疑問視される研究慣行(Questionable Research Practices, QRPs)
疑問視される研究慣行(Questionable Research Practices, QRPs)は、研究者がより好ましい結果や意図的に有利な結論を得るために、データや分析手法を不正に操作する慣行です。これらの慣行は、科学的な透明性や信頼性を損ない、誤った結論や再現性のない結果につながることがあります。以下では、それぞれの疑問視される研究慣行について詳しく説明し、具体例を挙げていきます。
事後仮説設定(HARKing: Hypothesizing After the Results are Known)
概要
事後仮説設定(HARKing)とは、研究結果が出た後に、その結果を支持するような仮説を設定し、あたかもその仮説が最初から存在していたかのように見せる行為です。これにより、研究者は結果を偶然や予測外のものであると認めるのではなく、意図的に説明するかのように装います。
具体例
例えば、ある研究者が新しい薬が病気の治療に効果があるかどうかを調べたとします。当初の仮説では、薬は全体的な健康状態を改善すると予測していましたが、結果は特定の年齢層にのみ効果があることを示しました。研究者は、この年齢層に関する新しい仮説を立て、もともとその年齢層だけに効果があると予測していたかのように発表します。この結果に基づいた後付けの仮説は、研究の透明性を欠き、信頼性を低下させます。
pハッキング (P-hacking)
概要
pハッキングとは、統計的に有意な結果(通常p値<0.05)を得るためにデータを操作することを指します。研究者は、分析の方法を繰り返し変更したり、データの一部を除外したりして、統計的に有意な結果を得ようとします。これは、結果の誤った解釈や無意味な結論につながる可能性があります。
具体例
例えば、ある研究者が10種類のデータセットを分析し、最初の分析では有意なp値を得られませんでした。しかし、変数の一部を除外したり、統計手法を変更したりすることで、いくつかのデータセットで有意な結果を見つけます。その結果を報告し、他の無関係な分析は無視します。これにより、実際には意味のない結果をあたかも有意であるかのように見せかけます。
チェリーピッキング (Cherry-picking)
概要
チェリーピッキングとは、研究結果の中から自分に都合の良い結果だけを選び、都合の悪い結果を無視または隠すことです。これにより、研究の全体像が歪められ、偏った結論が導かれる可能性があります。
具体例
例えば、あるダイエットプログラムの効果を調べる研究で、被験者の一部は大幅に体重を減らし、別の一部は体重がほとんど減らない、または増加しました。しかし、研究者が減量に成功した被験者だけを強調し、失敗した被験者の結果を報告しない場合、プログラムの効果が誇張されます。これがチェリーピッキングの一例です。
選択的省略 (Selective Omission)
概要
選択的省略は、統計的に非有意または矛盾する結果を意図的に報告しない行為です。これは、研究の信頼性や再現性を大きく損なう可能性があります。選択的にデータを省略することで、研究が示すべき正確な情報が伝わらなくなります。
具体例
例えば、ある薬の副作用についての研究で、研究者がポジティブな結果のみを報告し、重大な副作用に関するデータを無視することが考えられます。これにより、薬のリスクが正確に伝わらず、将来的に安全性の問題が発生する可能性があります。
データスヌーピング (Data Snooping)
概要
データスヌーピングは、望ましい結果が得られるまでデータを収集し続けたり、分析を繰り返す行為です。データが偶然に示すパターンに過剰に依存することで、研究の正確性が損なわれ、無意味な結果が意味あるものと見なされるリスクがあります。
具体例
例えば、ある研究者がサンプルサイズを徐々に増やしていき、特定のポイントで統計的に有意な結果を得たところでデータ収集を終了します。本来の仮説や事前計画に基づかないデータ収集の継続は、偶然の結果を本物の発見と誤解するリスクを増大させます。
これらの疑問視される研究慣行は、短期的には研究者にとって有利に働くかもしれませんが、長期的には科学全体の信頼性を損ない、再現可能性の問題を引き起こす原因となります。したがって、透明性と一貫性を保つことが重要です。
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