽しみな一曲です。
6. かた結び
作詞・作曲:草川瞬・坂室賢一
今作の中で、J-POPらしさが顕著に出ている、恋愛の意味でのストレートなラブソング。
「My Love Song」では「君と僕」だけではなく、もっと大きな愛にしたかったと言っていたけれど、この曲はまっすぐに「君と僕」のラブソング。
イントロから聴き慣れた雰囲気のキラキラな音色、これだけでアイドルソング感が強くでる。
こういう曲がアルバムの中あるとホッとするというか、ここまで緩急でゼエゼエしていたのでようやく落ち着ける感じがします。笑
作詞作曲の草川瞬さんは、「かた結び」の他に同アルバム内の「君に届け」、その他過去楽曲についてもいくつも作ってくれている方。安心安全の草瞬。
本当に長いことお世話になっている・・・!
歌詞の面では、恋は恋でも〝赤い糸〟〝永遠〟〝Endless Love〟〝運命〟という似たようなワードが繰り返し使われていて、「結婚」「永遠の愛」を思わせる世界観。
〝ずっとずっと〟〝ギュッとギュッと〟といった繰り返しのワードがサビの冒頭で効果的に使われていて、キャッチーで耳に残る。
愛の広さ・大きさ的には、「My Love Song」の中に「かた結び」が内包されている感じ。
結婚したいときは、恋人に「かた結び」を聴かせましょう。
7. ワレワレハコイビトドウシダ(髙橋海人)
作詞・作曲:尾崎世界観(クリープハイプ)
きました・・・この曲については話したいことが大量にある。
ここだけで5000字弱書いてしまった。覚悟してください。
一音目から突き抜けてくる海人くんの声色が、もうこの曲のためにデザインされていることが一聴でわかる。ゾクッとする。
私は海人くんの歌声について「笑顔で歌っているのが目に浮かぶ」と感じることが多いのだけれど、この曲の海人くんは笑ってない。全然笑ってない。
他の曲の歌い方と全く異なる。
いつもの明るさが抑えられ、力強く一貫して魂が込められているような、苦しいほどの熱がこもった歌声。
完全にバンドのボーカリストのそれだ。
声色ひとつで尾崎世界観へのリスペクトも感じられるし、だからといって似せているとかそんな単純な話じゃなくて。
めちゃくちゃ髙橋海人なのよ。でもクリープでもある。
この感じはなんだろうと思ったら、ああ、憑依型だ。
憑依しているんだ、尾崎世界観のつくりだした「あたし」に。
クリープハイプの世界を生きているんだ。
まじかー。こわいよ海人くん。才能と努力の天才だよ。
なんて彩り豊かな人なのだろう。
本人だけが気づいていない才能が徐々に開花してきている感覚。まじで少年漫画の主人公みたいだよ。
まだこんなこと言ってる!!!!!!!!
海人担の皆様はどれだけもどかしい思いをしてきていることか。こんなに魅力的な人なのに、ずーーーーーっとこのスタンスです。
※私は永瀬担です。ですがもどかしくてたまらない、くそー。でも気づいてないのがまた魅力なんだよな・・・。
海人くんが、5周年というタイミングでの初となるソロ曲に、相当な覚悟と思い入れで臨んでいることがわかる。
そんな想いに応えるように、尾崎さんも相当力を入れてくれたようで、以下のような話もある。
また、尾崎さんとの打ち合わせの際には、海人くんから以下のように伝えていたとのこと。
ということで、挙がっている2曲は聴いたほうがいい。
「ナイトオンザプラネット」と「寝癖」では曲調は異なるのだけれど、描かれている2人の空気感はかなり近しいと思う。
時期や時間帯だけが違うような感じ。
「ワレワレハ~」は、世界観の時系列的には「ナイトオンザプラネット」が近くて、サウンドや歌い方は「寝癖」が近いのかな。と思います。
ここから脱線して、少し尾崎さんの話を。
海人くんが好きだと言ったクリープハイプの「ナイトオンザプラネット」は、独特な制作過程で作られている楽曲。
じつは、同名の映画がある。
ジャケットを見てもらうと、クリープの「ナイトオンザプラネット」のMVとほぼ同じ世界観(夜のタクシー運転手)であることがわかると思う。
それもそのはず、尾崎さんはこの映画「ナイト・オン・ザ・プラネット」をオールタイムベスト(人生で最も好きな映画)として挙げており、この映画から着想を得て制作したのがクリープハイプの「ナイトオンザプラネット」である。
曲中にも、ジム・ジャームッシュ監督の名前が引用されている。
そしてややこしいことに、このクリープハイプの「ナイトオンザプラネット」に着想を得て制作された邦画がある。
それが、池松壮亮・伊藤沙莉の「ちょっと思い出しただけ」であり、この映画の主題歌はもちろん「ナイトオンザプラネット」。
そんなわけで、クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」のMVには伊藤沙莉が出演しているし、「ちょっと思い出しただけ」には尾崎世界観が出演している。
※この記事のP2の下部に尾崎さんの話がでてきます。
で、なぜこんなに「ナイトオンザプラネット」の話をしているかというと、映画「ちょっと思い出しただけ」は2人が別れるまでの話だから。
どうしても「ワレワレハ~」とイメージが重なるのだ。
「ワレワレハ~」を聴いたときの、独特の苦しくて切ない感覚が、「ちょっと思い出しただけ」を観たときの感覚ととても似ていた。
もちろん別の物語だし、無理に重ねて考える必要もないのだけれど、映画「ちょっと思い出しただけ」は、尾崎さんがつくる物語の世界を映像で感じることができるので、これを観ることで「ワレワレハ~」の世界への理解も深まるのではないかと思う。
もしこれを読んでいる映画好きがいれば観てみてください。笑 いい映画です。
さて、話を戻して「ワレワレハ~」の歌詞について。
扇風機を介して描かれる、2人の別れ。
歌詞が秀逸すぎるのでほぼ全文引用になってしまいそうです。
〝夏の終わり〟〝秋が来て〟や〝二人〟〝ひとり〟というワードからも別れを感じられるけれど、私が感動したのが「扇風機の強弱」と、「冷える・寒い/熱い・暑い」を用いた表現。
ここまでは二人の恋が盛り上がっているところ。
扇風機が強いから寒くて体が冷える。
ここはたぶん、「暑い」ではなく「熱い」であることが重要。
気温の話じゃなくて、まだ気持ちが「熱い」。
二人の愛は終わっているけれど、盛り上がっていたときの恋の「熱」が残っている状態、つまり情で関係が続いているような、冷めきっているほどではないような状況ではないかと想像する。
〝もうお別れ?〟という疑問形。これは扇風機目線での「お別れ」と2人の「お別れ」がかかっている。
そして、ここで流れるのは涙みたいな「汗」。
「二人が一緒にいる=扇風機が強い/動く」
「二人が別れそう=扇風機が弱くなる/動かない」
という方程式があるようなので、扇風機がかなり弱い・もしくは動いておらず、汗が流れている状況。
そして2番。
これは完全に倦怠期ですね。恋人を適当に扱ってたんだろうなと想像がつく。
足で点けたり消したりした挙げ句、宙ぶらりんのままほっといて止まってしまった。
相手が喜ぶようなことをわざわざしなくなり、余裕ぶっこいてたら関係に終わりがきました、的な描写だと感じる。
夏は終わりなのに、まだ暑い。ここは気温の話。
扇風機を使いたいけれど、もうお別れ。(疑問形ではなくなっている)
もう夏も恋も、終わりだから。
そしてここで流れるのは、汗みたいな「涙」。別れの涙。
このあと、ラスサビの歌詞はここまでの答え合わせみたいな構成になっており特に秀逸です。
夏=暑い=恋
二人一緒=扇風機は「強」=〝強くなる風〟
扇風機で宇宙人みたいになった声でなら、なんとか恥ずかしさをこらえて「ズットスキダヨ」と言えた
秋=飽き=冷める=終わりの予感
ひとり=扇風機は「弱」=〝弱くなる風〟
扇風機が弱いので声が地球人のまま。いつまでも恥ずかしさを吹きとばせない。だから聞こえないくらい小さな声でしか「好きだよ」と言えない。
※変な声になってないので、ここでの「全部好きだよ」はカタカナではないのだと思います。
そして、サビ終わりに毎度出てくる「首を振ってた/首を振ったら/首を振る」という表現。
ここで首を振るのは「自分」「恋人」「扇風機」の3つの選択肢がある。
<1番サビ>
〝涙みたいな汗が流れる 首を振ったら〟
→自分(汗を流すのは自分)
<2番サビ>
〝汗みたいな涙を乾かす 首を振る〟
→扇風機(涙を乾かしてくれるのは扇風機)
<ラスサビ>
〝首を振ってた〟
→恋人(全部好きだよと聞こえないくらいの声で言われてももう遅い。NOの返事だと思います。)
こんな感じじゃないかなと思うけれど、どうかなー。
以上、歌詞について。
最後にバンドの音について書きたいことがあって・・・いったい何文字書くの・・・
様々な媒体で海人くんが教えてくれているように、この曲は一貫してクリープハイプが全面的に担当している。
演奏・編曲もクリープハイプ、レコーディングディレクションは尾崎さん、コーラスはベースのカオナシさん。(尾崎さんの声も入っているとのこと)
Bメロの「ワレワレハコイビトドウシダ〜」から、ピロピロピロピロと繰り返すギターが印象的なのだけれど、これが扇風機の羽根で宇宙人みたいな声になっているときの、あの感じと似ていると感じる。
ちょうど歌詞とリンクしているので、ここはそういうことなんだろうな・・・と感動しながら聴いていた。
それからもうひとつ。
ラスサビで「強くなる風」「弱くなる風」という表現を使うところ。
ギターのメロディーが風が吹くように音階を上がっていく…すっごく風が吹いてる感じがして!
実際はわからないけど私にはそう感じられたので、ここも少し注目してどう聴こえるか確かめてみてほしいなって思う。
以上、「ワレワレハコイビトドウシダ」、初めて聴いたときからヤバイのがきたとは思っていたけれど、紐解けば紐解くほどヤバイ曲でした。
歌詞、演奏、海人くんの歌声、全てが素晴らしい形で絡み合っていて、これはどうにかしてオタク以外にももっともっと聴いてもらわないともったいない。
シングルカットしてもいいくらいの名曲だと思う。
前半まとめ
1記事でまとめるはずだったのに、半分に分けなければならないくらい書いてしまった。それくらい本当に良い曲ばかり。幸せなことです。
特に前半は、オープニング曲・リード曲・シングル曲と畳み掛けてきておりいくらでも書けるくらいのテンションだった。
そして、バンドの曲は作詞・作曲・編曲者の信念や考え方が歌詞や演奏の全てに詰め込まれていて、そこに変態的なほどのこだわりが感じられるものが多く、そこがバンドのいいところのひとつだと思う。
「分かってるつもり」「ワレワレハコイビトドウシダ」の二曲はやはりその要素が非常に強く、King & Princeの表現力とも相まって喋りたいことだらけになってしまった。
ここまで7曲。
海人くんが言っていた
「2人になって物足りないと思われないように、1曲の中でも歌い方の表現を変えたりとか、曲によってめちゃめちゃ変えてみようとか」
という試みが、7曲だけでもこれでもかと感じられるものになっていて、これが前半で何よりも感動したところかも。
後半はまた時間かかりそうだけれど、ちまちま書いていきます。
後半もなかなか手強そうです。
もしここまで貴重なお時間を使って読んでくださった方がいましたら、ありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?