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Mi piace i videogiochi!

いわゆるゲームのことをイタリア語では"videogioco"という。直訳すれば「ビデオの遊び」となる。

現地で短期の語学研修をしていたとき、「好きなものをなるべくくわしく紹介せよ、とくに、あなたはどうしてそれが好きなのか、そして人に勧めるとしたらどのような点であるのか、そのようなことを私は知りたい、知らせよ」と課題が出た。しかし課題といっても、ホームステイ先まで持ち帰り、じっくり取り組むという性質のものではない。時間はその場で与えられた数分間のみ。話すべきことを走り書きしているうちに終わってしまう。

あのときクラスにいた面々を、いまでもはっきり思い出せる。

すぐに仲良くなったのはスペイン人の修道士で「日本にはreがいますね?」と質問を投げかけられたのがきっかけだった。しかし哀しいかなまだ初学者、「れ?れ?れ…?れ、ってなんだ?」とぽかんとしていたら、彼は優しく微笑んで、「エンペラー」と静かな声で言い添えてくれた。もっとあのとき語学力があったなら、現代の修道制全般について、ふだんの聖務日課から衣食住に至るまで、信仰に関するさまざまな問題について、留学後、どのような道を模索しているのかについて、彼から多くの糧を得ることができただろうに。

次に同じくスペイン人の学生さん、彼女はある朝、電子辞書をいじっていた僕のところに突進してきた。そして「私の名前を、マリアを、3つの文字で書いて」とノートを突き出してくる。つまり、ひらがな、かたかな、漢字で書いてくれと。しかし問題は漢字表記。そのまま転写するとまちがいなく暴走族か何かのようにしかならなかったから、「聖子」と意訳して差し出されたものを返却すると、全身で喜びを表現していた。

それからイタリア人の彼氏を追いかけてきたオーストラリアの子、「ふぉおおおーう、わーお!ねこすけぇえええーーー!はぁぁい、ぼんじょるのちゃーおはろおおおう!はわーゆ!?」という挨拶つきのハグは、世界一明るくて大好きだった。ルーシー、君はまだ彼のあとをひよこのように追いかけて、そしてもしかしたら君のあとをさらに小さいひよこたちが追いかけるようにして、ローマで暮らしているの?

フランス人の絵描きベルトランと大学生ピエールは、いつでもふたりとも「ふん」と澄ました顔をして、斜め上から教室中を見回していた。けれどこのふたりには、僕はすごく大きなものを授けられた。…この話は長くなる、いつか、またどこかで書くことにしよう。

それから、旅行で合衆国までやってきたシニョリーナと結婚し、なぜかイタリアまでやってきたアメリカ人。彼はめちゃくちゃいいやつだったし黒人特有のバリトンボイスも最高だったが、家では英語オンリーだよぉーと、イタリア語に対してはまるでやる気を見せていなかった。

このとき誰が何を話したのか、それは残念ながらまったく記憶にない。しかしおそらく多数が、イタリアやローマに関係することを話したのだと思う。そして、授業がどのように推移したのかも、少しも覚えていない。思い出せるのは、授業も後半、いろいろと「らしい」ことを書こうとしたが結局あきらめ、ぐるりと学生たちの机が半円を描くその中心に進み出て、

"Mi piace i videogiochi da piccolo!"
「私は小さい頃から、ゲームが好きです!」
※「-co」で終わる男性名詞の複数形は「-chi」になることには注意したい。

と正々堂々言い切ったことだ。ゲームのやりすぎで二次試験へのモチベーションが下がり結果一浪してしまったことも素直に話したし、ゲームがいろんな世界の扉をあけてくれると同時に、普遍的なこと、たとえば愛について考えさせてくれることもあるのが魅力的だというようなことを、ものすごく拙いイタリア語で話した。全部が伝わったかどうかわからない。しかし少なくとも最初の一節はわかってもらえたはずだ。だって、「やっぱりぃーさっすが日本人ー!」と半ば揶揄するような顔をしているオーストラリアンとアメリカン、「まじかよ」と薄笑いで首を振るベルトラン、なぜか微妙にそわそわしているピエール(彼もゲーム好きだったw)、まさか!みたいに目を丸くしてるスペイン人ふたりが、目の前にいたのだから。

あれからだいぶ時間が経って、自分がおかれている立場も環境もずいぶん変わり、「帰宅してすぐゲーム、ゲームの合間にシャワーしてゲームの合間に食べて寝て、なんなら仕事もゲームの合間にテキトーに」みたいなやり方はまったくできなくなったし、これからもっともっと、できなくなるだろう。

でもやっぱりいまイタリア人に「何が好き?」ときかれたら、もちろん迷わず、

"Mi piace i videogiochi da morire fino alla morte!"
「死ぬほど、そして死ぬまで、ゲームが好き!」

と答えたい。

※画像は僕のベストゲーム5指に入る「The Elder Scrolls V: Skyrim」の一場面です。VIがいまからとてもたのしみ。