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ねこの孫16

夜の10時過ぎ、いわおが漫然と雑誌をめくっているとスマホに着信があった。
どうせ紀子のりこのやつだろうと出るとやっぱり紀子だった。
「お父さん、夕ご飯食べた?」
いきなり訊いてくる。
「食べたよ。しかし、なんだいありゃあ、からあげととんかつなんて、年寄りいじめのチョイスじゃないか」
巌が文句を言うと紀子は、
「だって寄ったスーパーが揚げ物三割引きの日だったのよ。こりゃ買いじゃーっていう気になってついカゴに入れちゃったのよねー」
紀子の声は朗らかだった。
昼間はピリピリした雰囲気だったが、今は穏やかな声色だ。
巌は娘の声に様子に一安心した。これでも娘の心配はしている。
あんはどう?ご飯ちゃんと食べた?」
「食べたよ。完食した。しかし、最近の猫の餌は豪華だな。スープ仕立て小海老入りときたもんだ。俺が食いたくなったよ」
「あ、そう。別にお父さんが食べても害はないだろうけどさ」
「いや、さすがに孫のご飯を横取りはしない」
巌はきっぱり言った。
「でもとんかつにチーズ入ってたぞ。半分しか食えなかったよ。もし、今度おかず持って来る時があったら、野菜の煮物とかけんちん汁とかにしてくれ」
巌は紀子に言った。
「お父さん昔はとんかつ大好きだったのにね。年取ったのね…」
紀子がやけにしんみり言ったので、巌は居心地が悪くなる。
「杏はどうしてる?」
「ぐっすり寝てるよ」
「そっか。おねんねか」
「起こそうか。ママの電話だよって」
「いいわよ。かわいそうじゃないの」
そう言って紀子は今日の出来事を話し始めた。キッチンこやまの夕飯時にひさしぶりの常連さんが来たのだそうだ。
その人の注文はいつも決まっていてポテトコロッケとライス。
キッチンこやまのコロッケは何の変哲もない普通のコロッケだ。
男爵いもと牛ひき肉のホクホクしたポテトコロッケ。一人前に二個つき、キャベツの千切りとマカロニサラダを添える。
常連さんは磐田さんという。
見たところ70代くらい。
その人はコロッケライスを注文すると二個のコロッケのウスターソースをかけ、(磐田さん用ウスターソースがキープボトルとして置いてある)
コロッケをフォークの背でぐちゃぐちゃに潰す。そして、それをライスの上にまんべんなく乗っける。
そ磐田さんはそのコロッケライスをいかにも幸せそうな顔をして食べるのだそうだ。
「私、それ見てたらさ、この仕事ほんとに好きだなーって思ったのよね」
「ふぅん」
「それで、気持ちが明るくなったのよね」


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