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#002 世界の伝統音楽を聴く~ブルターニュ編

こんにちは。ノイジークローク藤岡です。

第二回目の今回は、前回の記事で触れたフランス西部・ブルターニュ地方の音楽について、紹介したいと思います。その場で試聴して頂けるようにApple Musicを埋め込みますので、気になりましたらぜひ聴いてみてください。アフィリエイトはやってませんよ!

今後より、定期的に一つの地域を取り上げて様々な音楽を紹介していきたいと思います。とりわけ、私の畑である「民族音楽」についてのものが多く、なかなか初見ではとっつきにくいかもしれませんが、みなさんが新しい音楽に出会えるひとつの場所として、ご提供できればという思いです。

その前に、少しだけ寄り道をして、この「民族音楽」というものに触れる時に、認識しておくともっと深くその音楽を理解できる事柄について、私の独自研究ではありますが、書きたいと思います。

1.音楽の歴史を辿るということ

ブルターニュの伝統音楽に限らず、こうした土着的な音楽の歴史を語る際に必ずぶち当たってしまう壁があります。それは、どこまでそのルーツを辿るか、どこにそのルーツを見出すか、ということです。例えば、ブルターニュの音楽は、広義的・商業的には「ケルト音楽」に含まれます。これは、ブルターニュという土地が歴史上、「ケルト人」が定住していた地域とされることに由来します。当然、歴史学・考古学・言語学の分野において学術的に証明されている事実ではありますが、果たして「ケルト人」という「民族」と、今日まで引き継がれてきている「音楽」とを単純に繋げてよいかどうかは、一概には言えません。また、こうした"民俗音楽"は、クラシック音楽とは違い、楽譜などの形で残すということをほとんどしてきておらず、常に人から人へ口碑的に伝えられ、伝播されてきたものであるため、人類の長い音楽の歴史の中においては忘れ去られたものも数多くあるでしょう。

そのため、特定の民族とその文化の栄枯盛衰は、発掘・保存されてきた物的証拠とそれぞれの時代の歴史家が研究・編纂して導き出された論証によって知ることはできますが、100%間違いないと言い切ることはできず、とりわけ「音」に関することの証明はほぼ不可能です。例えば、「死語」であるシュメール語・アッカド語などの古代語の正しい発音の仕方は、誰にもわかりません。もちろん、比較言語学や音韻論などで、おおよそこうだったであろう、という予想はできますが、飽くまで予想は予想です。今でこそ、IPAという世界共通の発音記号を用いることで、各言語の正しい発音を残すという取り組みが行われていますが、その歴史は精々、100年ちょっとです。その地域に住んでいたであろう、数多くの人間が日常的に使用していた、ある程度体系化された言語というものでさえ、1世紀もあれば消滅し得ます。それが音楽という、言語とは異なった複雑な理論や技法、用法を擁するものとなれば、それはもはや難しいなどとは別次元の問題だとは思いませんか。

もっとも、現代では科学の進歩によって録音・録画・製本・印刷・通信などの技術が発達し、数十年前よりは容易に、質の高い記録を、誰にでも残すことができるようになったので、方法を間違わなければ、未来の人々がこの時代を振り返るのはさほど難しいことではないかもしれません。

ですので、今後ここで扱う「○○の音楽」というのは飽くまで現在の国や地域圏における枠組みで捉えた伝統的な音楽を指していきたいと思います。

また、これから紹介していく音楽が現在の体系になっていったのは、そのほとんどが1960年代以降です。約60年ほどの歴史で、その地域の伝統と言えるかどうかは、先述した通りそもそも楽譜などの形で残すことをしてこなかったこと、また、録音技術が業務用や一般に拡充された時期を考えれば、正直、歴史時間としてはかなり短いかもしれません。しかし、自論ですが、伝統には2つの形があり、それぞれの地域の生活様式に密接に関係しているが故に形成されるものと、「意識的な保存運動」等によって形成されるものがあると思っています。音楽は、確かに生活様式に関係しているとは思いますが、衣・食・住ほどの明示性は持たないかもしれません。よって、私は後者に近いと思っており、先述の「意識的な保存運動」は、もちろん難しさはありますが、必ずしも長い歴史時間を要しないケースも多くあると考えます。

例えば"Roots revival"という、若い演奏家たちが自分たちの土地に伝わる音楽を新しい形で復興させるという運動が1900年代以降、特に1960~70年代に世界のあちこちで興りましたが、これはまさに「意識的な保存運動」他なりません。日本では1980年代後半に復興運動が行われた琉球音楽がそれに当たりますが、ご想像の通りその舞台裏にはそれぞれの地域における文化的・政治的な事情が大きく関わっており、ここでは個別に言及することは控えますが、しかし、恐らくほとんどの日本人が琉球音階と蛇皮線を用いた音楽を聴くと疑いなく沖縄を連想することができるのは、ひとつの伝統が形成されていく身近な成功例として、感じることができるのではないでしょうか。

2.ブルターニュの音楽

さて、ブルターニュの音楽も例に違わず、現在の形に発展していったのは1970年頃からです。いくつか種類がありますので、掻い摘んで紹介致します。

2.1伝統歌曲

・Kan ha diskan (カン・ハ・ディスカン) … 直訳するとコールアンドレスポンス、つまり「掛け合い」を意味します。2人1組で歌い、1人目が歌い、2人目が追いかけで歌う、というものです。主にブルターニュ半島の中部に見られる形式です。以下に紹介するのはLoeiz Ropars(ルイズ・ロパーズ)という、ブルターニュにおける伝統音楽の復興の第一人者による音源です。

・Kantikoù(カンティク) … ハープやオルガン、ボンバルドというブルターニュの楽器などの伴奏に歌う聖歌です。主にブルターニュ半島の西部・南西部に伝わる形式です。Anne Auffret(アンヌ・オフレ)は、70年代からブルターニュで活躍するハープ奏者・歌手です。

その他に、Gwerzioù(グヴェルズィウ=哀歌)や Sonioù(ソニウ=バラード)、Chants des marins(シャン・デ・マラン=船乗りの歌)などがあります。それらはApple music上で見つからなかったので割愛します。

2.2伝統器楽曲

ブルターニュでは、フィドルやアコーディオン、クラリネットなど、この地域以外でも使われる楽器を使いますが、その中でも特にブルターニュらしく、本来の伝統的な形でのものを中心に取り上げます。

・Harpe(ハープ) … ケルト地域圏らしく、ブルターニュでは広くハープが親しまれています。いわゆる吟遊スタイルで、自身でハープで伴奏をしながら歌うというスタイルはとても古くからあります。ブルターニュで1970年代以降で特に有名な奏者はAlan Stivell(アラン・スティヴェル)です。

・Bombarde(ボンバルド)/Binioù kozh(ビニウ・コズ) ... ボンバルドとはショームに近いダブルリードの木管楽器で、ビニウ・コズはバグパイプの一種です。バグパイプ自体、かなり地域性を出す楽器の種類ではありますが、特にこのビニウはブルターニュ以外では見られない特徴的なバグパイプです。ブルターニュではボンバルド1名、ビニウ1名の計2名でのデュオ形式で演奏することが多く、器楽曲と紹介してはいますが、伝統舞踊の伴奏としての楽曲がほとんどです。Youenn Le Bihan(ユエン・ル・ビアン)とPatrick Molard(パトリック・モラール)は今も第一線で活動するデュオです。

2.3クロスオーバー

1970年代以降、録音技術だけでなく楽器そのものの発展や、他ジャンルとのクロスオーバーをすることにより新しい伝統の形が作られていきました。その多くは上記で紹介したような土着的なアンサンブルに、フィドルやアコーディオン、ギター、ブズーキといった輸入された楽器や、エレキベースやドラム、時にはシンセサイザーなども用いられました。これは、Fest-noz(フェスト・ノズ、直訳すると夜の祭り)という、伝統ダンスイベントがブルターニュ各地で人気を博し、その伴奏音楽として老若男女が楽しめるよう、現代音楽の要素を取り入れ始めたことに始まりました。

こちらはまだ比較的伝統的なアンサンブルによる音源です。Plinn、Nanter Dro、Laridée、Gavotteといった曲名は、そのままダンスの種類の名前です。ダンスと言っても、2人一組で行うようなダンスではなく、数十人、規模によっては数百人円形に連なって踊るものが多いです。

また、上記の器楽曲①では紹介しませんでしたが、ブルターニュにはビニウ・コズ以外にもVeuze(ブーズ)というバグパイプがあり、主に南西部のVendée(バンデ)などで演奏されます。以下は、Pevar Den(ペヴァル・デン)という、このVeuzeを全面に出している数少ないグループの音源です。この辺りから、ギターやブズーキなどが使用され、私たちがよく知る、いわゆる「西洋音楽的」な積極的なコードアレンジなどを行い、整理されてきました。

次に紹介するのはSkeduz(スケドゥース)というバンドで、この辺りになると上記のPevar Denよりももっと"攻めた"アレンジをしています。エレキベースなども加わり、よりインストゥルメンタル楽曲として形成されています。
全く関係ありませんが、このSkeduzでシターンという弦楽器を弾いているRonan Pellen(ロナン・ペレン)氏は個人的にお付き合いがあります^^

続いてはAr Re Yaouankというバンドの紹介です。彼らはかなり現代的なアレンジを行っており、もはやブルターニュ音楽をモチーフとした独自のジャンルとして消化されています。コードワークも時々ジャズなどを思わせるようなアプローチも飛び出してきます。

最後にぐっと現代に寄って、ブルターニュの音楽とポップスを融合させた形式としてNolwenn Leroy(ノルウェン・ルロワ)を紹介します。私がフランスに留学していた頃、テレビでStar Academyという、今で言うテラスハウスやBachelorのような番組が流行っており、その番組で2位に終わったのがこのノルウェンでした。正直、当時は完全にポップスを歌っていたので興味はなく、この音源もたまたま聴いたのですが、その時は驚きました。ポップス的なアレンジがされているということもあって聴きやすく、伝統的すぎるアンサンブルはいきなり難しいという方も、手始めにこちらから始められてみてはどうでしょうか?ブルターニュ音楽のメロディと雰囲気は、しっかり感じ取れると思います。

3.最後に

いかがでしたでしょうか?音楽紹介記事の一発目としてはちょっとディープ過ぎたかもしれませんが、こうした音楽の情報はまだまだ日本では数少なく、こうした音楽が大好きな自分としては一人でも多くの人に知ってほしいと思い、詰め込みました。次回からは「音楽の歴史を辿るということ」の部分はなくなりますので、もう少し記事としてもスリムになると思います!

それではまた。

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ゲーム音楽制作会社ノイジークロークの作家です。広島出身。大学では歴史学・文化人類学・言語学などやってました。楽器・歴史・言語・野球。Japanese game music composer.