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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第168回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の十~十一
 
子張十九の十
 
『子夏曰、君子信、而後労其民。未信、則以為厲已也。信、而後諫。未信、則以為謗已也。』
 
君子は信用されて後、民に労役を課す。信用されていないと、苦役を課すことになる。信用されて後にいさめる。信用されていないと、民は誹謗されていると思うものだ。
 
(現代中国的解釈)
 
ファーウェイは3月中旬、深セン市で取引先を集めたパートナー大会を開催した。注目は、自主OS、鴻蒙(Harmony OS)の近未来である。しかし、愛国主義はかえって中国人ユーザーに苦役を課すことになりはしないか。
 
(サブストーリー)
 
米国制裁を受け、ファーウェイはGMS(Google Mobile Service)を使えなくなり、自主OSに勝負をかけるしかなくなった。一方で制裁と孟晩舟副会長の長期拘束は、ネット界の国風ブームをあおり、ファーウェイを愛国の象徴ブランドに押し上げた。今や注目度マックスの企業となった。
 
ファーウェイは、今年を"原生鴻蒙元年"と位置付けている。原生とは、Androidとの互換性を切り、純正のOSとなったことを意味する。昨年12月の発表では、鴻蒙を装備したデバイスは7億台、そのうちファーウェイ製品は3億台だった。2024年には、8~10億台となり。国内ではiOSをしのぐかも知れないという。また昨年末時点で400社以上のパートナー企業が、鴻蒙OS上におけるアプリケーション開発に着手している。ゲーム、SNS、トラベルナビ、ホテル、商業ビジネスなど18分野にわたる。具体名には、支付宝、ネットイース、美団、bili bili、京東、中国移動、銀聯、交通銀行、建設銀行、マクドナルド、チャイナトリップ、中国国際航空など有力企業が目白押しだ。
 
原生鴻蒙は、スマホ、タブレット、ウェアラブル端末、IoTデバイス、スマートカーなど、異なった複数の端末間においてもスムーズに運用される。ファーウェイは5Gスマホ(mate60シリーズ)を復活させ、スマートカーでは、賽力斯集団との共同開発車、AITO問界シリーズを発売、ヒットさせている。自社製品のラインナップは充実の一途だ。
 
しかし鴻蒙のマーケットシェアは2023年上半期の段階で、中国国内8%、世界では、Android76%、iOS22%に対し、2%に過ぎない。生き残りのデッドラインはファーウェイ自身が16%と見積もっている。
 
国内では5Gスマートフォンの復活により、確かにAppleのシェアを浸食している。各スマートデバイス分野において、有力な選択肢になりつつある。国風ブームに支えられ、国内シェア16%は可能かも知れない。しかし、世界シェア16%は、人間の想像力をも超えた数字だろう。鴻蒙は中国人ネットユーザーの悩みの種、制約にもなりかねない。
 
子張十九の十一
 
『子夏曰、大徳不踰閑。小徳出入、可也。』
 
子夏曰、大きな徳は、決まりを逸脱しない。小さな徳は、決まりから多少ずれてもかまわない。
 
(現代中国的解釈)
 
自動運転の実現に関しては、有徳の業界人は存在しない。テスラのイーロン・マスク、百度の李彦宏など、20XX年までに実現する、とぶち上げた有力者たちは、みな嘘つきのオオカミ少年と化した。多少のずれどころではない現状に、今最も勢いに乗るBYD創業者の王伝福は、「自動運転はナンセンス。」と一刀両断にした。
 
(サブストーリー)
 
フォードとフォルクスワーゲン出資のALGO AIが閉鎖され、インテル系のMobileyeは株価大暴落、自動運転トラックの図森未来は内紛、テスラの自動運転部門は幹部がしばしば交代する。比較的落ち着いているのはグーグル系Waymoくらいか。
 
中国でも2022年、自動運転関連の融資が80%減。翌2023年、アリババが自動運転業務を大幅削減、ロボタクシーの小馬智行、文遠知行など有力なベンチャーも構造調整を迫られた。
 
百度自動運転部門総経理、陳卓氏は、外界の自動運転に対する熱狂や警戒など、上げ潮も、引き潮も経験してきた。その彼は、最近、再び春が訪れ、商用化前夜にある、と確信じている。2月末発表の財務報告によれば、百度は2024年1月2日時点で、「蘿蔔快跑」と呼ぶ、ロボタクシー事業を11都市で展開している。2023年第4四半期、ロボタクシーの賃走回数は83万9000回におよんだ。
 
11都市の1つが、コロナ震源地として名を馳せた武漢市である。同市は2022年8月、全国に先駆けて完全自動運転商用試験政策を打ち出した。そして2023年末、武漢市がロボタクシーに開放した道路は、3374キロ、面積は3000平方キロ、アクセス人口770万、全国一どころか、世界最大の自動運転サービス区となった。さらに2024年2月27日、自動運転車が初めて長江大橋を渡る、という象徴的な出来事があった。百度の蘿蔔快跑チームは興奮につつまれた。
 
今後百度は、中国最大のロボタクシーサービスの事業者として、テクノロジーの一般化を推進しなければならない。Waymoもサンフランシスコで行っているが、武漢市は複雑な地形で川や湖が交差し、平原のシスコと違い立体的だ。1400万人の人口を持ち、交通量は膨大だ。そのデータ量も膨大かつ貴重だ。武漢市と百度は、オオカミ少年状態から、一足先に抜け出すかもしれない。
 
 

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