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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第101回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の九~十一
 
子路十三の九
 
『子適衛。苒有僕。子曰、庶矣哉。苒有曰、既庶矣。又何加焉。曰、富之。曰、既富矣。又何加焉。曰、教之。』
 
孔子が衛国へ赴いた。御者は苒有だった。孔子曰く、「大勢だな。」苒有曰く、「すでに大勢ですか、さらに何を加えましょうか。」孔子曰く、「富ませよう。」苒有、「すでに富んでいます。さらに何を加えましょう。」孔子、「教育をしよう。」
 
(現代中国的解釈)
 
そうした孔子の影響か、中国の受験戦争はすさまじい。中央政府はそれを憂いたのか、2021年7月、唐突に「義務教育段階における宿題や塾などの負担軽減に関する意見」いわゆる双減政策を発表した。営利目的の学習塾は禁止され、教育関連企業は甚大な影響を受けた。
 
(サブストーリー)
 
トップ教育企業の「新東方」も、それは免れなかった。義務教育関連の事業(売上構成比50~60%)を失い、オンライン、オフラインを会わせた講座数は、1556から706に半減した。その結果、2021年下期には、1000億元もの損失を出した。しかし、矢継ぎ早に、事業転換を打ち出していく。
 
まずネット通販大手京東の物流部門と、職業教育で広範囲に提携した。さらに米国市場ではオンラインの中国語講座を始めた。そしてネット通販事業に進出する。
 
2021年、ネット通販プラットフォーム「東方甄選」を立ち上げた。コンセプトは、農家を支援し、ユーザーに高品質の農産品を継続して提供することだ。そして今年6月には、ライブコマース本格進出した。反応は“熱狂的”だった。ショートビデオアプリ抖音のライブ放送では、閲覧数トップにランクされたこともある。これとは別に、アリババ、京東に東方甄選ブランドとして出店し、認知度アップ戦略にも抜かりはない。
 
これらの政策により2022年6~8月の4半期決算では、売上、利益とも縮小幅が減少、市場はこれを好感し、株価は30%の急回復を見せた。利益を出すために、あらゆる手を打つ。いかにも中国企業らしい、しぶとさだ。一方で教育企業のクリーンなイメージが、新規事業に好影響を与えているという。使える武器は何でも使う。躊躇はない。
 
(サブストーリー)
 
子路十三の十
 
『子曰、荀有用我者、期月而已可也。三年有成。』
 
孔子曰く、「もし私を用いる者があれば、1年だけでもよい。3年あれば完璧だが。
 
(現代中国的解釈)
 
2010年代、振興の中国IT企業は、爆発的な成長を遂げていた。コーヒーチェーンの瑞幸コーヒー、ネットメディアの趣頭条、共同購入の拼多多などは、設立から3年前後でナスダック上場を果たしている。その1年1年が実に濃密だった。
 
(サブストーリー)
 
この中で最も成功したのは、拼多多である。地方の低所得層、ネット通販初心者を開拓し急成長した。それが米国進出を果たし、大きな話題を提供している。9月、米国でネット通販アプリ「Teme」をスタートさせた。「Team Up Price Down」つまり、共同購入を表している。米国のApp Storeのショッピングアプリ、ダウンロードランキングでは、Amazon、SHEIN、Walmartを相手に、4位以内をキープしている。出足は順調のようだ。クーポンを連発し、再購入率は10%という。2.44ドルの衣料が6000アイテム、0.99ドルの化粧パフが8000アイテムなど、最低価格のさらに下をくぐる品揃えである。平均購買価格は25ドル、SHEINの3分の1だ。
 
11月には、SNSを介して友達グループへ商品を推奨する“砍一刀”を付加した。これは
微信(WeChat)を徹底利用し、中国ローカル市場開拓のカギとなった中核機能である。さらにカナダにも進出した。中国流共同購入がが北米に根付くのかどうか。SHEINとの対決はどうなるのか。興味は尽きない。3年もかからず、結果は明らかとなるだろう。
 
子路十三の十一
 
『子曰、善人為邦百年、亦可以勝残去殺矣。誠哉、之言也。』
 
孔子曰く、善人が100年、国を治めれば、人間の残虐性を克服し、死刑もなくなる。この言葉は本当だ。
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国は死刑についてデータを公表していない。経済犯罪でも死刑までありうるため、相当数に上るはずだ。善人の統治は続かなかったのだ。とはいえ、反対運動などは起こらない。社会的に前科は大したマイナスならない。他人に対する興味が薄いのである。その一方、他人こそ利益の源泉であることもよく分かっていて、そうした対象者に対しては、積極的に働きかけ、人間関係の構築を目指す。経済活動ではこれを投資と呼ぶ。
 
(サブストーリー)
 
IT巨頭アリババは、政府へのアピールもあり、今年は実体経済を重視した投資活動を行なっている。メディアによれば、28社中、15社が、“実体経済企業”だった。
 
先進製造      1社
XR拡張現実技術  1社
医療設備・機械   2社
物流倉庫      1社
家具住居関連    1社
人工智能      2社
VR設備      1社
チップ製造     2社
ロボット      1社
ベビー用品     1社
クラウド技術    1社
スマート交通    1社
 
投資額トップは、チップ製造の「長鑫存儲」で数十億元を投じた。そのため同社の企業価値は80億ドルに上昇、デカコーンに迫っている。同社は、DRAMの大規模生産に成功した唯一の中国企業で、ファーウェイ、シャオミ、レノボなどの大企業へ納品している。
 
投資額2位は、ロボットの「法奥機器人」で5000万ドルを投じた。同社は、すべての重要部品をすべて国産化した初のロボット企業という。
 
その他では、医療関連、仮想現実関連が重点項目のようである。このように中国IT巨頭は、積極的な投資活動を行なっている。その活動量は、日本の大企業の比ではないように思える。
 

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