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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第99回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の四~五
 
子路十三の四
 
『樊遅請学稼。子曰、吾不如老農。請学為圃。子曰、吾不如老圃。樊遅出。子曰、小人哉、樊須也。上好礼、則民莫敢不敬。上好義、則民莫敢不服。上好信、則民莫敢不要情。夫如是、則四方之民、襁負其子而至矣。焉用稼。』
 
樊遅が穀物の栽培について学びたいという。孔子曰く、「私は、経験のある農民に及ばない。」樊遅は退いた。孔子曰く、「樊遅は小物だな。上に立つものが礼を好めば、民は敬意を示さずにはいない。上が正義を好めば、民が服さないわけはない。上が信頼に値すれば、民は情を尽くさずにはいない。このようになれば、民は四方から子供を背負って集まってくる。なぜ農耕を学ぶ必要があるのか。」
 
(現代中国的解釈)
 
生産者を格下に見る、中国支配階級の中心思想だ。生産性の高い人々ほど、その反対に身分が低かった。古代中国の活況は、農業の生産性向上に負っている。孔子は、それに目をつぶり、見ようとしない。論語はビジネス作法書として、現代でも有用だが、それは経済思想に基盤を置いたものではない。孔子にとって、秩序の確立が究極の目的であり、そのコンテンツは形式ばかりである。
 
(サブストーリー)
 
自動運転銘柄が、危機に陥っている。中国で新しいEV車メーカーが乱立した。本当に四方から、子供を背負って集まってきたような活況だ。その理由は、補助金をもらえること以外に、将来の自動運転社会を見据えてのことだった。しかし、その将来が危うい。
 
最近、「無人運転、生存者は残っているのか。」と題する記事が出た。自動運転元年は2015年、または2020年、とする説などがある。しかし2020年には、業界の“鬼年”として記憶されるだろう、という。業界の先駆、モービルアイ(イスラエル本社)は、今年10月末、ナスダックに上場した。しかしその評価額は167億ドルで、これは5年前、インテルが買収したときから14億ドルしか上昇していない。またL4自動運転のスタートアップArgo AI(フォード、フォルクスワーゲン出資)も営業を終了した。
またここ2~3、米国に上場している自動運転関連企業の株価は、雪崩をうって下落した。なかでも自動運転トラックのEmbarkは、95%下落した。
 
また中国のバックボーンを持つ、「図森未来」も底が抜けた。内乱の発生である。共同創業者、董事長兼CEOの侯曉迪が突如解任された。図森未来は2015年、陳獣、侯曉迪、郝佳男の中国人3人を中心に設立された。L4級自動運転トラックサービスを世界に提供する企業だ。当初、北京とサンディエゴ、後に河北省、上海、アリゾナ州が加わり、米中5カ所で研究開発を進めた。2021年4月には、自動運転企業として世界初の上場(ナスダック市場)を成し遂げた。同年12月には、世界初の完全自動運転テストに成功した、と発表した。
 
しかし2022年に入り、さまざまな動きが表れる。3月、創業者の一人、陳獣が董事長を辞職。さらに中国事業を売却し、米国市場に集中する、と伝えられた。6月には、その陳獣氏が、燃料電池トラックを製造する新会社「Hydron」を設立。10月末、取締役会により、共同創業者、董事長兼CEOの侯曉迪が解任された。
 
現在、図森未来とHydronの関係を適切に開示しなかった、米国で開発された知的財産を海外のライバルへ流したか、などの件でFBI、SECなど当局の捜査を受けている。明らかに共同創業者による内乱だが、ひょっとすると図森未来は、形ばかりの虚構だったのではないか、と思えてくる。また業界全体が信頼に値するのかどうか。たしかに2022年は、記憶に残る年となりそうだ。
 
子路十三の五
 
『子曰、誦詩三百、授之以政不達、使於四方不能専対、雖多亦奚以為。』
 
孔子曰く、「詩経を300篇暗誦しても、政務を任せて何も達成せず、四方の国へ使いにいっても役に立たなければ、300篇覚えても意味はない。」
 
(現代中国的解釈)
 
ごたくを並べるインテリは、いつの世にも無用の長物に過ぎない思想的傾向に関わらず、ソリューション能力に長けたリーダーの出現が望ましい。その点、中国は人材の宝庫といえる。子供のころから、Why ?Because の連続で鍛えられ、表現力、交渉力に富み、上昇志向も非常に強く、儲けることに対するためらいはない。
 
(サブストーリー)
 
そうした土壌が、中国の直播電商(ライブコマース)の急成長を支えている。先鞭を付けたのはアリババの「淘宝直播」だった。2016年にライブ放送を開始した。同年は、新零售(ニューリテール)の「盒馬生鮮」もスタートさせていて、大きな転機となった年である。ライブコマースの発展ぶりはすさまじい。売上推移は以下の通り。
 
2017年 190億元
2018年 1330億元
2019年 4338億元
2020年 9610億元
2021年 1兆2012億元
2022年 1兆4354億元(予想)
2023年 1兆6594億元(予想)
 
これらの主体は、淘宝直播の他に、抖音(課外版・TikTok)、快手の2大ショートビデオアプリである。
 
抖音は、DAU5~6億人を誇る。そこからのデータを、“興趣(趣味)電商”へ引き込んでいる。ユーザーが興味を持っている分野のライブを紹介するのだ。アリババには、検索や購入履歴、決済、金融のデータはあっても、ユーザーがどういうコンテンツを投稿したか、視聴したか、まではわからない。その結果、昨年2021年の双11では。総放送時間2546万時間、延べ視聴回数は359億回、1千万元以上売上げた商品数577などの成果を挙げた。2今年の双11は、加盟業者は86%増、総放送時間3821万時間、100万元を売上げた番組数は7667に達した。
 
今年の双11では、日本ブランドの開発など、越境Eコマースにも力を入れた。TikTokを利用しているインフルエンサーと、日本企業のマッチングに乗り出している。抖音の興趣電商がネット通販界を革新するかもしれない。

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