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OneWeb、Project Kuiper、中国政府……スターリンク以外の衛星コンステレーションの動向

急拡大する宇宙ビジネスの中で特に注目されている「衛星コンステレーション」。一定の軌道上に多数の人工衛星を打ち上げて、一体的に機能させるシステムを指しますが、中でも近年は米Space Xの「Starlink(スターリンク)」を筆頭に、高度200km~2000kmの軌道上に何百、何千、何万機と衛星を打ち上げて連携させる"低軌道・大規模”の衛星コンステレーションを各企業や政府が計画しており、関心が寄せられています。
 
Starlinkはすでに高度550kmの低軌道に5250機以上の衛星を配備し、日本を含む60以上の国・地域に高速のブロードバンド通信サービスを提供しています。将来的には4万機以上を打ち上げる計画で、衛星コンステレーションの開発競争の中では頭一つ飛び抜けている状況です。
 
Starlinkばかりが話題になる一方で、ほかの企業や国の衛星コンステレーションは、どのような計画のもと、どこまで開発が進められているものなのでしょうか。2024年3月時点の情報をもとに、通信衛星を中心にまとめてみました。


Eutelsat OneWeb「OneWeb」


OneWeb(ワンウェブ)は、英ロンドンに本社を置くEutelsat OneWeb(ユーテルサット・ワンウェブ)が運営する衛星コンステレーション。主に個人ではなく企業や政府機関を対象に、低軌道の衛星群から高速かつ低遅延なブロードバンド通信を提供するサービスです。
 
Eutelsat OneWebはもとは2012年にWorldVuという名称で設立した企業で、Google傘下で米バージニア州を拠点に開発を進めていました。2014年にGoogleから離脱し、翌年に社名をOneWebに変更。2020年3月に経営破綻しましたが、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省とインドの移動体通信大手バーティ・グローバルからなるコンソーシアムが買収して引き続き衛星の開発・打ち上げを進めておりました。
 
2023年3月までに高度1200kmに634機の衛星の打ち上げを完了し、現時点で運用機数がStarlinkについで2番目に多い衛星コンステレーションとなっています。
 
2023年9月には仏パリに本社を置くEutelsat(ユーテルサット)と合併。Eutelsatは1964年に設立された国際組織「国際電気通信衛星機構」より、2001年に事業部分を民間企業に再編する形で生まれた衛星通信サービス企業です(同時に事業監督機関として「国際電気通信衛星機」(ITSO、International Telecommunications Satellite Organization)も設立)。高度3万6000kmのGEO(静止軌道)に36機の衛星を配備し、衛星テレビ放送サービスなどを世界中に展開しています。
 
合併したことでOneWebはEutelsat Group内の「Eutelsat OneWeb」へと社名を変更。EutelsatのGEO衛星とOneWebのLEO(低軌道)衛星、互いの衛星ネットワークを組み合わせることで企業向けのサービスを拡大していくとしています。
 
一方、OneWebは世界中に接続サービスを提供するのに必要な数の衛星はすでに配備済みで、2024年初めにサービスを開始する予定でしたが、地上のゲートウェイの設置が遅れているため順延しているとのこと。世界的なサービスには約40基のゲートウェイが必要ですが2024年1月時点で30基しか設置できておらず、下半期までに38基、その後6カ月で残りを配備するとしています。
 
また、現行世代の衛星のほとんどの設計寿命は2027年~2028年あたりまでとなっているため、性能を大幅にアップグレードした次世代衛星を2025 年から300機ほど配備し始める計画でした。しかし2024 年2月、衛星の収容能力と性能の改善に注力するため、配備を延期するとEutelsat Groupは発表しています。

Amazon「Project Kuiper」


Project Kuiper(プロジェクト・カイパー)は、米Amazon.comが設計・構築・運営を進めている低軌道の衛星コンステレーションの事業計画です。世界中に高速かつ低遅延のブロードバンド接続を提供することを目指しています。
 
同社は2018年にProject Kuiperの研究開発を開始し、2020年に米国連邦通信委員会 (FCC) から衛星の配備と運用のライセンスを取得。同社の創業者であるジェフ・ベゾス氏が設立した航空宇宙企業・Blue Origin(ブルーオリジン)や欧州のロケット打ち上げ企業Arianespace(アリアンスペース)などと提携し、2023年12月には競合相手であるSpaceXと衛星打ち上げ契約を結んだことも発表しました。
 
計画では3236機の衛星を打ち上げ、うち半数を2026年7月までに配備する予定です。2023年10月には最初の試験衛星2機の打ち上げに成功しており、さらに12月には2機の間で光通信のデモンストレーションも複数回成功させています。
 
Project Kuiperでは地上と衛星の間だけではなく、衛星同士で赤外線レーザーによる光通信のメッシュネットワークを形成し、高速かつ大容量、低遅延のデータ送信を実現させる計画で、2024年前半に打ち上げ予定の最初の量産型衛星で光衛星通信は動作する予定です。Amazon.comは宇宙空間での光通信は、地上における光ファイバーケーブルを介した通信よりも約30%早くデータを送れると説明しています。
 
さらにシステムではAWS(Amazon Web Services) のサービスと基盤を活用してデータ量を送るため、ネットワーク全体の待ち時間をさらに短縮できるとのこと。2024年末までに一部のユーザーを対象としたサービスを提供開始する予定です。

中国の「Guowang」「G60」「Geespace」


西側諸国で利用が進むStarlinkに対抗し、中国政府が独自の通信網を構築しようと進めているのが、「Guowang」もしくは「国網」の名称で知られる衛星コンステレーションです。2020年に中国政府が国際電気通信連合(ITU)に提出した約1万3000機による衛星ブロードバンド計画で、2021年には事業を行う国有企業としてChina Satellite Network Group(中国衛星網絡集団)を設立しました。
 
日経新聞の記事によれば、同社は2024年前半に最初の衛星を打ち上げ、2029年までに約1300機を配備し、2035年までに完成させる計画です。さらに次世代高速通信規格「6G」の実用化を支えるネットワークを提供するといいます。
 
もう一つ、中国の第2のメガ衛星コンステレーションとして進行しているのが「G60」計画です。上海市政府のベンチャーキャピタル部門であるShanghai Alliance Investmentなどが出資する国有企業Shanghai Spacecom Satellite Technology(上海垣信衛星科技)が進めています。
 
SPACENEWSの記事によれば、2023年12月よりG60用の新世代のフラットパネル衛星が上海の工場で製造開始しており、合計約1万2000機のうち最初の108機が2024年までに打ち上げられる予定です。上海政府は、2025年までに市内に商業宇宙エコシステムを育成する計画を発表しており、G60 はその一環と見られています。
 
G60衛星は、低コストかつ高情報量、高信頼性、低遅延、モジュール化した性能を持つと言われており、計画ではStarlinkや競合他社のシステムと同様、世界中のユーザーにブロードバンド接続を提供することを目的としています。
 
また、中国の民間自動車メーカーグループ・Geely(浙江吉利控股集団有限公司)の子会社であるGeespace(浙江時宙道宇科技有限公司)の衛星コンステレーションにも注目が集まっています。
 
UchuBizの記事によると、車の自動運転の制御やロジスティクス管理、ドローン操縦などを目的に、低軌道に240機による衛星コンステレーション「Geely Future Mobility Constellation」の構築を計画中とのこと。2022年に9機の打ち上げを成功済みで、中国航天科技集団有限公司(CASC)によれば、2024年2月にも11機の打ち上げに成功したといいます。第1段階として2025年までに72機体制、その後第2段階で168機を追加する計画です。
 
同グループの傘下には、中国の吉利汽車、スウェーデンのボルボ・カーズといった大手自動車メーカーがあります。同衛星網の構築は、世界の自動車業界へ大きな影響を与えるかもしれません。

欧州やカナダの衛星事業者 「IRIS²」「Telesat」「Kepler Communications」


ほかにも目立った衛星コンステレーションの計画としては、2023年9月にEUとESA(欧州宇宙機関)が契約を結んだ「IRIS²」システムがあります。ヨーロッパの政府や企業が情報を安全かつ機密に保つのを目的とした衛星コンステレーションで、2024 年に初期サービスを提供、2027年までに完全運用を開始するのを目標に、最大170 機の衛星を開発・打ち上げるとしています。
 
また、カナダの大手通信衛星事業者Telesatは、2023年8月に低軌道へ198機からなる衛星コンステレーション「Telesat Lightspeed」の構築を発表。光通信ネットワークによってマルチGbps データリンク、高い安全性と強靭性、低遅延のブロードバンド接続を世界中に提供するサービスで、2027年には世界的にサービスの提供を開始する予定です。
 
カナダでは他にも、衛星通信ベンチャー企業のKepler Communicationsが通信用の衛星コンステレーションを構築中。2023年4月時点で計21機の超小型衛星を軌道に配備し、非地上系ネットワークに低速データ通信を提供しています。
ここからさらに、2024 年に光通信に対応したデータ中継用の衛星を打ち上げ、2025 年初頭までに「The Kepler Network」と呼ばれる光通信サービスを提供する計画です。2023年秋にデータ中継用衛星の試験機は打ち上げ済みで、衛星の総数は計140機を予定しています。

Starlinkだけでなく、低軌道に続々と衛星コンステレーションの構築が進みつつある宇宙産業。予定通り行けば2020年代後半は、光衛星通信を含め、様々な衛星コンステレーションのサービスが開始することになります。この通信基盤を背景に、社会からどのような革新的サービスが生まれていくのかーー今後も各企業や政府の動向に目が離せません。
 
企画・制作:IISEソートリーダシップ「宇宙」担当チーム
文:黒木貴啓(ノオト)
 

参考文献

(Webページの最終アクセス日はいずれも2024年5月23日)
 
・Jeff Foust.“OneWeb slashes size of future satellite constellation”. SPACENEWS. 2021年1月14日
・佐藤信彦.“中国Geespace、衛星9機打ち上げ成功–240機コンステレーションへの第一歩”. Uchubiz. 2022年06月06日
・Andrew Jones.“The coming Chinese megaconstellation revolution”. SPACENEWS. 2023年2月23日
・Alun Williams.“OneWeb completes constellation of LEO satellites for global connectivity”. ElectronicsWeekly.com. 2023年3月30日
・塚本直樹.“中国版Starlink「Guowang」、2023年後半に大規模衛星群を構築開始”. Uchubiz. 2023年03月30日
・Jason Rainbow.“Kepler Communications raises $92 million for optical data relay network”. SPACENEWS. 2023年4月13日
・“Canada's Telesat says MDA to build 198 satellites, shares soar”. Reuters. 2023年08月12日
・Press Release.“Telesat and SpaceX Announce 14-Launch Agreement for Advanced Telesat Lightspeed LEO Satellites”. Telesat. 2023年9月11日
・“ESA works with EU on secure connectivity”. Esa公式サイト. 2023年9月21日
・“EutelsatがOneWebとの合併を完了”. Data Center Café. 2023年10月2日
・加藤 樹子.“米中欧の通信衛星最新動向、Ooklaが重要ニュースをセレクト”. 日経クロステック. 2023年10月2日
・太田 亮三.“アマゾンの衛星インターネット「Project Kuiper」試験衛星の打ち上げに成功”. Impress Watch. 2023年10月13日
・Debra Werner.“Telesat taps Aalyria to provide network orchestration”. SPACENEWS. 2023年11月14日
・Newsroom.“AmazonのProject Kuiper とNTT、スカパーJSAT、戦略的協業に合意 高度な衛星ブロードバンドサービスを日本で提供”. amazon.com. 2023年11月28日
・News.“Amazon's Project Kuiper completes successful tests of optical mesh network in low Earth orbit”. amazon.com. 2023年12月14日
・習政権.“中国版「スターリンク」24年から構築 人工衛星2.6万基”. 日本経済新聞. 2024年01月10日
・“中国版スターリンク、利用法や問題点は?”. 日本経済新聞. 2024年01月11日
・Jason Rainbow.“Ground delays holding back Eutelsat’s global LEO broadband services”. SPACENEWS. 2024年1月29日
・Hanno Labuschagne.“Starlink rival OneWeb launches first site in South Africa”. MyBroadband. 2024年1月31日
・“中国民間企業の「吉利星座02組」衛星11機打ち上げ成功 衛星コンステレーションで車の自動運転をサポート予定”. Sorae. 2024-02-10
・Jason Rainbow.“記事名”.媒体名.日付
・PRESS RELEASE.“Eutelsat scales back OneWeb Gen 2 upgrade plan”. SPACENEWS. 2024年2月16日
・Jason Rainbow.“Avanti to integrate Telesat Lightspeed LEO broadband services”. SPACENEWS. 2024年2月22日
・“RIS²: the new EU Secure Satellite Constellation”. EU公式サイト

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