陽子と電子の電荷についての、素朴だけど深遠な疑問

例えば、水の分子$${(H_{2}O)}$$は水素原子(H)2個と酸素原子(O)1個からできていますが、原子というものは、原子核と電子からできています。その原子核は、陽子と中性子からできています。そして、陽子や中性子は、クォークと呼ばれるより小さな粒子からできています。電子は現時点ではそれ以上分割できない粒子であると考えられています。

さて、陽子と電子の質量を見てみます。

  • 陽子の質量 $${=1.67262192 × 10^{-27}}$$ kg

  • 電子の質量 $${=9.1093837 × 10^{-31}}$$ kg

つまり、陽子の質量は、電子の質量の約1800倍です。陽子と電子は全然似てないですね。

次に陽子と電子の電気的な性質を見てみます。

  • 陽子の電荷$${ =+1.602176634 × 10^{-19}}$$ C

  • 電子の電荷 $${=-1.602176634 × 10^{-19}}$$ C

ここで、C はクーロン(Coulomb)と呼ばれる電荷の単位で、電荷が多ければ多いほど、働く電気の力が大きくなります。

なんと、陽子と電子の電荷は、符号が逆なだけでぴったりと、10桁の精度で!、一致しています。

陽子と電子。似ても似つかない全く別の二人、その電荷の大きさがこれほどぴったり一致している?たまたま同じだったということでしょうか?

たまたまなのかなあ。と思った人、だまされやすい人認定です(笑)。少なくとも、科学者には全く向いてません。

自然界にみられる分子に含まれる陽子の数と電子の数を見てみると同じになっています。中性子は電荷をもっていません。したがって、分子がどれくらいの電荷をもっているかを考えると、次のようになります。

分子の電荷$${=(陽子の個数\times 陽子の電荷)+(電子の個数 \times 電子の電荷)}$$
$${=陽子の個数\times (陽子の電荷+電子の電荷)}$$

先ほど、陽子の電荷と電子の電荷が符号が逆なだけで大きさが一致していると説明しましたが、これを考えると、

分子の電荷=0

となることがわかります。実際の分子を見てみると、電荷がないようにふるまっていることから、上の議論には間違いはないようです。

さて、化学でよく出てくる、アボガドロ数は、物質1モル(mol)に含まれる構成要素(原子、分子など)の数で、12gの炭素$${(C^{12})}$$に含まれる原子の総数として定義されています。

  • アボガドロ数 $${=6.02214076\times 10^{23} mol ^{-1}}$$

ここで、仮に、陽子の電荷と電子の電荷の大きさが、次のように、ちょっとずれていたとしましょう。

  • 陽子の電荷$${ =+1.6021766345 × 10^{-19}}$$ C

  • 電子の電荷 $${=-1.6021766341 × 10^{-19}}$$ C

12gの炭素$${(C^{12})}$$を考え、その電荷がどうなるかを考えてみましょう。

12gの炭素$${(C^{12})}$$の電荷$${=6.02214076\times 10^{23} \times 陽子の個数\times (陽子の電荷+電子の電荷)}$$

$${=6.02214076\times 10^{23}\times 6 \times (陽子の電荷+電子の電荷)}$$

$${=1.4453137824\times 10^{-4}}$$ C

となります。ここで、炭素$${(C^{12})}$$に含まれる陽子の個数は6個です。

なんと、炭素が十分観測可能な大きさの電荷をもつことになってしまいます。実際見ている世界ではこんなことは起こっていません。つまり、陽子の電荷と電子の電荷の大きさは、もっと高い精度で一致していることを示唆しています。

私たちの住む世界、特に人間社会、偶然が起こること、驚くような奇跡にようなこともあります。それは事実です。(時には作り上げられた奇跡もあるので注意も必要(笑))
しかしながら、自然界の持つ性質に偶然はないと私は考えています。偶然だとみとめることは、わからん!や良いアイデアが出せない、というような理由で、科学者の信念を放棄することだと思います。自然界には必ず「からくり」があるはずです。いつの日にか、なるほどね!すごいね、となるものだと思います。

これを説明する素粒子の理論の候補として、大統一理論(Grand Unified Theory, GUT)と呼ばれる美しい理論が、1974年にHoward GeorgiとSheldon Glashowにより提案されました。残念ながらうまくいかない部分があり解決とはなりませんでした。その後も活発な研究により非常に沢山のGUTの系統の理論が提案されていますが、大満足となるものは見出されていません。

50年位たっても解決できていない、こんなにシンプルな謎、興味をそそられませんか?

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