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「出られない部屋」 #近未来予想図 イベント投稿

DMM オンラインサロン「近未来予想図」では

少し先の未来はこうなるのでは?ということを自由にブレストしながら、未来予想をエンタメとして楽しむ人が集っております。


こちらのnoteは、DMM オンラインサロン「近未来予想図」の 2020年4月の未来予想イベント

「新型コロナウイルスが変える日本」

投稿されたショートショートです。(オリジナルは下記のPDFです)


出られない部屋

 ドアが開かない。これが全ての始まりだった。

 昨晩ゲームをしすぎたせいで、寝坊してしまい今日の朝はバタバタだった。急いで歯を磨き、髭を剃り、スーツに着替える。朝ごはんは途中のコンビニで買おう。そうして玄関のドアをあけようと手をかけた。

 が、開かない。電子錠は鍵なんて無くても生体認証で開くはずなのだけど。

 その時、非通知から着信がなった。

「こちら保健所の者です。検疫法に基づき、あなたは二週間の隔離が義務づけられました。」

「よくわからないのですが。」

「あなたと接触のある方が指定感染症に罹患していることがわかりました。拡散を防ぐためあなたの自由は一時的に制限され、二週間、自宅から出ることはできません。また健康状態も24時間体制で監視させていただきます」

あの災害以降に大幅に権限強化された検疫法。あれに引っかかってしまったらしい。

「それは困ります。今から会社にも行かないと。」

「認められません。個人の自由制限に伴い、サービス、補償については負担させていただきますのでご安心ください。」

「ご安心くださいって、ちょっと!」

 電話は切れてしまった。

 何はともあれ家からは出られないらしい。とりあえず会社には連絡しないといけない。

「すいません。今日の出勤なんですが…」

 上司に連絡を取るとすでに何か聞かされていたようだ。

「いやあ、大変だな。がはは。まあ家からでも勤務出来るよう、申請出しておいたから。家のパソコンから仕事しといてよ、よろしく。」

 ノリが軽い。隔離なのに働くのかいという気持ちは有るが、給料のためには仕方がない。

 パソコンを立ち上げると、社内と繋がるようになっていて仕事できるようになっていた。サボれることを一瞬期待したのだけど。

 同時に「隔離期間中の対応について」というメールが配信されていた。隔離期間中のサービスについてこと細かく書かれている。どうやら本当に二週間、人と直接会ってはいけないらしい。やれやれ。

***

 そうして始まった二週間の隔離生活は思いの外快適な生活だった。食糧は希望したものが、玄関のドア先に置かれた宅配ボックスに時間毎に送られてきた。(その時だけ鍵は解除されたが、メール曰くドアが空いた際は監視下にあるそうである)

 仕事はまるで影響がない。メールが届き、社内イントラにアクセス出来て、ビデオ会議さえ参加できればどうにでもなるものである。通勤とは一体なんだったのか。

 楽しみにしていたライブも現在の状況を伝えると、リアルタイムVR配信で繋いでくれた。熱狂をその場で共有はできない反面、かなり間近で体験は出来たのでどっこいどっこいである。

 恋人とも会えない辛さはあったが、そもそも週末だけと考えれば2日程度の話であり、事情を話せば「大変ね」の一言で済んでしまった。「男女間の濃厚接触が必要とされる場合、遠隔での支援もいたします」といった文言もメールには書かれていたのだが、流石に遠慮する。国にそこまでされたくはない。

 強いて言うなら家から一歩も出ないせいで運動不足になる。かと思いきや、「家でも出来る簡単エクササイズ」のメニューおよび貸し出し可能な機器一覧まで載せられていて、いやはやよく考えられた隔離生活である。

 どうなるかと思った隔離生活は不便もなくあっという間におわってしまった。

 二週間が経ち、解放されるにあたり再び保健所から電話が来た。

「電子錠は解除され、あなたは再びどこにでも行くことができます。隔離ご協力ありがとうございました。」

「不自由なく過ごせて快適でしたよ、ははは。ところで教えていただきたいのですが、今回誰がどのような感染症にかかっていたのでしょう。」

「個人情報保護、感染症そのもののリスクの観点からお教えすることはできません。」

 キッパリ返事をされると、電話は一方的に切られてしまった。役所仕事なんてそんなもんだろう。国が決めたことなんで仕方ないし、自分が感染を広めなかっただけマシななのだとプラスに捉えておこう。

 久しぶりに生で見る上司に怒られないといいな。そう思いながら、スーツ上下を着て、満員電車に乗り通勤する。隔離生活の方が良かったなんて思いながら。

***

「特に何もないのに、こうして隔離するなんていいんですかねえ」

 今日もサンプルの終了を報告して保健所職員は愚痴を呟く。

「有事の時の訓練として、こうした事前の対応は必要なのだ。いかに国として犠牲者を少なくするか、それが全体の幸福に繋がるのだから」

「そんなもんなんすかねー」

文句を言おうと言わまいと、仕事なのでやっていくだけである。保健所職員は報告書を仕上げ、次のサンプルを誰にするか、マイナンバーのランダム抽選の番号を押すのだった。


ぜひサロン紹介動画をご覧ください



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