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#009~世界の伝統音楽を聴く~ガリシア編

こんにちは。ノイジークローク藤岡です。

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します!

第9回目の今回は、スペイン北西部・ガリシア地方の音楽について、紹介したいと思います。例によってApple Musicを埋め込みますので、気になったらぜひ聴いてみてくださいね。

1.ガリシアの音楽

便宜上、"スペイン北西部"と記していますが、これは飽くまで現在の国家の枠組みの中において、ひとつの自治州であるからで、文化的にはこのガリシア州のみならず、スペインには実に多様、そして独自の文化を持つ地域があります。

例えばスペイン東部のカタルーニャ州では日常的にカタルーニャ語が使われ、道路標識や看板まで、基本的にはカタルーニャ語で書かれています。バルセロナのような観光地ではこの限りではありませんが、少し離れた都市、例えばTarragona(タラゴナ)やFigueres(フィゲレス)といった場所では、お店などでも店員さんの第一声はカタルーニャ語です。音楽もカタルーニャ伝統曲があり、我々日本人が持っている「スペインといえばフラメンコ」という常識は当てはまりません。使われる楽器も言語も違えば、もうそれは異なる文化、と言ってもいいのではないでしょうか。

今回取り上げるガリシア州もそうです。ガリシア州では、カタルーニャ州ほどではなく、道路標識や看板はスペイン語が多いですが、こちらもA Coruña(ア・コルーニャ)やSantiago de Compostela(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)などの観光地以外では、比較的ガリシア語が日常的に使われています。もっとも、カタルーニャ語を使う「年齢層」と比較すると、ガリシア語のそれは高い傾向にあります。(上記はいずれも私がこれらの地域を訪れた20年前のことですので、現在は変わっているかもしれません)

そしてガリシアの音楽もまた、独自のスタイルを持っています。それは「#002 世界の伝統音楽を聴く~ブルターニュ編 」で言及した、「意識的な保存運動」による功績が大きいものだと言えます。

ガリシアの音楽は、そのルーツが古代ケルト人の歴史にあるのではないかと長い間考えられてきました。それが事実であるかどうかは別にして、近年の商業的なこれらの音楽の多くは、「民族的なケルトのルーツ」を持つ現代のアイルランド、スコットランドやウェールズの影響を強く受けていると考えられます。そしてガリシアは最近では国際的なケルト音楽シーンの強力な"プレイヤー"であり、その結果、100数年以前のガリシアの伝統の要素が現代のケルト音楽のレパートリーやスタイルに溶け込んできています。

しかし、私は「ケルト」という呼称は単なる「商業タグ」であると思っていて、ガリシアの音楽を「ケルト音楽」として括ることにはあまり賛成できませんが、同時にこの「ケルト」というブランドのおかげで、ガリシア音楽はアイリッシュやスコティッシュに次いで、国境を越えて多くの聴衆を持っている、とも言えると思います。

さて、あまり歴史の話をし始めると長くなってしまいますので掻い摘んで書きますが、他の地域の伝統音楽と同じく、この時代の音楽の起源についてはほとんど知られていません。最古の資料として現存するものは13世紀の詩人のマルティン・コダックス(Martín Codax)の編纂した「カリクスティヌス写本」やアルフォンソ10世の「聖母マリア頌歌集」くらいのもので、バグパイプやフルートなど、今日の音楽の特徴的な要素が当時一般的に使われていたことが示されています。

1970年代に入ってから、ガリシアでも#002で言及したルーツリバイバルという伝統音楽の復興運動がなされ、こんにちでは様々なスタイルの伝統音楽が形成されてきています。今回はそれらについて紹介していきます。

2.1 ガリシアの楽器

ガリシアの音楽で最も特徴的な楽器はGaita galega(ガイタ・ガレガ)です。このガイタというのはバグパイプの一種で、我々がイメージするスコットランドの「グレートハイランドパイプス」(以下GHB)とはかなり違います。

GHBはドローン管が3本あるのに対し、ガイタは、最近では5本まで増やすこともありますが、伝統的には1本です。運指もGHBはハーフクローズドフィンガリングですが、ガイタはオープンフィンガリングです。また、GHBは
基本的にはミクソリディアンスケールのダイアトニックな音しか出せませんが、ガイタは運指によってほぼ全ての音を演奏することができ、レンジもGHBの1オクターブに対し、1オクターブ半くらいまで出せます。

そして、GHBは伝統的にA管(聴覚上はB♭)のみですが、ガイタはB♭、C、Dとあり、最近ではFやGなど、幅広い調性を持つ楽器になってきています。

詳しい楽器の構造やルーツなどに行ってしまうとこれまた長くなってしまうので割愛しますが、ガイタの他にはRequinta(レキンタ)という木製の横笛、Pito galego(ピト・ガレゴ)という縦笛、Zanfona(サンフォナ)という名前で
ハーディガーディ、たくさんの弦楽器や打楽器などがあります。


2.2 音楽スタイル


・Alalá(アララ)

Alaláの伝統的なスタイルは無伴奏の独唱(アカペラ)で、Ai-la-le-lo(アイラレロ)と言われる「リルティング」やガリシアを賛美する内容の詞が多く、起源は諸説ありますが、グレゴリオ聖歌をルーツとする考え方やフェニキアの舟歌であるアレルイアとの共通点を主張する説もあります。以下は、Apple musicで見つけることのできた数少ない「伝統的なスタイル」のAlaláです(#11)。


・Pandeirada(パンデイラダ)

PandeiradaはガリシアのPandeireta(パンデイレタ)というタンバリンを使った楽曲のスタイルです。数人、ときには数十人でいっせいに同じリズムを刻み、そこに歌やガイタを乗せる、というものです。(#6)

・ダンスの為の器楽曲

ガリシアには非常に多くのダンスがあり、その伴奏曲も多様です。
Muiñeira(ムイニェイラ)、Xota(ショタ)、Pasacorredoiras(パサコレドイラス)、Pasodobre(パソドブレ)、Alborada(アルボラーダ)といったものがあり、それぞれアイリッシュのようにインストゥルメンタルスタイルで演奏されることが多いです。
以下はOscar Ibanezというガイタ奏者のアルバムで、ガイタ・タンボル(いわゆるスネアドラム)・ボンボ(バスドラム)いう小編成のもので、一通り上記のダンス曲を網羅しています。

また、上記の編成の人数を大きく増やすと、Banda de Gaitas(バンダ・デ・ガイタス)と言って「パイプバンド」を形成できます。これはマーチングバンドのような意味合いがあり、大勢が演奏しながら町中を練り歩いたり、重要な行事などで冒頭に演奏をしたりすることがあります。ガリシアにはこのようなパイプバンドが無数にあり、スコットランドのパイプバンドが年に一度行う「ハイランド・ゲームズ」のようなコンペティション大会を行っています。

以下は、ガリシア州南西部のオウレンセという都市のパイプバンド"Real banda de gaitas"のものです。このアルバムにも上記ダンス曲が多数収録されていますのでぜひ聴いてみてください。

以上、比較的「伝統スタイルもの」を中心に紹介してきましたが、これ以降はモダンなアレンジが加えられているものに移りたいと思います。ここからはバンドの紹介となります。

・Fuxan Os Ventos(フシャン・オス・ヴェントス)

ガリシア音楽のモダンアレンジを語る上では欠かせないバンドのひとつです。1975年にデビューして以来、今日まで活動している老舗バンドです。

おすすめは#1、#2、#8あたりです。

・Milladoiro(ミジャドイロ)

こちらのバンドも欠かせません。上記のFuxan os ventosと比較すると、こちらはインストゥルメンタル寄りです。1978年より活動しています。

おすすめは#1、#5、#11あたりです。

・Berrogüetto(ベログエト)

こちらはよりコンテンポラリーなアレンジやガリシア音楽スタイルでのオリジナル楽曲が多く、アレンジ能力の高さや作曲能力など、非常に質の高い楽曲が楽しめます。

おすすめは#2、#6、#8あたりです。

・Luar na lubre(ルアル・ナ・ルブレ)

このバンドは恐らく世界的に最も知られたガリシア音楽のバンドではないでしょうか。私が最も好きなガリシア音楽バンドで、ガリシア音楽そのものを知るきっかけになったバンドです。バンドリーダーのBieito Romero氏とは個人的に繋がりがあり、本当にたくさんのことを惜しみなく教えて下さっている、私の人生の師の一人です。

おすすめは#2、#5、#9あたりです。

・Carlos Nuñez(カルロス・ヌニェス)

彼の名前無くして現代のガイタは語れません。元々リコーダー奏者ですが、超絶技巧ガイタ奏者としてその名を世界的に響かせています。バグパイプってこんな速く演奏できるの!?と思うこと請け合いです。

おすすめは#1、#2、#7あたりです。

・Camaxe(カマシェ)

最後に、ガリシア音楽が世界的に広がっている、という証拠の一つとしてこのバンドを紹介します。ベルギーのバンドですが(中心人物のMiguel Alloだけはガリシア人ですが)、上記のモダンアーティストたちの影響を色濃く受けており、洗練された楽曲を楽しめます。

おすすめは#2、#10、#7あたりです。


最後に手前味噌で恐縮ですが、私がこれらの音楽を聴き、受けてきた影響を形にした楽曲があります。この曲自体は10年以上前の楽曲ですが、もし気が向けば聴いてみてください。

フィドルを敬愛する壷井彰久氏に弾いて頂き、作曲・編曲、ギター、ブズーキ、ガイタを私が担当しています。

3.最後に

いかがでしたでしょうか?
ガリシア音楽はゲーム音楽が好きな方にとってはとても刺さる音楽だと思います。少しでもガリシア音楽に興味を持つ方が増えてくれると嬉しいです。


それではまた。

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