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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第133回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の二十四~二十六
 
衛霊公十五の二十四
 
『子曰、吾之於人也。誰毀誰誉。如有所誉者、其有所試矣。斯民也、三代之所以直道而行也。」
 
孔子曰く、「私は人に対し、誰かをそしったり、ほめたりしない。もしほめる人がいるならば、それは実際に試したことがあるからだろう。民は、夏・殷・周の三代と同じように、真っすぐな徳を持っている。めったなことをいうものではない。
 
(現代中国的解釈)
 
共同購入型通販を成功させた「拼多多」は、真っすぐな徳を持っているのだろうか。同アプリは、ネット通販初心者の地方都市主婦層を取り込み、急発展を遂げた。昨年9月から米国でTemuという越境Eコマースをスタートさせた。その後、オーストラリア、カナダ、英国、フランス、ドイツ、スペイン、オランダ、日本、など23カ国に展開している。常に新しい市場へ挑んでいる。
 
(サブストーリー)
 
Temuアプリは、日本でもダウンロード可能だ。いきなり総合通販の体裁を整えている。アプリ紹介には「世界各地の最大手サプライヤーやブランドの高い品質の商品を、いつでも、どこでも数量にかかわらず、卸売り並みの価格で購入できます。」と書いてある。宅配は佐川急便、ヤマト運輸、日本郵政の3社が担当するようだ。日本市場は中国と地理的に近く、先進国としてユーザーが成熟していること、物流やデジタルインフラがも整備されていることから、アジア市場への足がかりとして最適だった。そしてすでに東南アジア市場でも、市場調査に入った。
 
今後、越境物流のコスト、各国との文化摩擦、公的機関や規制当局の圧力に直面することになる。さっそく米下院からは脱税の疑いを指摘された。その対策のため、コンプライアンスと貿易担当の弁護士を募集しているという。
 
アリババは、Ali Express(速売通)という海外通販を2010年にスタート、200を超える国と地域に展開している。ただし米国市場に対しては、アマゾンの本拠ということもあり、腰が引けていた。本気で立ち向かったのは、2020年代、衣料品中心のSHEINである。TemuはSHEINの経験をなぞっている印象だ。ただし、自社商品開発のSHEINと、集荷型のTemuには、簡単に言えばユニクロとしまむらの違いがある。Temuの物流は大変なはずだが、まだめったなことをいうべき段階ではないだろう。
 
衛霊公十五の二十五
 
『子曰、吾猶及史之闕文也。有馬者、借人乗之。今則亡矣夫。』
 
孔子曰く、「私は、史書の文字が欠落した文を見ることがある。疑問があれば空白にしておくのだ。馬の所有者が人に貸して、乗せる、という意味が推測できる。今はなくなった習慣だ。」
 
(現代中国的解釈)
 
現代では、疑問があれば検索エンジンを利用する。それによってある程度の結果は、得られる。空白は、すぐに埋められ、空白のままにしておく習慣はない。
 
(サブストーリー)
 
中国では、政策サポートを受け、人工知能の利用が普及している。その一例はビッグデータ産業である。2014年、政府報告に初めてビッグデータ(大数居)という文字が登場した。そして翌2015年から17年にかけ、全国で20カ所の「大数居交易所」が設立された。しかしデータ取引は不活発で、2018~2019年には、5カ所の開設にとどまった。ところが2020年以降、再び活発となり、現在全国に46カ所の、ビッグデータ交易所がある。
 
2023中国国際大数居博覧会での公式発表によれば、2022年の交易所経由の取引規模は、40億元という。どんなデータが取引されているのだろうか。
 
例として、カーナビデータやカタールでのサッカーワールドカップのデータを挙げている。また上海交易所が開始した、城市智慧泊車(都市スマートパーキング)では、4700カ所の駐車場、89万の停車スペース情報を、ソフトウェア会社や企業顧客へ提供している。
 
不正利用の防止など、規範の問題から、利用率はまだ高くない。しかし、徐々にデータ取引は、これらの交易所経由に移行するものと考えられる。2050年にはデータ取引全体の4分の1から3分の1にしたいようだ。この水準なら、政府の統治も安心ということだろうか。
 
衛霊公十五の二十六
 
『子曰く、巧言乱徳。小不忍、則乱大謀。』
 
孔子曰く、「巧言は徳を乱す。小事を我慢しないと、大きな計画を乱してしまう。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国政府は小事を我慢できなかったのだろうか。2020年11月、アリババ系フィンテック会社、アント・グループの上場が、直前になって中止された。ツルの一声らしいが、一体どうゆう権限があって、とツッコミたくなる。しかし実際に中国のトップは何でもできることを証明してしまった。
 
(サブストーリー)
 
その後、親会社のアリババは、独占禁止法違反で182億2800万元という巨額の罰金を受けた。そしてアント・グループに対しては“調整”を続けていた。
 
7月7日、国家金融監督管理総局、中国人民銀行、中国証券監督管理委員会は、アント・グループのプラットフォームと金融業務上の未解決問題は、ほとんど是正されたため、以後通常の監督体制に移管する、と発表した。
 
この3年間にアント・グループには、コーポレート・ガバナンス、金融事業の消費者保護、銀行・保険機構の一般事業参加、決済事業、マネーロンダリング防止義務の履行、ファンド募集事業など、多方面にわたり、法令違反が見つかった。その結果、71億2300万元の罰金を課された。特に、消費者権益を侵害したこと、規制に反して保険代理業や、個人年金証券管理など、銀行、保険業に関わったこと、が重大問題とされた。
 
アントの業務は、丸裸にされ、当局による指針も明確となった。これにより発表当日のアリババの株式は3%上昇した。こうしたIT巨頭へに対する調整が、中国の経済成長という大きな計画を、萎縮させていた。しかし、この終了宣言により、すぐに元の成長軌道に戻るとは考えられない。不動産不況、若年層の高失業率など、経済社会環境がかつてないほど悪化している。これらの新たな変数は、どう影響するのか誰にもわからない。
 
 

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