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もういない友達の話

私の友達は28歳で亡くなった。

15歳、高校の入学式のトイレで話しかけられて以来、ずっと友達だった。

高校一年生、最初のホームルームで学級代表を決める時、迷わずまっすぐに手を上げた彼女。
とてもかっこよかった。
後日なぜ立候補したのか聞いたら、「早く帰りたかったから」と言っていた。
本当にかっこよかった。

ノーメイクの白くて綺麗な肌、意思の強そうな目、少し癖のある黒髪ロング。
気が強くて、美人で、怖いものなんかなさそうに見えるのに、とても繊細だった。
「最初にようちゃん(私)に話しかけたのは私なのにその後そっけなかった。しかも、他の子に誘われたからって勝手に陸上部に入った。あれ、めっちゃイヤやった。」と、結構たってからも根に持って言っていた。
なんて素直でかわいいことを言う人なんだろう、と思った。

お酒が飲める年になってからは毎週のように飲み歩いた。
一人暮らしを始めた彼女のマンションで彼女の美味しい手料理を食べてお腹を満たしてから、梅田や中崎町界隈のバーを一軒開拓して、お気に入りのジャンレノ似のマスターがいる店に明け方まで入り浸る、というのがお決まりのコース。

あんなに一緒にいたのになんの話をしていたのか、ほとんど思い出せないし、翌日の二日酔いは二人とも最悪だったけど、深夜の梅田の怪しい人がいっぱいいる繁華街を二人でふらふら歩くのはとても楽しかった。

彼女は自転車をこぐのが異様に早かった。
私を後ろに乗せて、いろいろな場所に連れていってくれた。地図も見ずに梅田の街を自転車で走る彼女はとても頼もしかった。
彼女は私を乗せても、立ち漕ぎすることもなく、そのまま平然とどんどんスピードを上げていく。
私は怖くなって、歓声なのか悲鳴なのかわからない声を出てしまう。
そうするとやっと笑いながら止めてくれるのだ。
少し意地悪なところも好きだった。

彼女は20歳のとき、バイト先の15歳年上の上司を好きになった。
その人は結婚していて、子供もいるから、「好きだけど言わない。そばで見ているだけにする。」と言っていた。
彼女はその人を細かく観察して、「こういうところが好き」と私に報告してくれた。
私は少し寂しかったが、彼女の嬉しそうな顔を見たかったから、ずっと聞いていた。
私までその人のことに詳しくなった。
彼女は告白はしないと決めていた。
彼女はそれから2年ほど、片思いしていたが、滲み出てしまう彼女の情熱に、その人が気がついていない訳はなかった。
彼女は告白され、付き合うことになったと私に報告した。

その頃から、彼女の眠りは不規則になっていったように思う。
その人は彼女のために離婚すると言ってくれていた。
彼女は「信用してないけど、待ってしまう。でも今のままでもいいかなとも思う。彼から離れることはきっとずっとできない。」と言っていた。
彼女は情熱的で、家庭的で、一途で、正義感の強い優しい人だった。
苦しそうだった。
彼女は自分が不倫をしている、ということで誰かが傷ついているのが、とても後ろめたかったんだと思う。

彼女は自転車で大型トラックに突っ込んで死んだ。
自殺か事故か、は不明。
彼女は双極性障害だった。
でも、あれは事故だと思っている。
なぜなら死んだ彼女から、「結婚式に出席します」の葉書が届いたからだ。事故にあう直前に投函されたであろう葉書。
「なんでようちゃんが結婚するんや、寂しすぎる」といった拗ねた調子のメッセージが添えられていた。
彼女は生きて、出席してくれるつもりだった。

彼女の好きだった人は彼女のお葬式には呼んでもらえなかった。
お葬式の数日後、泣きながら、彼女の家族と合わせてほしいとお願いされた。
その時はじめて知ったのだが、その人はすでに2年前に離婚していて、結婚を拒んでいたのは彼女の方だったという。
とても驚いた。
私にはなんでも話してくれていると思っていた。
彼女はその人と一緒に暮らす日々に、結婚に、強く憧れていたはずだった。

臆病な私は当時「結婚なんて好きな人としたら嫉妬で身が持たない。破滅の始まりだ。」と思っていて、実際に本当に好きだった人から逃げて、そんなに好きじゃないけど、好きじゃないから安心できる人と結婚しようとしていて、それをよく彼女に咎められていた。
「好きな人と一緒にいるのがいいに決まっている」と。
どっちが正しかったのかはわからない。
そもそも結婚という制度自体が苦しいのだ。

どうして彼女は結婚しなかったのか。
わからない。
もういないから、聞くこともできない。

彼女の好きなその人は、彼女の両親の前で泣きながら土下座して、彼女の骨を少しでいいから分けてほしいと懇願した。
年上の大人の男の人があんなに泣く姿を私ははじめてみた。

未消化のため、書き直すかもしれません。
ごめんなさい。


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