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「ソートリーダー」の条件とは何か? 新しい市場の「第一人者」になるために

近年、企業活動においてその重要性を増しているマーケティング手法の一つ「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)」。国際社会経済研究所(IISE)の公式noteでは全5回にわたって、ソートリーダーシップの意義や進め方、プロセスなどについて解説していきます。
前回はソートリーダーシップの全体像を概観し、その目的や重要性および今なぜ取り組む必要があるか、解説してきました。この第2回では「ソートリーダー」に求められる条件について考えていきます。

※前回「第1回」の記事はこちらから


ソートリーダーシップの推進は、ソートリーダーの人選から


ソートリーダーとは何か。ソートによって生み出される新しい市場の「第一人者」という存在です。ソートリーダーを決めていくことが、ソートリーダーシップの取り組みにおいては非常に重要です。

ソートリーダーに選ばれるための条件は主に(1)専門性、(2)課題を見つける力、(3)哲学・思想、この3つに集約されます。3つすべてをそろえる必要はありませんが、できればより多くの要素をそろえていた方が、ソートリーダーシップの成果を大きくする可能性は高くなります。

ソートリーダーに必要な3つの条件

条件(1) 専門性


企業やブランドが属する事業における専門性がソートリーダーには必要になります。ソートリーダーはその業界の「第一人者」になります。よって、その業界の中からも一目置かれる専門的な知見が求められます。

企業で言えば、取締役や事業部長でも、顧客と対面する現場の部課長でも、業界にとっての専門的知見を持ち合わせている人がいれば、あとはその中から必要に応じてソートリーダーを決めていけばよいのです。

ここでいう専門性は、過去だけではなく未来に対する時間軸としての連続性も肝要になります。日本の多くの企業で見られる数年単位のジョブローテーション、平均点を得意とするジェネラリストの育成は、ソートリーダーとは相性がよくありません。ソートリーダーにはそう遠くない未来を語りながら、これからの事業や業界の道筋を示すことが求められます。

2-3年後に人事異動で全く畑違いの担当になる(あるいはその可能性が高い企業風土である)ことが見えていれば、その人の専門性に対して不安に思うことも出てくるでしょう。少なくとも業種、業態、職種のどれか一つだけは「一貫性」を持っていたいところです。

条件(2) 課題を見つける力


事業ドメインの未来像を描き、テクノロジーへの深い洞察を持ち、これからの業界ビジョンを語ることがソートリーダーには求められます。

特にこれからの時代は社会課題の論点を自らも整理し、自らが属する業界全体のベン図の重なりとなる接点において合意形成を取ることで、そこに対する「共感」を生みだしていきます。

課題を見つける力を持つことは、適切な問いを出し続けることでもあるといえます。答えが見えにくい「VUCA」の時代だからこそ、その問いを深化させていく過程そのものに「共感」の源泉が生まれることも数多くあります。

サイコロの6面のように、ひとつの物事を見るときに数多くの視点から問いを出し続けることができる力が必要になります。凝り固まった固定観念をリフレーミングする力です。

また、課題を見つける力として求められるものの中には、自らの専門性とその外にある知見との交流ができることも必要になります。「イントラパーソナル・ダイバーシティ(Intrapersonal Diversity、個人一人の中の多様性)」も、その一翼を担うものとして有効となります。

海外に行くと「エンジニアだったけど、今は医者」という人や、「グラフィックデザイナーだったけど、今は会計コンサルタント」などと、個人の中の多様性が豊かな人も多く見かけます。日本は海外に比べて企業における人材の流動性が高くないため、このような事例は少なくなります。同じ業界や同質性の高い企業文化の中だけで生きていては、認識の固定化は避けられません。

そういう時は、幅広い視点を持てるように自らのキャリアにおける業種、業態、職種などの一貫性を常に意識しながらキャリアオーナーシップを会社にゆだねるのではく、自身で覚悟をもって設計していく。こうしたことも大事になっていくかもしれません。

条件(3) 哲学・思想


世の中をどうしたいかという、信念に近い強い思い、変わらない考え。それがここでいう哲学であり思想です。

企業が持つ商品やソリューションの概要文そのものではなく、ソートリーダーが持つ哲学や思想から生み出されるソートを発信し、社会に浸透させていきます。

哲学や思想を裏付ける要素を分解すると、文学的な感性とアスリート的な感覚の二つに分かれます。

文学的な感性とは、社会学で語れるような物事の裏側へのまなざし、ソートリーダーの発する言葉一つひとつが独創的な視点を持つような想像性、少しだけ枠からはみ出して視点を変えること、分かりやすくシンプルに自分の言葉で表現していくことを指します。

特に多くの日本企業は、この文学的な感性を持つことが苦手です。プレスリリースやカタログで使われる言葉遣いが企業の正当な表現とみなされることが多いように、そのような社員教育の影響も強く反映しているものと思います。

少しくらいざらついていても、ノイズがあっても、自らの言葉で語らないことにはより多くの人には伝わりません。「きれいごとは他人事」になります。

もう一つのアスリート的な感覚はより本能に近く、よく言われる「動物的な勘」に近いものかもしれません。そうした感覚を持つソートリーダーが「これからの未来をよりよくするには、こうすべきだ」と言うときそれを聞く人はロジカルや理論だけでは説明しにくいけど、説明はできないけどなぜか心がざわつく、突拍子もないアイデアだけどなぜか共感する、そういうことです。

これもやはり、今の多くの日本企業が苦手にしているものです。合議制、多数決、承認の決裁印をもらうために、主旨にずれても反対意見を取り込む。クレームや批判を恐れてユニークなとんがりポイントを丸くする。市場調査や競合分析、ロジカルシンキングで導き出されたコモディティ化されていく「正解探し」という名の事業開発……。

成功の大きさを求めるよりも失敗の確率を下げるようなビジネスデベロップメントの中では、このアスリート的な感覚は発揮しにくくなります。

文学的な感性と、アスリート的な感覚。この2つに裏付けされた哲学や思想を持つことが、3つの条件の中で最も重要なものとなります。

哲学・思想を生むには、「文学的」と「アスリート的」の2軸が必要に

いざ、人選へ


古今東西、ソートリーダーに会社の創業者が多いのも、そういうことかもしれません。古くは松下幸之助氏やソニーの井深大氏、盛田昭夫氏、現在ではスティーブ・ジョブスやイーロン・マスクなど。ただ、これからの世の中ではソートリーダーに求められるその条件を因数分解して再現することで、一人ひとりがソートリーダーの役割を担っていくこともできるようになっていきます。

ソートリーダーは他者評価であることも忘れてはいけません。自らの名刺に「ソートリーダー」と書くような肩書ではないので、気をつけてください。くれぐれもソートリーダーの役割とアサインし、決めるのは社内だけにとどめるようにしましょう。

それでは、みなさんの企業でも是非、取締役や事業部長、部課長など多くの選択肢の中からソートリーダー候補を選び出してみてください。

最後にもう一度、ソートリーダーの条件を振り返りましょう。

ソートリーダーの条件とは
1.      専門性
2.      課題を見つける力
3.      哲学・思想
です。

ソートリーダーが中心となり、企業や事業としてソートリーダーシップを推進していくプロセスは次回以降、ソートリーダーの「役割」となる以下の2点を中心に、それぞれ解説していきます。

①ソートを開発(デザイン)すること ※第3回、2024年9月頃に公開予定
②ソートを発信すること(仲間を作る)※第4回、2024年11月頃に公開予定

取り組みの結果として社会とビジネスに変革を起こし、新たな事業と市場を生み出すことがマーケティング手法としてのソートリーダーシップの目標となります。

企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、鈴木章太郎、塩谷公規、石垣亜純)

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