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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第97回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
顔淵十二の二十四~子路十三の一
 
顔淵十二の二十四
 
『曽子曰、君子以文会友、以友輔仁。』
 
曽子曰く、「君子は学問をもって友人を集め、その友人をもって人格を磨く」
 
(現代中国的解釈)
 
中国の現代IT企業では、共同創業という形でスタートしたケースが多い。2010年以降の創業者になると、単なる同郷や同級生ではなく、海外の留学先が同じなど、レベルが上がっている。ネット通販界に新風を吹き込んだ、共同購入モデルの「拼多多」はその典型だ。
 
2015年設立、2018年、米国ナスダックへスピード上場、2021年のGMV(成約総額)は2兆4410億元を数える。その象徴は、創業者・黄崢だったが2021年3月、董事長を共同創業者の陳磊に譲った。2人の絆は固い。
 
(サブストーリー)
 
黄崢は、浙江大学計算機科を卒業、ウィスコンシン大学マディソン校で修士号を取得した。
陳磊は、清華大学計算機科を卒業、ウィスコンシン大学マディソン校で博士号を取得した。
 
そして2004年、2人は当時まだ新興企業だった米国googleに入社、黄崢は2006年、google中国立上げのため帰国する。その後陳磊は、米国ヤフー、IBMで働く。2007年、黄崢はgoogle中国を退社、「欧酷網」というB2Cサイトを立ち上げた。陳磊は、帰国して欧酷網に参加、開発エンジニアとなる。欧酷網は、サプライヤーにとって公平で便利な通販プラットフォームを目指し、業績はまずまずだったが、これをgoogle中国時代の仲間に売却する。
 
黄崢は2009年、「楽其」というネット通販の運営代理会社を創設。すぐにアリババ「淘宝網」最大級のサプライヤーに成長した。一方の陳磊は2010年、新游地公司というゲーム会社でCTO(首席技術官)となった。同社は2012年、社名を変更、後に拼多多の運営会社になる。さらに黄崢は2013年、ゲーム会社「導梦」を創業。2015年2月、導梦から共同購入通販「拼好貨」を独立させ、陳磊を技術責任者に向かい入れた。そして2016年9月、拼好貨と拼多多を合併させ、現在の拼多多となる。
 
このように2人の関係は、ウィスコンシン大学マディソン校以来、常に絡み合っている。拼多多とは、互いに切磋琢磨しながら獲得したノウハウの集大成だった、とも言えそうだ。友人をもって人格を磨いたのだろう。
 
子路十三の一
 
『子路問政。子曰、先の労之。請益、曰、無倦。』
 
子路が政治について問うた。孔子曰く、「自身が先に立って働き、人民励ますことだ。」さらに問うと、「飽きないことだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
IT巨頭の株価は暴落してしまった。外国人投資家が逃げ足を早めたようだ。改革開放の成果を、否定するかのような国有企業重視政策の影響が大きく、企業の責任だけに帰すことはできない。
 
中国人の事業欲はすさまじく、ビジネスに倦きるということはない。次から次へと新事業へ手を出してきた。しかし、政策の影響は別としても、IT巨頭のビジネスが、手詰まりになってきたのも事実だ。
 
(サブストーリー)
 
そのため最近では、新規事業より、業務提携のニュースが多い。蘇寧易購と美団のケースもその一つである。
 
蘇寧は、2009年ラオックスを買収したことで知られる。。当時の蘇寧は、家電量販店のトップ、日本ならヤマダ電機のような存在だった。ところが2012年から、時代の変化に乗れず業績は急激に悪化した。そしてネット通販「蘇寧易購」を立上げ、注力し始めた。しかし業績は改善せず、2015年、アリババから283億元の出資を受け入れる。さらにアリババのB2Cサイト天猫に参加、蘇寧のネット通販は、蘇寧易購と天猫旗艦店の2本立てとなる。この効果は大きく、2017年末には、家電量販店1位、ネット通販売上でも、アリババ、京東に次ぎ3位となり、OMO(Online Merged Offline)のユニークな企業に生まれ変わったと評された。アリババは、命の恩人だった。
 
そして2018~2019年、復活した蘇寧は、暴れまわった。コンビニ「蘇寧小店」4000店、「蘇寧零售雲店」1900店、その他、「蘇寧易購雲店」、「蘇寧極物」、「蘇鮮生」、「蘇寧紅孩」、「蘇寧影城」、「蘇寧体育」、「蘇寧汽車超市」などグループで8000店もの実体店を出店した。2019年は15000店を目標に掲げた。しかし、理念が先行し、商品の裏付けなきこの大風呂敷は、当然のごとく頓挫した。蘇寧は再び危機に見舞われる。
 
直近の2022年1~9月決算では、売上555億3800万元、前年比51.9%も減っている。利益は45億4500万元の欠損、前年同期より75億6800万元の大幅減である。そんな蘇寧が10月末、フードデリバリー、シェアサイクル等を運営する生活総合サービス、「美団」のプラットフォームに加わった。蘇寧の実体店舗が、美団アプリに登録され、注文すれば直ちに配達される。蘇寧も地域のデジタルプラットフォームを目指し、さまざまな業態の実体店舗を展開した。それら実体店舗群は、AI時代のデジタル端末として必要不可欠、という認識だったのだが、今となってはこれが裏目に出た。実体店舗より、物流ソフトウエアと実働部隊こそ、不可欠のデジタル端末だったのである。
 
 

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