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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第159回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
微子十八の三~四
 
微子十八の三
 
『斉景公待孔子曰、若季氏、則吾不能。以季孟之間、待之。曰、吾老矣。不能用也。孔子行。』
 
斉の景公が孔子の待遇について、「季氏のようには優遇できない。季氏と孟氏との中間で遇しよう」しばらくして再び景公曰く「私も年だ。任用できない。」孔子は去った。
 
(現代中国的解釈)
 
中国は、若年層の失業率が高い。昨年8月、その発表をとりやめ、年末にはついに習主席が、若年層の苦境を認めた。年が若すぎて任用できない。その原因は、政府が作り出している。IT巨頭の持つ、膨大なデータをコントロール下に置こうと、さまざまな制約をかけ、活動を萎縮させている。
 
(サブストーリー)
 
そんな中、小紅書が元気だ。小紅書とは、口コミとネット通販の複合形態という独自モデルのアプリである。そのスタートは、社区(コミとュニティ)において、海外商品の買い物経験、情報をシェアする活動だった。やがて情報は、観光全般、スポーツ、不動産、など広範囲に拡大、これらの情報データを基に2014年、小紅書福利社、というアプリを立ち上げる。小紅書は、豊富な情報から、推奨商品とその最適ルートを提示できた。これらの利点を活かしつつ、独自の越境Eコマースを構築した。そして女性の利用率が圧倒的に多いのが特徴だ。2023年には96%に達する、とみる調査機関もある。しかも90后比率が70%である。そのため化粧品のKOLマーケティングにおいて最も利用されるプラットフォームとなった。ファッション、美食、旅行についてもしかりである。例えば日本の観光地は、大量の投稿で、すみずみまで丸裸にされている。観光ガイドブックの役割まで果たしている。
 
この個性的な小紅書が、過去1年半で国内ネット通販とコミュニティの統合を進めた。ユーザーに、ライブ放送から受注に至るまでのリンクを開放した。その結果、バイヤーの数は27倍、販売者は10倍、購入ユーザーは12倍となった。さらに過去1年に限ると、GMV(成約総額)1億元を超える販売者が500%増、1000万元を超える販売者も同様に500%増となった。通販プラットフォームとして勢いに乗ってきた。抖音TikTokや快手のたどった道を追いかけている。結局、投稿シェアプラットフォームは、みな似たような形になっていく。ただし、ネット通販企業にはならない、と宣言している。競争は厳しく、スキルのない若者の雇用までにはつながらないか。
 
微子十八の四
 
『斉人婦女楽。季桓子受之、三日不朝。孔子行。』
 
斉人が魯国に、女楽団を派遣した。季桓公はこれを受け入れ3日間政務を怠った。孔子は去った。1
 
(現代中国的解釈)
 
かつて欧米系スーパーは、中国で一世を風靡した。テスコ(英)メトロ(独)カルフール(仏)ウォルマート(米)などである。しかし、彼らは2010年代、ネット通販の興隆と反比例するように、輝きを失う。素人目にも売場が荒廃、物置き化してしまい、市場からは去ったも同然という社もある。ところが意外なことに、米国系会員制スーパーが勢力を持ち始めた。中国の消費者には、有料会員制はマッチするまいとみられていた。しかし先行したサムズクラブが。このビジネスモデルをコツコツと浸透させていた。その土壌にちゃっかり乗ったのがコストコである。
 
(サブストーリー)
 
サムズクラブは、ウォルマートの創業者、サム・ウォルトンの名を冠した、世界2位のホールセールクラブだ。中国では1996年、深セン店でスタートした。順調に拡大し、現在46店舗、今後毎年6~7店舗のペースで出店する予定だ。これに対し従来型のウォルマート店舗は、2018年の420店舗から2022年には322店舗に減少した。DX化などビジネスモデルの再構築というか、当面、縮小均衡を目指しているだ。その分、サムズクラブが、ウォルマートグループを引っ張り、第2の成長曲線を描いている。
 
コストコは全世界に1億2000万人の会員を持つ世界最大のホールセールクラブだ。売上2423億ドル(2023年9月期)を誇るが、店舗数は800に過ぎない。すぐれた会員戦略のたまものに違いない。コストコ中国1号店のオープンは2019年8月の上海店。初日は数万人が押しかけ、わずか4時間で閉店を余儀なくされ話題となった。転売可能な目玉商品を買えなかった人々が、会費の返金を迫るなど、手の付けられない混乱だったという。その一方、2カ月で20万人の登録会員を集めていた。しかし、ブームは短命との予想ははずれ業績は順調に拡大、今年1月には、6店舗めの深セン店をオープンした。その深セン龍華店は、売場面積1万5000平米、駐車場は1000台と、日本ならふつうの総合スーパーの規模である。この規模でも、会員拡大に寄与する。サムズより少ない店舗で、広範囲に会員を集めるノウハウは比類ない。
 
とにかく国際会員制大手が、オンラインの国内電子商取引に挑む構図が出来上がりつつある。オフライン商業のオンラインへの反転攻勢が、形になるのは初めてといってよく、いまのところ他の切り口はない。中国人にとって米国から到来したスタイルは、波長が合うケースが多い。本当は中国人は米国好きなのである。
 
 

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