「グリーン×イノベーション:環境課題への挑戦と企業価値創造」Technology Day 2024聴講レポート
2024年6月7日(金)、PwCコンサルティング合同会社が主催した「Technology Day 2024―生成AIやテクノロジーをビジネスにどう活かしていくか―」に、国際社会経済研究所(IISE)の篠崎 裕介が登壇しました。
このTechnology Day 2024では、今後の企業経営にあたって先進的なテクノロジーを活用しデータを駆使した経営改革が重要であるとして、AIをはじめとする様々な技術分野におけるブレイクアウトセッションが設けられ登壇者による活発な討議が行われました。その中で、篠崎はPwCコンサルティング合同会社シニアマネージャーの服部徹氏と共に「グリーン×イノベーション:環境課題への挑戦と企業価値創造」というセッションに登壇し、グリーン×イノベーション:NECグループの取組を紹介したのち、服部氏とパネルディスカッションを行いました。
1.PwC 服部氏からのグリーン×イノベーションの背景の解説
まず、PwCの服部氏より環境課題、そしてネイチャーポジティブに対する企業等に対するイノベーションも含む取り組みついて説明がありました。重要なポイントを以下に取り上げます。
環境課題の定義の拡大と経営リスクの顕在化
環境課題の定義が広がり、温室効果ガスの排出だけでなく、気候変動の影響による生物多様性の消失なども含まれるようになってきている。
環境課題と経営リスクの深刻化が顕在化しており、食料やエネルギー・資源などの分野で、商品の供給が危ぶまれている。
環境課題への挑戦
企業として環境課題への挑戦が求められており、TCFD(※1)、TNFD(※2)の枠組みを利用して、しっかりとガバナンスしていく必要がある。
※TCDF:投資家等に適切な投資判断を促すための、効率的な気候関連財務情報開示を企業等へ促す民間主導のタスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
※TNFD:自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築するために設立された(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)。TNFDについてはこちら参照ください。
ネイチャーポジティブ経済移行戦略
環境省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の4省庁が連名でTNFDなどの情報開示を通じて、企業が生物多様性の保全など、環境課題に配慮した取り組みを行うことで、企業価値の向上を目指す「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が策定された。この戦略では、企業が環境課題への挑戦を通じて、ビジネス機会を生み出し、儲けを生み出すことを強調している。
AI・デジタル技術の活用とパートナーシップ
環境課題とビジネスを同時に考える「ネイチャーポジティブ」なビジネスモデルを構築するためには、AI・デジタル技術の活用とパートナーシップが重要である。具体的には、お客様の2030年の姿を思い浮かべながら、AI・デジタル技術を活用したイノベーションと、パートナーシップを通じたビジネスモデルの変革に取り組むことで、この1~2年で半歩リードすることができる。
2.IISE篠崎のプレゼンテーション
次いでIISEの篠崎より「グリーン×イノベーション 環境課題への挑戦と企業価値創造」と題するプレゼンテーションがおこなわれました。ポイントとしては以下の点が重要であろうかと考えます。
環境経営に取り組む上での課題とリスク
投資家や顧客から企業への環境関連の要請が高まり続けるなか企業のリスクとなっている。企業が環境経営に取り組む上で各機能部署が持つデータにまつわる問題を克服する必要がある。
データドリブン経営
環境経営を実現するためには、企画、設計、調達、生産、物流、販売といったバリューチェーンの中で、環境関連のデータを可視化し、つなげ、意思決定に反映させることが重要である。これによりデータを活用し、価値を創造し続けるデータドリブン経営を実現することができる。
サーキュラーエコノミーと企業間データ連携
資源枯渇や環境負荷の観点からサーキュラーエコノミーへの移行が求められている。その実現には企業間でのデータ連携が必須であり、デジタル・プロダクト・パスポート(DPP)の法制化とそれを支える仕組みとしてgaia-x、Catena-Xなどのデータスペースという概念の社会実装が欧州を中心に進展している。NECは、内閣府のSIP3「サーキュラーエコノミーシステムの構築」プロジェクトに参画し、プラスチック情報流通プラットフォーム(PLA-NETJ)の構築を通して、国内外のデータスペース連携などを視野に企業間データ連携の仕組みづくりを推進している。
NECのネイチャーポジティブへのチャレンジ
NECは、2023年7月にベータ版フレームワークを参照した、国内IT企業初のTNFDレポートを発行した。気候変動だけでなく、自然資本に関連した依存と影響、リスクと機会の評価にも取り組んでいることを紹介。NECは、自然資本への依存の最適化、影響の回避・最小化、リスクの最小化、自然の恵みを最大化する機会、これらにICTで貢献することで、地球との共生の実現を目指している。
3.ディスカッション
服部氏と篠崎のプレゼンテーションが終了したのち、簡単なディスカッションパートがありました。
服部 環境への対応においても上手くデータドリブン経営を行うことが重要だということが分かりました。この観点で具体的なチャレンジはありますか?
篠崎 農業が一つの事例になります。今後、世界的な人口増加に伴い食糧需要は今後も増えることが予想されます。一方で気候変動緩和の観点から森林などを伐採して農地を増やすことはかないません。なるべく環境負荷をかけず、うまく効率的に農業を行うか、という視点が重要であり、チャレンジです。NECでは農業のデジタルツインを活用し、データを収集、分析するCropScope(クロップスコープ)という営農AIサービス提供しています。実証実験の中で例えば2割近くの水の使用量を減らしながらも収量を上げることに成功しました。
服部 今までデータがあっても活用が難しかったところがありますが、今まで経験や実績がモノを言っていた世界でもデータドリブンで経営等を実行できる時代になってきました。また、これからは後付けで説明したりするのではなく、収集したデータの活用、またそれに対するAIのサポートなどによって、前掛りで各種課題に対応することができるようになってきたことがわかりました。
篠崎 NECは、製造業において部品表管理などを行うPLM(Product Lifecycle Management)のソリューション「Obbligato」で国内No.1のシェアを持っています。このようなソリューションも、人とデータ、データとデータ、システムとシステムをつなぎ、データを使える状態にしていくことに貢献できると考えています。
経営の意思決定に関して、もう一つ事例を紹介します。NECにはデータに基づく科学的な意思決定を支援する因果分析ソリューション「causal analysis」があります。これはネイチャーポジティブにおいても活用が始まっています。例えば、ある商品でサステナブルな認証を取ったが、その価値が価格に転嫁できない、といった課題をよく聞きます。このソリューションでは、アンケートデータを分析することで、購買を促進するのに有効な施策の示唆を得ることに成功しました(詳細はこちら資料5参照)。
服部 データ活用を、決まった業務に活用していく、また情報を伝えることによってみんなができるようにする、今まで分からなかったことを分かるようにしていく、こうしたことを個社ではなくネットワークやパートナーシップが重要ですね。
篠崎 IISEが推進するソートリーダーシップ活動では、環境課題解決にデジタルが如何に貢献できるか、皆さまと対話をしながら「社会知」を形成し、それらの社会実装を進めることで環境と経済が両立する世界を作っていきたいと考えています。
服部 ソートリーダーシップ活動ではNPO/NGOが入っていることが非常に素晴らしいと感じました。今後、地域ごとの課題や人権等に企業がガバナンスをしようとすると、これらは非常に難しい領域です。こうしたところにNPOやNGOと一緒に社会知を作っていくのが、2030年に向けての挑戦とも考えますね。
最後に
今回、PwC主催のセミナーを傍聴して感じたのは、国としてもネイチャーポジティブ経済移行戦略の中で、ネイチャーで「儲けましょう」としていることです。企業が環境面、特に今後はネイチャー:生物多様性方面への目配りもしなければならない時代になってきて、ただ、それは義務のみならず、企業として利益を生み出す元にもなるというのは、単純なレピュテーションや企業イメージの維持構築だけじゃなくて、事業利益にもつながり得るというのはインセンティブとして非常に大切な考えかと思いました。