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国内の衛星コンステレーション構築に取り組む企業、それぞれが提供しているソリューションは?

宇宙空間を舞台にした経済活動に取り組む企業が増える中で、地球の軌道上で、独自の「衛星コンステレーション」を構築する企業が増えてきています。

衛星コンステレーションとは、軌道上に多数の人工衛星を打ち上げて、一体的に機能させるシステムのこと。現在は、人工衛星1機あたりの打ち上げコストが抑えられるようになったことから、地球上の低軌道(地上200km〜2,000km)に打ち上げた複数の人工衛星による「低軌道かつ大規模」な衛星コンステレーションが注目を集めるようになっています。

海外では「スターリンク」を手掛けるスペースXや、同じく通信用途の衛星コンステレーションを展開するOneWebなどの活躍が目立ちますが、国内にも、自社で衛星コンステレーションを構築する、もしくは構築を進める企業があります。

通信用途や地球観測用途など、それぞれの領域で衛星コンステレーション構築を進める国内企業を紹介します。

※記事内の情報は、2023年10月時点の、各社のWebサイトおよび公式発表をもとに作成。


「ソリューション+ビジネスサポート」を揃えるアクセルスペース

小型人工衛星5機からなる衛星コンステレーション「AxelGlobe(アクセルグローブ)」を運用しているのが、東京都中央区に本社を構える株式会社アクセルスペースです。「Space within Your Reach(宇宙を普通の場所に)」をビジョンとして掲げる同社。2018年12月の1機目の人工衛星の打ち上げから、地球観測用途の衛星コンステレーション構築を進めています。

同社の衛星コンステレーションを構成するのは、100kg級・小型の光学観測衛星「GRUS(グルース)」。地上分解能2.5m、現在5機で同じ場所を2〜3日おきに撮影・記録しています。

アクセルスペースによる衛星コンステレーションを活用した同名のソリューション(AxelGlobe)は、衛星画像のビジネス活用を想定し、開発・提供されているもの。農業用途として作物の生育状況や害虫被害、建設用途として大規模工事の進捗状況のモリタリングといった使用用途が想定されています。

その他にも、洪水被害をモニタリングすることで防災対策に活用したり、同じ場所を定点観測することで得られる情報を気候変動の観測に役立てたりと、同サービスは「人を守る」用途でも活用の道があることが示されています。

また、クライアントのニーズに合わせ、小型人工衛星の設計から運用までを自社で受け持つサービス「AxelLiner(アクセルライナー)」も提供している同社。これは一般企業による「衛星データを活用した施策を進めたいが、自社で人工衛星を打ち上げるのは難しい」というニーズに応じて生まれたものなのだとか。

将来的には、自社による10機体制の衛星コンステレーションを構想している同社。2021年5月には実現に向けた資金調達が行われたことが発表されており、残す5機の打ち上げに向けた続報が待たれます。

SAR衛星による幅広いソリューションを展開する、シンスペクティブ

株式会社Synspective(シンスペクティブ)は、100kg級の小型SAR衛星「StriX(ストリクス)」を用いて、2023年10月時点で合計3機の人工衛星からなる衛星コンステレーションを運用しています。同社によると、StriXは、従来の大型SAR衛星を小型化・軽量化することで多数機生産を実現した人工衛星である、とのこと。

「SAR衛星」とは、合成開口レーダーを用いて衛星が地上へ向けて電磁波を飛ばし、反射した電磁波を解析して地表の様子を観測するシステムのこと。従来の地上で反射した太陽光を感知して衛星画像を撮影する「光学式」とは違い、夜間や雲に覆われている場所など、光学式が苦手としていたシチュエーションでも悪影響を受けず観測可能なことが強みです。他にも撮影しているのが地上なのか海上なのかなど、観測対象の素材までをチェックできるといったメリットも。

そんな同社による衛星コンステレーションを用いて提供されているのが、地盤変動を観測するソリューション「Land Displacement Monitoring(LDM)」と、浸水被害評価ソリューション「Flood Damage Assessment(FDA)」です。

上記サービス以外にも、「β SOLUTION PRODUCTS(=正式版リリース前のソリューション)」として紹介されているのが、自然災害の解析や洋上風速のモニタリング、森林管理用途の衛星画像ソリューション。いずれも対象を分析するだけでなく、細かい変化を捉えられるSAR衛星の機能を生かしたものです。

2020年代後半には、人工衛星30機からなる衛星コンステレーション構築を目指している同社。地球の観測体制を整えるだけでなく、SAR衛星の強みを生かした各種ソリューション展開に期待が集まります。

「準リアルタイム」の地球観測を目指す、QPS研究所

同じくSAR衛星を用いた衛星コンステレーションの運用を行うのが、九州は福岡市に拠点を構える株式会社QPS研究所。社名の「QPS」とは「Q-shu Pioneers of Space(九州の宇宙開拓者)」の頭文字を取ったもので、その名の通り、九州大学で行われていた人工衛星の研究・開発活動をルーツにした北九州を拠点とする宇宙開発ベンチャー企業です。

2019年から定期的に人工衛星の打ち上げを行っている同社は、同年12月に人工衛星であるQPS-SAR1号機「イザナギ」、2021年1月に2号機「イザナミ」を打ち上げ成功。

2022年10月には3号機と4号機を打ち上げ失敗で失ってしまうものの、2023年6月に6号機「アマテル-Ⅲ(アマテル・スリー)」をぶじ衛星軌道に乗せ、これにより同社の運用する人工衛星は3機となりました(※)。2025年以降を目標に、36機からなる衛星コンステレーションの構築を目指しています。

※ 2023年10月時点。QPS-SAR5号機の打ち上げ予定日が調整されたことにより、6号機が先行して打ち上げられることになった。

QPS研究所による衛星コンステレーションが実現した暁には、世界各地いずれの場所でも平均10分間隔の観測ができるように。その結果、衛星画像を用いた災害など有事の際の状況把握や、その他データと組み合わせた経済予測がより高精度に行えるようになります。現在は、自社のSAR衛星を用いた地球観測サービスや、過去に撮影した衛星画像からなるアーカイブデータの販売・提供を行っています。

衛星コンステレーションを通して、より高精度な地球観測を目指すことを発表している同社。延期されていたQPS-SAR5号機も具体的な打ち上げに向けた準備中であることが2023年8月のプレスリリースで発表されました。こちらの具体的な打ち上げは、「2023年9月以降」とされています。

ワープスペースが構想する、中継衛星によるネットワーク構築

観測用途の衛星コンステレーションを構築していたアクセルスペース、シンスペクティブ、QPS研究所に対して、通信用途の衛星コンステレーション構築を目指しているのが、株式会社ワープスペース。前身である筑波大学の人工衛星プロジェクトから2023年に至るまでで、合計3機の人工衛星を打ち上げている宇宙開発ベンチャー企業です。

近年の民間企業による衛星コンステレーションは、「地球の低軌道に、小型人工衛星を配備する」スタイルが主流となっています。一方のワープスペースが構想する衛星コンステレーション、「ネットワークシステム『WarpHub InterSat』」は、中軌道(地上2,000km〜36,000km)上に3機の人工衛星を配備する、というもの。

中軌道上の通信衛星は、低軌道衛星が地上とデータ通信をする際の中継機としての役割を担います。それにより、位置関係の問題で地上との通信可能時間が限られていた低軌道衛星が、より長時間かつ高速に、地上とデータのやりとりができるようになります。

そして、衛星間の通信に従来の電波を用いた通信ではなく「光信号」を用いることも、同社の取り組みのひとつ。

光通信の実現により、時間あたりで地上と通信可能なデータ量が増えるだけでなく、利用周波数の獲得手続きの負担が軽減される、という効果も。光通信と中軌道上の中継衛星による衛星コンステレーションの構築を通して、「宇宙産業における通信ボトルネックを解消」を目指しています。

構想では、中継衛星3機によって実現する同社の衛星コンステレーション。その1機目となる人工衛星「LEIHO(霊峰)」は現在打ち上げ準備中で、2023年6月には基本設計審査を完了したこととが同社から発表されています。

同プレスリリースによると、LEIHOの打ち上げ予定は2025年とのこと。実現すれば宇宙・地上間の通信環境を大きく変えるワープスペース社の衛星コンステレーション。その初号機であるLEIHOの今後の動向から目が話せません。

静止軌道からの光データリレーサービスを目指す、Space Compass

中軌道を用いた中継衛星による通信システムを構想するワープスペースに対して、静止軌道上の中継衛星を用いた光通信サービスを構想しているのが、株式会社Space Compass(スペースコンパス)です。

NTTとスカパーJSATの合弁会社である同社。2021年に両社の業務提携が発表された際は、大規模な通信インフラを有するNTTと、衛星通信や衛星放送といった宇宙通信技術を有するスカパーJSAT、両社で連携を取りながら、地上から宇宙空間までを繋いだ通信網「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」実現を目指すことが発表されています。

その2社の合弁会社であるスペースコンパスが取り組むのは、同構想の実現に向けた具体的な施策である「宇宙データセンタ事業」と「宇宙RAN(Radio Access Network)事業」です。

「宇宙データセンタ事業」は、宇宙を介した光データリレーサービスのこと。宇宙空間の観測衛星などが得たデータを、同社による静止軌道上の人工衛星を介して地上へ光データ伝送するネットワーク基盤の構築が、同事業の目的です。

もう一方の「宇宙RAN事業」は、高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)を用いた通信基盤のこと。HAPSとは、地球の成層圏に通信基地局の機能をもった無人機などを用いて、広範囲にインターネットの接続環境を設けるシステムを指します。この「宇宙データセンタ事業」と「宇宙RAN事業」の2つを通して、大規模で高速かつセキュアな通信ネットワークを整備するのが、「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」構想です。

Space Compassによる光データリレーサービスに期待を寄せる他衛星ビジネス事業社も少なくなく、2023年4月には同社とアクセルスペースが業務提携。自社によるサービスを強化するためSpace Compassによる光データリレーサービスを利用することを発表しました。そして、2023年7月にはQPS研究所が、Space Compassの光データリレーサービス活用にあたって「本格的に検討」段階に入っているとのこと。

同社のよるサービスは2023年10月現在まだ準備段階。光データリレーサービスを提供する静止軌道衛星の第一号機は、2024年末に打ち上げ予定であることが発表されています。

国内企業による衛星コンステレーション構築の取り組みは、ほとんどの企業でまだ道半ば。近日中の打ち上げを予定している人工衛星も少なくなく、今後も、各社が構想するロードマップとその展開を注視していきます。

企画・制作:IISEソートリーダシップ「宇宙」担当チーム
文:伊藤 駿 編集:ノオト

主要参考リンク

アクセルスペース https://www.axelspace.com/ja/
シンスペクティブ https://synspective.com/jp/
QPS研究所 https://i-qps.net/
ワープスペース https://warpspace.jp/
Space Compass  https://space-compass.com/

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