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ねこの孫14

紀子のりこが持ってきたあん用のごはんはレトルトパウチのスープ仕立てまぐろ、小海老入りという豪華な猫用のごはんだった。
「随分猫も贅沢になったものだなあ。スープ仕立てだって」
いわおは言った。
それを杏用のごはんの器に入れてやる。
自分の飯は紀子のりこが買ってきた惣菜を食おう。巌は冷蔵庫を開けた。
ビニール袋からパックを取り出すとそれは唐揚げととんかつだった。
「あいつは何考えてんだ」
育ち盛りの男子ならいざ知らず、こちらは初老に差し掛かっているのだ。油っこいものは胃がもたれるお年頃である。
紀子は昼の弁当は塩鮭や野菜の胡麻和えのヘルシーな幕の内弁当を買って来たのになぜ惣菜は揚げ物攻めなのだ。
「うーん」
それでも巌はとんかつをオーブントースターで温めることにした。電子レンジよりオーブントースターのほうがサクサクになるのだ。
ご飯はチンする麦入りご飯をレンジにかけた。それとインスタントに茄子の味噌汁。杏をテーブルにのせてやり、自分の食事も並べた。本来の猫ならば床の上で食事させるのだが、昼食の時、紀子は杏をテーブルにのせて食事させた。「だってお顔見れないと孤食になっちゃうじゃない」と紀子は言った。
「孤食ってそういう意味か?」と巌は返事したが、確かに家族ならば会話しながら食事するのが望ましい、と思った。
「さ、いただきます」
「いただきまーす」
杏は早速、器に顔を突っ込んで食べ始めた。さすがに箸は使えないもんな。食べ方は普通に猫である。
「おいしいか。杏」
「すっごいおいしいよー。おじいちゃんも食べる?」
「いや、おじいちゃんは自分のご飯があるから杏はそれを残さず食べなさい」
「うん」
巌は切ったとんかつを箸でつまんだ。すると中からチーズがにょーんとのびた。ああ、チーズ入りか。胃もたれ決定。せめてキャベツの千切りがあればなあ。野菜が全然無いぞ。とんかつにブルドッグソースをかけてモソモソ食っていると、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
「なんだ。夕飯時に誰だ」
巌は茶碗を置いて言った。杏は「誰か、来たの」と口のまわりを舐めた。
「しょうがないな。杏は食べておれ」巌は玄関まで歩いて行った。その間もピンポンピンポンの連打である。客はよっぽどの用があるのか。はっきり言ってうるさい。
「はいはいはいはい」と巌はドアに向かっていい続け、サンダルを履いて出た。
ドアの向こうに立っていたのは女将だった。心無しか青ざめて髪がバサバサに乱れている。
「あっ、どうしました?」
巌は驚いて言った。

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