第5回 就職氷河期世代の「節約」について考える / Youtube用台本
「地域活性化雇用創造プロジェクト」とは
このチャンネルは、1978年生まれの就職氷河期世代の当事者である私が、目前に迫ってきた50代を見据えて「これから」を考える動画を投稿しています。
今日は厚生労働省の雇用問題対策の施策である「地域活性化雇用創造プロジェクト」の説明会に、一求職者として実際に参加してきましたので、その感想などをお話します。
私は国の役人でも専門家でもない一般人です。
この動画の視聴者も同様に一般の市民のかたを想定していますので、役人や専門家が書くような小難しい表現は避け、できるだけわかりやすく、市民目線で忌憚なくお話していくつもりですので、どうか最後までお付き合い下さいますと幸いです。
まず「地域活性化雇用創造プロジェクト」についてですが、厚生労働省のHPから引用します。
「地域雇用の課題に対して、国や都道府県の施策との連携を図りつつ、魅力ある雇用機会の確保や企業ニーズにあった人材育成、就職促進等の事業を一体的に実施することにより、地域における良質な雇用の実現を図る。」とあります。
自治体ごとに取り組みが異なるようで、私の住む自治体では、大手の派遣会社に事業を委託しています。
大手の派遣会社が自治体に予算を付けてもらって「雇用対策」事業なるものを行っているようです。
いやぁもう、この説明だけで、ろくでもない税金チューチュースキームの匂いしかしないわけで、以前の私ならば絶対に近づかないでしょう。
しかし、どんなに最悪で時間の無駄となっても、Youtubeのネタになるなら元は取れるかなと思い、説明会なるものに参加してきました。
私はいま非正規雇用の職に就いていますが、もし今より好条件の正規雇用のチャンスが得られるのでしたら、それはそれで嬉しいですし。
そんなモチベーションで説明会に参加して目撃したものは、想像の斜め下の光景でした。
なんかこう、想定してたのは、こういうヤバさじゃなかったんよ、と今は思っています。
最初から「営業圧」がすごかった
WEBで参加の申し込みをすると、10分もしない内に電話がかかってきました。
電話口の方は中年と思しき女性で、のっけからマシンガントークを浴びせられました。
決して逃さないぞ、という強烈な「営業圧」を感じます。
早口で7割くらいしか聞き取れない説明の後、スケジュールの調整に入ります。
「明日の午前中の枠が空いていますが、どうしますか?」
「明日、ですか? ちょっと予定がありまして。先ほどのWeb予約でも3日後の午前中希望と記載したはずですが」
「そうなんですか。でも明日はちょうど、ゲストの講師が登壇する予定でして」
「すいません、講師って何ですか? 説明会、ですよね? セミナーとかやられるんですか?」
「そういうわけではないのですが、明日の午前中が説明会で、午後からそのまま研修に参加する流れになりますので!」
「え、参加するかどうかなんて決めてないですけど」
「え、でも説明会の後は座学研修ですよ?」
「説明会の内容を聞いて、研修に参加するか決めたいのですが」
「ええ! …そうですか。でもそれだと…」
「研修への参加も必須だというなら、今回はちょっと考えさせてください」
「ああ! いえいえ! では説明会に参加ということで! 明日の午前中でよろしいですか?」
「ですから、明日は予定があると言いましたよね?」
もうすでにかったるくて仕方がなかったのですが、最初の希望通り3日後の午前の枠で予約を取りました。
怒号が聞こえてくる「座学研修室」の隣で説明会スタート
さて、説明会当日です。
会場は派遣会社の事務所の会議室でした。
40席ほど用意されている大きな部屋でした。
あまり新しいビルではありませんでしたが、内装はおしゃれで清潔感もある心地いい空間でした。
用意されていた席に座ると、ものすごい怒鳴り声が聞こえてきました。
声の主は若い女性でした。
「わたしの名前は〇〇です!」
そして今度は声が野太い男性。
「うーん、もうちょっと元気出していこう! さあ夢は!」
「わたしの夢は、社会の役に立つ人材に育つことです!」
「伝わってこないなぁ!」
「わたしの! 夢は! 社会の役に! 立つ! 人材に! 育つことです!!」
「あのさぁ、社会って何?」
「社会とは! 私を育ててくれた人たちが、笑顔で暮らしている場所のことです!」
「よぉし! 皆さん、拍手!!」
パチパチ…。
お、おぉ…。
マジか…。
どうやら、隣の部屋では座学研修を行っているようでした。
令和の時代に、まだこういうノリが存在していることに驚いていると…
「その涙がさぁ、とってもあたたかいだろ? 忘れちゃだめだよ!」
私も帰りたくて泣きそうになってきました。
氷河期世代のカリキュラムの半分は謎の「カウンセリング」
説明会には、私を含めて6人が参加していました。
40人ほど入る部屋に6人なので、かなり寂しいです。
5人は私と同じ就職氷河期世代の男女で、1人はまだ10代にも見えるような、つい先日まで学生だったのかな、という年頃の女性でした。
パワーポイントで作られた4ページ分の薄い資料だけが配布され、説明が始まります。
説明担当者は20代の女性で、声がとても大きく元気な人でした。
「地域活性化雇用創造プロジェクト」の具体的な内容はこのような感じでした。
まず15日間の座学研修を受けます。
9時から16時までで、午前と午後の2コマです。
若年求職者(34歳以下)と就職氷河期世代(35歳以上から55歳)でクラス分けがなされ、それぞれカリキュラムが異なります。
若年求職者は、マナー研修や面接練習などの実技中心。
就職氷河期世代は、「カウンセリング」が中心で、なんと15コマも割り当てられていました。
合計30コマの半分で、15日間毎日カウンセリングを受けるということらしいです。
いくらなんでも多すぎやろ、とここでもドン引きです。
先ほどの怒号を聞く限り、カウンセリングという名の洗脳でもされるのではないかと、恐怖しかありません。
「私が! 就職できないのは! 時代のせいではなく! 自己責任です!」
とか、泣きながら言わされるのでしょうか。
座学が終わると職場研修(ほぼ最低賃金)
15日間の座学研修が終わると、今度は1か月の職場研修が始まるようです。
この間は派遣会社と雇用契約を結び、給料も支払われるのですが、ほぼ最低賃金の時給です。
インターンのようなものかな、と想像していると、それを見透かされたかのように注釈が入ります。
「インターンとは違い、実際にやってもらう業務を本番同様の責任でこなしてもらいます。毎日が就職面接である、という緊張感を持ってくださいね!」
と、ニッコリされましたが、「ならもっと高い時給出せよ」とは言ってはいけないのだろうと黙っていました。
こちとら、若い頃から、やりがい搾取の足元見られる求人には慣れっこです。
この職場研修が終わり、求職者と採用企業が合意に至れば、その後は直接雇用で契約を結び、晴れて再就職成功、となります。
で、私はどうもこの「直接雇用」という表現に引っかかったのですね…。
「正社員になれる」とは誰も言ってない
質疑応答が始まりました。
私は真っ先に手を上げて質問します。
「保証されるものが「直接雇用」という表現なのは、必ずしも正社員で雇用されるとは限らないという意味ですか? 契約社員のような非正規雇用もありうるのですか?」
「はい! そうです! でも直接雇用なので安心感を持ってもらえるかと!」
「でも、HPでは、正社員を目指そうって書いてありましたよね?」
「はい、あくまで正社員が目標です。最初は契約社員で入社して、正社員を目指していく道もありますよ!」
「あぁ、正社員を目指そう、というのはそういう意味ですか」
「はい、私たちと目指しましょう!」
「でも、直接雇用されてしまうと、派遣会社との関係は切れちゃいますよね?」
「はい、なので個人的にLINEなどで繋がって相談を受けたりしてますよ!」
「え、LINE、ですか?」
「はい、私たちは私用のLINEでも繋がる人多いんです!」
頭を抱えたくなりましたが、なんとか堪えて質問を続けました。
「あの、では、このプロジェクトから何割くらいの人が正社員になることができたか、教えてもらえますか?」
「あー、それはわからないですねー」
「わからないって、それは非公開、ということですか?」
「あ、はい。そういうのは自治体にも報告してないので、データはありませんねー」
「では、どういう企業に就職できたのか、具体的な社名を教えてもらえますか?」
「それもお教えできませんねー」
「え、1社もですか? なかには非公開の企業もあるでしょうけど、そんな企業ばかりなんですか?」
「はい、そうです。企業名は公表してません!」
私の後ろにいる男性が、周囲に聞こえるような大きなため息をつきました。
私は一瞬戸惑いましたが、さらに食い下がりました。
「では、就職先の業種だけでも参考までに教えてもらえませんか? 正確なデータでなくとも、なんとなくの肌感だけでもかまいませんので」
「サービス、飲食、建設、小売り、製造、運送、ですかねぇ」
今度は、私の右側に座っていた中年女性がおもむろに席を立ちました。
「すいません、私がイメージしていたものとは大分違いますので、これで失礼いたします」
と、会議室を出て行ってしまいました。
それに続いて、先ほどため息をついた男性も無言で退出しました。
その2人を見送っても、ノリは一切ぶれない説明担当者が、今度は作文用紙を配布し始めました。
「これから、「10年後になっていたい私」というテーマで作文を書いてください! これはすでに座学研修の一環ですので、そのつもりでお願いしますねー!」
「え、もう研修が始まるのですか? 今日は説明会ですよね?」
「はい、説明会は終わりました。作文の後は、お昼休憩となりますので、もうひと頑張りお願いします!」
これはものすごいな、とYoutubeのネタのためにまだ居残りたかったのですが、私も午後から仕事が入っていたので、やむなくここで丁重にあいさつして退出することになりました。
結局、登録会のバリエーションのひとつになり下がっている
我が自治体における「地域活性化雇用創造プロジェクト」は、いわゆる「派遣会社の登録会」のバリエーションの一つになり下がっているのが問題です。
厚生労働省はWebサイトで「地域における良質な雇用の実現を図ります」としていますが、実情は「正社員を目指す」という言葉で釣って、説明会に参加した人には「正社員になれるとは言っていない」とだまし討ちをかましてくる。
これでは本当にただの紹介予定派遣でしかなく、結構この手の施策では重要であるはずの職場の定着支援も「私用のLINEではげますだけ」という恐ろしく杜撰というか、突っ込みどころが多すぎて開いた口が塞がりません。
派遣会社は公金を使って自社の営業チャネルを1つ増やせて美味しいだけで、求職者にとっては何もメリットが発生していません。
いいように自治体が利用され、食い物にされているだけとしか考えられません。
洗脳目的の研修もさらに悪質
さらにこの令和の時代で見られるとは思わなかった洗脳目的の研修も悪質だと感じます。
人前で大きな声で「私の夢は!」などと叫ばせて、巧妙にアメと鞭を使い分け徹底的に服従させていく。
どこぞの中小企業の研修ならいざ知らず、有名な大手派遣会社の一室で繰り広げられているのはもはやおぞましいホラー映画のようです。
就職が思うようにうまくいかない参加者の弱みにつけこんで、徹底的にマインドコントロールを施し、そんな彼らを採用する企業は「従順で使いやすい人材を獲得できた」と喜んでいる。
やはりホラー以外なにものでもありません。
委託元の自治体は実態を把握できていなかった
素朴な疑問として、本事業の委託元にあたる自治体は実態を把握できているのかがとても気になりましたので、問い合わせをしてみました。
以下、電話で自治体の担当者から聞けたお話です。
・研修内容や就業実績のデータ公開に関しては、厳密にガイドラインを定めている
・ガイドラインは年一回関係各所と協議し、適宜更新している
・今回派遣会社で展開されている座学研修のカリキュラムや情報公開においては、そのガイドラインと照らし合わせても大きく逸脱していて問題だと考える
・今すぐの改善は約束できないが、今回の情報提供を元に調査を実施し、然るべき対応を進める
ついでに、今回のことをYoutubeやSNSで発信しても良いか、と聞いてみたところ、表現の自由があるので個人の情報発信を差し止められるような立場ではないが、できれば自治体名と派遣会社名を明記しない形にしてほしいとの回答でした。
私も諸々のリスクを考えると、この辺が落としどころだと納得できましたので、今回このような動画をアップロードした次第です。
自治体の担当者の話を信じるのであれば、私が参加した説明会は、派遣会社が定められたガイドラインを遵守しない運用を勝手に行い、その実態を自治体は把握できていなかった、ということになります。
知り合いの地方紙の記者さんにも情報提供してみた
実は以前、何度か地方紙に取材された経験がありまして、その時の記者さんと今でもゆるく交流を持っていまして、その記者さんにも今回の件を話してみました。
記事になるかは別にして、取材はしてみるとのことでした。
ひょっとすると、何かしらの形で今回の動画の続報をお知らせできるかもしれません。
その時はまた当チャンネルからも情報発信をいたしますので、どうかよろしくお願いします。
一人の就職氷河期世代として思うこと
さて、最後に当チャンネルの趣旨である「就職氷河期世代のこれからを考える」という視点に立ったお話をして、今回の動画を締めようと思います。
社会人経験が20年以上ある私と同じような属性の人ですと、企業や自治体から不適切な振る舞いをされたとしても、それを見抜き、自衛していくことができるので、致命的なダメージを負うことは避けられると思います。
しかし例えば、何年も引きこもりをしていたとか、社会に出たことが全くないという人ですと、おそらく今回のような場面に遭遇しても、違和感を覚えることなく洗脳されてしまうやもしれません。
動画の冒頭で、「地域活性化雇用創造プロジェクト」など、いかにもろくでもない自治体と企業が癒着した税金チューチュースキームっぽいなどと揶揄してしまいましたが、それでもこのような自治体主導の雇用支援の恩恵を受けて、社会に参加するチャンスを手にできる人も多くいらっしゃることと思います。
百害あって一利なし、とまで極論を述べるつもりはありません。
どんな素晴らしい趣旨の施策であろうと、プロジェクトであろうと、人が集まれば不正や不適切な運用から生じる問題は出てくるものです。
それを怖がってばかりでは、いつまでも最初の一歩を踏み出せないでしょう。
可能であれば、家族やパートナーなど、利害関係が生じない信頼できる近親者と連携をしながら前に進んでいくのが、リスクを避ける意味で最も望ましいやり方であるように思います。
しかし、そんな協力者など身の回りにいないかたも、多くいらっしゃることでしょう。
私は残念ながら、そういった孤独且つ社会経験の乏しいかたが、安全に社会に出られるようなやり方を思いつくことができません。
締めのメッセージとして適切ではないとわかりつつも、私は、「派遣会社のような悪質な企業が、都合よく洗脳を試みてきた時、それを見抜いて自分を守り切る自信がないのであれば、部屋に引きこもっていた方がマシだ」と考えます。
これが、一市民としての私の結論です。
現状で思いつく限りの行動をし、頭をひねって考えてみましたが、こういう結論に至りました。
まだ登録者や再生数が少ない当チャンネルの動画で、それを期待するのは難しいと理解していますが、どうか今回の動画に関して、思うことや体験談、情報提供などございましたら、どんな些細なコメントでも書き込んでくださいますと幸いです。
Xのアカウントでは、DMもお受けしていますので、開かれた場では抵抗があるかたは、そちら経由でメッセージをお送りいただければと思います。
いつかは、私が配信する動画をきっかけに、コメント欄で議論や励ましあいができるようになることを、チャンネル運営の1つの目標としています。
まだ未熟なチャンネルではありますが、これからも何卒よろしくお願いします。
本日は本動画を最後までご視聴下さり、ありがとうございました。
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