グレゴリー・ベイトソンからキャリアカウンセリングのナラティブアプローチを考える

 サイコセラピー(心理療)とキャリアカウンセリングあるいはカウンセリングは別のものだと個人的には考えています。前者は心の問題の治療を前提としているのに対して、後者は心の問題は不問にします。ただ日本でサイコセラピーとカウンセリングの違いを明らかにしようとしている人は平木典子先生だったり国分康孝先生たったり、必ずしも多くありません。「どっちもできる」という立場の人が多いからだと思います。でもお医者さんでも耳鼻科と内科と外科では専門が違うとおり、専門は明確にあったほうがいいのではと個人的には思っています。
 というわけで、ワタシはグレゴリー・ベイトソン(1904~1980)について詳しくないから、本当はあまり偉そうにしゃべるべきじゃないのですが(ポール・ワツラウィックらが書いた本の訳本は持ってます)。非専門家の頭の整理と思って読んでください。

 ベイトソンはマーガレット・ミードの配偶者としても知られる文化人類学者で、父親はバリバリのダーウィン主義の遺伝学者だったそうです(ダーウィン主義への反発からベイトソンは文化人類学者を目指したとか)。ベイトソンはイギリス生まれですが、第二次世界大戦中にアメリカに渡ったようで、精神病棟におけるフィールドワークから二重拘束(ダブルバインド)理論に至ったといわれます。

 ナラティブアプローチの1つの形態として、語用論があります(一方で人間関係論もあります)。ベイトソンは語用論を用いて語っているように思いますが、「その人は自分なりの言葉をどういう意味で使っているか、どういう意味でとらえているか」によって理解や行動が変わってくるとしています。意訳すれば「人は自分が使う言葉によって操られている」という感じでしょうか。ベイトソンはのちに「メタ・メッセージ」とか「メタ・コミュニケーション」という言葉を使っていますが、要はナラティブ・アプローチは本人が使っている言葉や本人の行動を、本人と一緒にメタ認知しようという取組だと個人的に理解しています。氷山の一角である「本人の語り」から氷山の下にある「本人の背景(意味や意義)」あるいは氷山全体を理解しようという試みだと思っています。特に日本のブリーフセラピーの研究者・実践家の中で、ベイトソンは人気があるという印象があります。理論家からすると「(ベイトソン理論は)言葉で説明が分かる」という面もあるのだと思います。

 もっともナラティブアプローチというのは、古い精神分析のように「セラピストにとって分かる(解釈できる)言葉にする」というばかりではなく、クライエントの症状がなくなればいいわけですから、(1)問題行動さえ消えればいい(2)言語化しなくてもいい、という考え方もできます。
 この自由度が「わかりにくさ」にもつながっているような気がします(この辺りはトランスパーソナル心理学にも通ずるものがあるのですが)。

 ちなみにベイトソンはスタンフォードのプロジェクトでドン・ジャクソン、ダグラス・ヘイリー、ジョン・ウィークランドなどと共同研究を行い、ドン・ジャクソンはMRI(メンタル・リサーチ・インスティテュート)を創設し、ダグラス・ヘイリーは70年代にミニューチンと共同研究を行い、MRIではド・シェイザーやインスー・キム・バーグが学び、などとその影響は広がっていくわけですが、それはまた次の機会に。

 


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