見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第178.回(最終回)

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。 
 
堯曰二十の三
 
『孔子曰、不知命、無以為君子也。不知礼、無以立也、不知言、無以知人也。』
 
孔子曰く、「天命を知らずに、君子になることはできない。礼を知らずに、独り立ちすることはできない。言葉を知らずに、人を知ることはできない。」
 
(現代中国的解釈)
 
何事もスローな印象の強い「小紅書」が大規模言語モデルの導入を加速させていると、ネットメディア大手テンセント・ニュースが伝えた。次々に機能を追加してきた、ユニークなアプリ、小紅書が、ついに人を知り、天命を見出したのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
小紅書は、海外商品の買い物経験、情報を投稿シェアする活動から始まった。やがて情報は、ホテルから観光全般、スポーツ、不動産、などに拡がる。そしてこれらの情報データを基に2014年、小紅書福利社、というアプリをリリース。豊富な情報から、推奨商品と推奨ルートを提示、独自の越境Eコマースを構築した。
 
成功のポイントは、越境Eコマースを超越し、投稿シェアアプリとしての独自の、そして類まれなポジションを獲得したことだ。「小紅書商業動態」という資料によれば、現在の月間アクティブユーザー数3億、男女比率3:7、95后比率50%、00后比率35%、一線級,二線級の大都市比率50%、コミュニティ参加者8000万、ユーザー生成コンテンツの閲覧比率90%など、大都市に住むの若い女性のパートナーとなった。インフルエンサーにとって、最良の活躍舞台である。日本の観光地の投稿情報も実に豊富だ。ほとんどすべての名所が紹介され、評価され、丸裸にされている。女性の投稿が多く、情報の信頼性が高いため中国人女性旅行客の必携ガイドブックと化した。
 
このようにさまざまな特徴を持つユニークな複合アプリだが、昨年、設立10年目にしてついに黒字化を達成した。一区切りついた格好だ。次のステップとして、大規模言語モデルの自社開発へと向かう。
 
小紅書は2023年3月、広告事業のNLP(神経言語プログラミング)テクニカルチームメンバーを中心に、独立した大規模言語モデルチームをスタートさせた。その1カ月後には、AI描画にフォーカスしたアプリ「Trik」をリリースしたが、著作権紛争に対処できず、あっさり姿を消した。
 
その後、本体アプリで、機能グラフィティやテキストから写真へ素早く転換する"この瞬間"機能をスタート。素早い描画作成を可能とした。コンテンツの増加を図り、クリエーターを支援するため、AIの機能に依存する方法だ。
 
その後2023年9月、大規模言語モデルに無尽蔵に資金を投じるのではなく、"アプリファースト"で行くと表明。小紅書はさまざまなモードでコンテンツを配信する複合アプリため、これらのモードにより、クリエイティブな機能が制約されていた。これらの改善を図ることにしたのだ。
 
しかし、このアプリファーストは、小紅書は、コンテンツ生態にダメージを与えることを恐れ、AI製品の販売に慎重になっている、と批判されることになった。
 
それを受けて2023年9月からは、AIの搭載にアクセルを踏む。大規模モデルの開発スタートアップ、MiniMaxのモデルに基づく、アプリ内AIチャット機能Davinc(ダヴィンチ)の内部テストを開始した。Davincはパーソナライズされたコンテンツや友人を推奨できるため、より豊かなユーザー体験を楽しめる。そして自らのアプリが持つコンテンツストックを深く探求し、ソーシャルネットワークとの隠れた関係性を増幅させることにした。
 
今年の春節には、その路線を推し進め、「AIペットフレンズ」というゲームアプリをリリースした。AIソーシャルネットワークの練習の1つである。また「検索ダイレクト」を発表、これはコミュニティエコシステムのアップグレードである。小紅書には毎日3億件の検索があり、毎月1億2000万人が商品の購入意向を示している。これらを直接購入に結び付けるため、、ユーザーと企業が私信を交換できるなど、企業、ユーザーの双方をサポートする機能を強化した。
 
さらにAIスタートアップへの投資も始めた。「月之暗面」というベンチャーへの融資団に、アリババ、美団、セコイアキャピタルなどとともに名を連ね、話題となった。
 
小紅書AI化の進展は、ゆっくりしていたが、確かにここへ来て加速し始めた。技術アドバンテージはなく、代替品の多いAI化とはいえ、大都市の若い女性に強いという、誰もがうらやむ独自アプリの地位はゆらぎそうにない。人を知り、天命を知った結果だろうか。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?