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小説 ねこ世界33

ミケはぐったり目を閉じているねこの耳元に「聞こえますかー」
と声をかけた。
彼女の手に触れるとすっかり冷たくなっている。
「一晩ここで明かしたの。寒かったでしょう」
小さな声で話しかけると彼女は目を開けた。
「もう大丈夫だからね。心配しないで」
彼女はミケを見た。
「  あ…病院には、行きたくないです…」
「うん、うん。身体は大丈夫ですか。痛いとことない?」
ミケは彼女の全身を見回した。
やつれて毛がパサパサになっているが怪我などはないようだ。
「寒い…」
か細い声で彼女は言った。ミケは毛布の上からは彼女の身体をこすった。
「つらかったね。もう大丈夫よ。あったかいところで休もうね」
ミケは安心させるように優しく言った。
その間、所長はミケの後ろで様子を見守っていた。発見者のおじさんも心配そうに見ていた。
「大丈夫そうかい?」
おじさんがミケに声をかけた。
「大丈夫ですけど、歩くのは厳しいみたいです」ミケは所長をじっと見た。
所長はギクッとした。
「わ、わたしはとてもじゃないけど、おぶえないよ。一昨年ぎっくり腰やったからね。誰か屈強なねこを呼んで来ないと、それか…」所長がモゴモゴ言っていると横のおじさんが、「あ、じゃあ俺がおぶって行ってやるよ」と軽く言った。
あんまり言い方がサクッとしているので所長とミケが戸惑っているとおじさんは毛布に包まれている彼女に背を向けてしゃがんだ。
おぶされというのである。
「ほらほら、おぶさんなさい」
彼女はやっぱり戸惑ってミケを見た。ミケは冷え切っている彼女の手を握り、おじさんに頼む事にした。早く温めてあげたい。協力してくれるねこがいてよかった。所長がペコペコおじさんに頭を下げた。
「本当にありがとうございます。いやあ助かります。」
おじさんは彼女をおぶうと、「さて、どこに連れてけばいいんだい」
とミケに訊いた。
「野良ねこ支援センターまでお願いできますか。すいません、歩いて10分くらいなんですけど」
ミケと所長とおじさんは歩き出した。
「お強いんですねぇ」
所長がおじさんに言った。
「ははは、こねこが四匹いたからね。よくおんぶだの肩ぐるまだのやって鍛えられたんだよ」
「わあ、おこさん四匹ですか。そりゃ賑やかですね」
「今は3匹は就職して出てったけどね。下のメスがいるんだけど、この子は料理が好きでねぇ。料理研究家になりたいなんって毎日凝った料理作ってね。俺と家内は試食攻めだよ」
おじさんは家族の話を楽しそうに喋った。
        

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