Francesco ~ほんとうの幸い~
~Francesco 1 ~
兄弟なる太陽が
まばゆい光を注ぐ初夏の日の午後
たまたま立ち寄った湖のほとり
ひとり沐浴するあなたを見た
なつめやしのような立ち姿(雅歌7:8)
豊かに実る 柔らかな乳房(雅歌7:8)
磨かれた彫り物のごときあなたの太もも(雅歌7:2)
木漏れ日の中で息をひそめながら
神が創りたもうた最上の美を見た
姉妹なる満月が
ひそやかな光を注ぐ初夏の日の夜
黙想しつつ歩く石の回廊で
沐浴するあなたを思い起こす
何ひとつ身にまとわず
エデンの園の姿で微笑むあなた
天地創造の終局になされた奇跡
ひんやりとした壁に手を当てながら
近づき得ぬ天上の美に身悶えする
決して触れられない
永遠に触れられない
から
あの一瞬を宝として生きてゆく
ローマの聖堂に安置される どの聖遺物よりまして
~Francesco 2 ~
あなたとともに建てた石造りの教会
ローマとは比べ物にならないほど
粗末で質素
だけれど
きっと私たちにぴったりだ
Chiara
祈るわたしの隣で
Chiara
あなたも祈っている
着古した修道服
から覗く
あなたの透き通るような肌
そっと目を遣り
また十字架の主を仰ぎ見る
Chiara
あの初夏の日に見た あなたの……
決して触れられない
永遠に触れられない
わたしのあこがれ
神にも言えない
わたしのあこがれ
「神にすべてをささげて生きるのが 私たちの幸せ」
微笑み合うわたしとあなた
このように隣りして座る この時間こそ
私たちのほんとうの幸いであることに 遂に思い至らぬまま……
(初出:季刊詩誌『舟 181号』、レアリテの会、2020年11月発行)
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